上 下
71 / 257
少年期~後編~

最終試験開始

しおりを挟む
 それぞれの兵士達が配置につき、いよいよ試験開始となる。

 もし仮にオーガやトロール、ワイバーンなどがいれば騎士達が相手をする。

 生徒達は、ゴブリンやオークを倒せば良いと。

  ただ今回の目的はそれではない、大事なのは結界を見るということだ。

 さらには、クラスのランクごとに進む距離が違う。

 下のクラスは女神の結界さえ確認できれば良いが……。

 俺達は、そうはいかないようだ。


「貴方達はSクラスです! 今年の卒業生の代表でもあります! なので、きちんと結界の前まで進んでもらいます! そして、魔物が出たなら自分達で判断してください! 私達に助けを求めるもよし! 騎士さん達に頼るのもよし! 自分達で倒すのもいいでしょう! 貴方達はいずれ、人の上に立つかもしれません! そのためには、実戦での迅速な対応を求められます!  それらの判断も含めて、最終試験となりますっ!」

 それぞれが、緊張感を持って頷く。

「皆さん、良い表情ですっ! それでは、準備をしてください!」

 それぞれ、武器や防具の確認をする。

「それ、前とは違う刀ですよね?」

「ああ、身長が伸びたからね。カエラが新しいのをくれたよ」

 刃渡り六十センチくらいの刀だ。
 柄と刀身を合わせて九十センチってところか。
 こうなると普通の刀サイズに近い。

「実は、僕もカエラに貰いまして……」

 そう言い、荷物から鞘を取り出す。

「むっ、小刀というやつか?」

「いえ、カグラさん。脇差というらしいです」

「なるほど、槍では戦えない場所でもあるからな。それなら小回りが利く」

「カイゼル殿の稽古の合間に、少し手ほどきを受けまして……」

「凄いやる気ですねっ!」

 あの大会から、オルガはカイゼルに稽古をつけてもらっている。
 さらには、刀の鍛錬まで……よっぽど悔しかったと見える。

「なぜ、アレス様から教わらないのだ?」

「えっと、いや、その……」

「俺が教えない方が良いと思って。せっかくのカエラとの時間だし」

「アレス様!?」

「えへへー、分かりますよー。わたしもアレス様と鍛錬したいですもん」

「うむっ! 拙者もなのだっ!」

「もう、良いです……」

 うん、俺を含めてリラックスしているな。
 これなら、良い状態で試験に臨めそうだ。


 そして……移動が始まる。

 ある程度進んだところで、光の結界が目に入る。

「あ、あれが……女神の結界……!」

「す、すごい魔力……えっ?あれを維持するのは一体どれだけの……」

 初めて見る二人は、呆然と眺めている。

「懐かしいのだ」

「そうだな、あれから三年以上か」

 ん? ……気のせいか? クロスが反応したような?
 ……気のせいか。

 先に進むにつれて、下のクラスの生徒達が引き返していく。

 魔物に会うこともないようだが、別にそれが一番の目的ではないから良いのだろう。
 個人的には、きちんと結界の確認をし、これからの時をどう過ごすかということを考えるのが一番大事なんだと思う。


「いよいよ、僕達だけになりましたね」

「ああ、そうだな。しかし、こうしてみるとすごいな……」

 近づくと、その魔力の圧に腰が引けそうになる。
 これでも結界が弱まってるっていうんだからな……。

「拙者も、ここまでくるのは初めてなのだ」

「瘴気も凄いよね……」

 セレナの言う通り、結界の下から黒いモヤが漏れている。

「へっ! びびったなら帰ればいい!」

「そうだそうだっ!」

「どうでもいい」

「お、オイラは……」

 やかましいのが、サガンとロレンソ。
 無愛想なのが、子爵家のアスナ。
 おどおどしているのがエルバか。
 珍しいな、あいつらから寄ってくるなんて……。

「どうした? いつもなら無視しているのに」

「べ、別に! 関係ねえし!」

「足を引っ張らないように注意しに来ただけですよ!」

「私はどうでもいい、帰りたい……はぁーでも、帰ったら怒られる」

「お、オイラも……」

 どうやら、彼らも緊張しているようだな。
 それを誤魔化そうとしているのかも。

「皆さん! お静かに! こっからは、いつ魔物が来るかわかりませんっ! なのでこの方に来ていただきます! お願いしまーす!」

 すると……クロイス殿が、こちらにやってくる。

「アレス様、馬上にて失礼いたします。そして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「気にしなくて良いですよ、クロイス殿。今の俺は、ただの一学生ですから」

「そうでしたな、貴方はそういう方でしたね。では、例のお話は後ほどということで……ここからは、私が案内いたします」

 まさしく歴戦の勇士に囲まれ、俺達は結界へと近づいていく。

「さて……きますぞ」

 クロイス殿の言う通り、あちこちから瘴気が溢れ出る。

「皆さん! 回復は先生に任せてください! 絶対に死なせないので安心して戦ってください!」 

「皆の者! 陣形を整えろ! 次の世代を担う子達を守り抜け! そして—— 次世代の若者に我らの力を見せるのだっ!」

「ウオォォォ——!!」

 俺達も四人で陣形を整える。

「カグラ、君が前衛だ——全てを粉砕しろ」

「任せるのだっ!」

「セレナ、君に言うことはない。自分がここだと思った箇所に魔法を」

「はいっ!」

「オルガ、君にはセレナの護衛を頼む。さらには俯瞰的に見て、俺達に声掛けをお願いしたい」

「わかりましたっ!」

「俺はカグラの背中を守るとしよう。色々と心配な子だからね」

「むぅ……複雑なのだ」

 俺も武器を構えて戦闘態勢に入る。

 カイゼルも言っていたが、実戦に勝る鍛錬はない。

 どこまでやれるかわからないが——今が俺達の集大成を見せる時!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。 俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない! 魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...