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少年期~後編~

結婚式にて

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 卒業式を終え、数日後……。

 いよいよ、この日がやってきた。

「アレス様、準備はいいですか?」

「ああ、カエラ。じゃあ、留守をよろしくね。オルガと仲良くね、俺たちもいないから」

「ア、アレス様! そんなことしません!」

「いやいや、仲良くしてくれないと。オルガ、明日には領地に帰るんだよ? 一応、告白を受けたんでしょ?」

「そ、そうですけど……」

 どうやら、カエラに本気のプロポーズをしたらしい。
 一度領地に帰るし、俺に感化されたと言って。

「これから離れ離れになるんだからさ。今のうちに楽しんだ方が良いと思うよ?」

「それはそうですけど……うぅー……みんな大人になりすぎですよ」

「一度しか言わないけど……カエラは、ここに残るで良いのかい?」

 オルガとカエラが望むなら、そのまま領地に連れて帰ることも許可するつもりだった。
 もちろん俺も寂しいし、エリカは泣き叫ぶけど……。

「はい、それは決まっています。オルガ君の方から提案もしてくれましたよ」

「そっか、なら俺から言うことはないね。中々に良い男を捕まえたね?」

「もう! ほら! 遅れちゃいますよっ!」

「はいはい、行きますよ。今から、この家に二人きりだからねー?」

「あわわっ!? もう! 怒りますよ!?」



 追い出されるように部屋から出て、一階へ降りる。

「アレス様」

「やあ、オルガ」

「聞こえてますからね?」

「あれ? 聞こえるように言ったつもりだけど?」

「参りましたね……でも、ありがとうございます。中々、遠慮がちな女性なので」

「あの子は真面目だから、誰かが発破をかけないとね。助言をするなら、多少強引な方が良いかもね。もちろん、嫌がらない範囲で」

「ええ、わかっております」

「アレスー! 行くわよー!?」

「おにぃちゃんー!」

 玄関の外から声が聞こえてくる。
 どうやら、カエラをからかいすぎて時間が経ってしまったようだ。

「じゃあ、行ってくるね」

「ええ、いってらっしゃいませ」
 

 家を出て、二人と合流する。 

「あらあら、ようやくきたわね」

「おにぃちゃん! おそいお!」

「悪かったよ、エリカ。ほら、行こうか」

 エリカを抱き上げ、馬車に乗り込む。

「では、参ります」

 カイゼルが馬を走らせ、馬車は走り出す。

 ……ヒルダ姉さんの結婚式場へと向かって。



 結婚式場に到着すると……。

「「アレス様!」」

 二人の婚約者が、俺を待っていた。
 それも、普段とは違う装いで。

「二人共、綺麗だね。よく似合ってるよ」

「あぅぅ……」

 カグラは髪の色に合わせた真っ赤なドレスを着ている。
 化粧もしていて、いつもとは違いお淑やかに見える。
 まさしく、侯爵令嬢に相応しい装いだ。

「はぅ……」

 セレナの方も、色を合わせた青のドレスを身に纏っている。
 化粧をする事で、グッと大人っぽくなっている。
 これなら、誰も平民だと思わないだろう。
 ここ数日の貴族のお稽古が効いてるみたいだ。

「あらあら、我が息子ながら心配になるわ」

「おにぃちゃん! わたしは!?」

「エリカも可愛いぞー」

「わぁーい!」

「これは敵いませんね」

「えへへー、そうだね」

 俺達が話してると……見知らぬ男性が近づいてくる。

「皇族の方々のお話中、申し訳ありません。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「アレス様、フランベルク侯爵家子息にして、ヒルダ様の婚約者であるロンド様です」

 カイゼルから耳打ちされる……そうか、この方が。
 金髪の優男風の男性で、穏やかそうな雰囲気を感じる。
 これが演技じゃないなら、ヒルダ姉さんも幸せになれそうだ。

「ええ、大丈夫ですよ。何か用事ですか?」

「貴方に一目会いに来ました。少し、お話をしてもよろしいですか?」

 俺に話……? まあ、まだ時間には少し余裕はあるが。

「アレス、私達は先に言ってるわね」

「おにぃちゃんはー?」

「エリカ様、行きましょう。アレス様は、大事なお話がありそうですから」

「エリカ様、手を繋ぎませんか?」

「うんっ!」

 俺とカイゼルを残し、みんなは先に行った。

「気を遣わせてしまい、申し訳ありません」

「頭をあげてください。姉上の婚約者なら、義兄となるのですから」

「そう言ってくださるのですか……なるほど、彼女の言った通りだ」

「はい?」

「いえ、ヒルダ様……いえ、ヒルダさんが言っていたのです。アレス様は可愛い弟で、きっと私とも仲良くしてくれると。他にも色々と楽しそうな思い出話を聞かせてもらいました」

「なるほど、それは申し訳ない」

 ねえさーん! 何してんの!?
 婚約者に弟の話を楽しくしてるとか!?

「良いのです。とっても楽しいのが伝わってきましたし、姉弟で仲が良いのは羨ましいですから」

「そう言って頂けると嬉しいです」

「それでは、これからも仲良くして頂けますか? ヒルダさんも喜びますから」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。そして、ヒルダ姉様をお願いします」

「かしこまりました。話せて良かったです。色々と煩い人もいますからね……式が終われば、そんな暇もありませんし。それでは、失礼いたします」

「ええ、ではまた」

 きちんと礼をして、ロンドさんは去っていく。

 ……あれで演技だったら相当な曲者だな。

 あれが演技じゃないことを願うばかりだ。

 そうすれば……ヒルダ姉さんも、大事にしてくれるだろう。



 その後、滞りなく式は始まる。

 白のドレスを見にまとったヒルダ姉さんは、紛れもなく綺麗そのものだった。

 俺は話すことはなかったが、こちらに歩いてくる際に一度だけ目が合った。

 そして、軽くウインクをしてみせた。

 全く……花嫁が何をしてるんだが。

 でも、隣のロンドさんが少し微笑んでいるのが見える。

 そうか……今のは『私は幸せよ』ってことなのか。

 そして、優しそうなロンドさんとヒルダ姉さんが、誓いの言葉を口にして……。

 二人は晴れて夫婦となった。

 その時、俺の目からは大粒の涙が溢れ落ちていた。

 これまでの、様々な想いが溢れてきたかのように。

 ヒルダ姉さん、貴女に会えて良かった……どうか、お幸せに。
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