上 下
69 / 257
少年期~後編~

父上に報告

しおりを挟む
 あまりの変わりように気になった俺は、父上の元を訪ねることにする。

 あと、二人と婚約することを伝えなくてはいけない。

「これはアレス様!」

「試合みてましたよっ! おめでとうございます!」

 門の入り口にて、以前と同じ兵士さんが言う。

「ありがとう、二人共。通って良いかな?」

「はいっ! もちろんです!」

「どうぞ、お通りください!」

「いつもご苦労様。それじゃ、失礼するよ」

 門をくぐり、城の中に入る。

 歩くたびに、あちこちから声がかけられる。

「おめでとうございます!」

「素晴らしい戦いでしたっ!」

「ありがとう、みんな」

 そんな嬉しい声と……。

「調子に乗って……」

「なに、どうせ他国に行くから平気さ」

「政治には関わることはないだろうよ」

 と言った声も聞こえてくる。

 まあ、全ての人に好かれるなんて無理だからな。

 こればかりは仕方あるまい。



 そして、父上の私室の前に到着する。

「ゼトさん、こんにちは」

「ええ、アレス様。試合、お見事でしたね」

「ゼトさんに言われると嬉しいですね」

 何せ、兄弟子みたいなものだし。
 たまに稽古もつけてもらっているし。

「もうそろそろ、私が教えることもなくなるでしょう。おっと、いけない。では、どうぞ」

「ありがとうございます。父上、失礼いたします」

「うむ、入るが良い」

 扉を開けて、部屋に入る。

「きたか、アレス。まずは改めておめでとう。皇帝として、父として嬉しく思う」

「ありがとうございます、父上。それでですね……」

「報告は聞いている。すまなかった」

「いえ、父上が謝る事ではないですよ。それにしても、あの変わりようは?」

「俺も詳しくはわからない。帰ってきたらあの状態で、こっちが驚いたくらいだ。しかし第二皇妃や宰相あたりが驚いてないところを見ると……」

「父上にだけ、情報が行っていなかったと? そんなことが可能な者は……」

「ああ、一人しかおらん……ターレスが動き始めたのかもしれん」

「いよいよですか……まあ、時間は稼げた方ですけどね」

「うむ、一応二年半はな。しかし、その理由がわからない。何故、あのようにしたのか」

「自分からということは? 自分で言うのもなんですが、ああいうことに興味を持つ年頃です。その快楽に溺れたのでは? あの体型は、各地で甘やかされた結果なのでは?」

「なるほど……ターレスは関係ない場合もあるか。性格まで変わってしまったのは、それらが原因かもしれないな」

「あの年頃は、周りの環境次第でどうとでも変化しますからね」

「相変わらず大人みたいなことを言う……いや、大人だったんだな」

「まあ、それなりには。ということは、様子見ということで?」

「うむ、しばらくはな。こっちでも調査を行うとしよう。もし何か理不尽なことを言ってくるようなら、遠慮なく叩き潰して良い——俺が許可する」

「ありがとうございます、それが聞ければ安心です。なぜなら……婚約者になりましたし」

「……なに? ま、待て、侯爵家の娘ではなくて?」

「カグラにも婚約を申し込みましたよ。そして、セレナにも。今日は、その報告もあって参りました」

「な、なんと……それでか、一人前みたいな男の顔になっているのは」

「だとしたら良いんですけどね。今から挨拶に行くと思うと……ブルブルします」

「ふははっ! アレスにも怖いものがあったか! ……いや、それだけ大事に思っているということだな。おめでとう、アレス」

「ありがとうございます。それでですね、クロイス殿にお伝えしたいのですが……」

「わかった、俺の方で手紙を書いておく。あっちは首を長くして待っているだろうしな」

「随分と待たせてしまいましたからね。ですが、ようやく覚悟が決まりました」

「国としてもブリューナグ侯爵家と繋がりが出来るのは好ましいことだ。フランベルク侯爵家にはヒルダが嫁ぐし……うむ、悪いことではないな」

「ヒルダ姉さんは、いつ頃結婚するのですか? そして……お相手の方はどんな方なのですか?」

 今まで一度も聞いたことはない。
 無意識のうちに避けていたのだろう。
 だが、今なら問題ないはずだ。

「ほう?  ……吹っ切ったと見えるな」

「えっ? ……気づいていたのですか?」

「当たり前だ、こう見えてもお前の父親だぞ?」

「そ、そうだったんですね……もしかして、他の人も?」

「いや、俺とエリナくらいだろう……もしくはカイゼルか」

「ハハ……申し訳ない」

「いや、そういう例もあることはあるしな。それにお前の前世の話や、お前の立場からいって無理のないことだと判断した」

「そう言ってもらえると助かります」

「相手はロンド-フラムベルク、フラムベルク侯爵家の長男だ。歳は十六歳、細身の青年で性格は温厚で優しいと評判だそうだ」

「ほっ……良い人そうで良かった。しかし、フラムベルク家にしては……」

「うむ、かの家は真の皇族は自分達だと思っている。しかし、実際に行動に移すこともない。しっかりと王国から我が国を守っている」

「変ですよね、色々と。代々それを主張しつつも、実際にはなにもしない」

「そんなことを言っても、良いことはないのにも関わらずな」

「反乱を疑われるだけですからね。それも含めて姉上ということですか?」

「うむ、彼奴なら問題あるまい。己の成すべきことをわかっているはず」

「できれば、普通に幸せになってもらいたいものです」

「もちろん、俺とて同じ思いだ。父親して、普通の幸せを願っていた。しかし本人が言い出したことでもある。私が本国との架け橋になると」

「一度決めたら曲げませんからね……ヒルダ姉さんらしい」

「全くだ……頼りになる娘だよ。結婚式は、お前達が卒業する辺りに行われる」

「わかりました。では、会うのを楽しみにしていますかね」

 ヒルダ姉さんを幸せにしてくれそうな人だと良いけど。

   ヒルダ姉さんが大事な人ということに変わりはないのだから。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

緑の魔女ルチルの開拓記~理想の村、作っちゃいます! 王都に戻る気はありません~

うみ
ファンタジー
 緑の魔女と謳われた伯爵令嬢ルチルは順風満帆な暮らしを送っていた。  ところが、ある日突然魔力が消失してしまい国外退去の命を受けることに。  彼女が魔力を失った原因は公子と婚約したい妹による陰謀であったが、彼女が知る由もなかった。  令嬢としての地位を失い、公子との婚約も破棄となってしまったが、彼女は落ち込むどころから生き生きとして僻地へと旅立った。  僻地に住む村人は生気を失った虚ろな目をしており、畑も荒れ放題になっていた。  そこで彼女はもふもふした大賢者と出会い、魔力を取り戻す。  緑の魔女としての力を振るえるようになった彼女はメイドのエミリーや一部の村人と協力し、村を次々に開拓していく。  一方、彼女に国外退去を命じた王国では、第二王子がルチルの魔力消失の原因調査を進めていた。  彼はルチルの妹が犯人だと半ば確信を持つものの、証拠がつかめずにいる。  彼女の妹はかつてルチルと婚約していた公子との婚約を進めていた。    順調に発展していくかに思えた僻地の村であったが――。 ※内容的には男性向け、女性向け半々くらいです。

処理中です...