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少年期~後編~

第2皇子ヘイゼル

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 一体、何の用だ?

 ヘイゼルが俺を訪ねてくるとは。

 そもそも、ここ数年は関わることもなかったというのに。

 しかし、嫌な予感しかしない。



 ひとまず、建物から出ると……。

「おい!? いつまで待たせる気だ!?」

「も、もう少しお待ちください!」

「侯爵の娘か……見た目は悪くないが貧相な身体をしおって! あの出来損ないにはお似合いだな!」

「くっ……!」

「なんだ!? その文句がありそうな面は!?」

 ……誰だ? あの豚は?

 そして——今、なんと言った?

「おい、豚野郎——殺すぞ」

 一瞬で間合いを詰め、カグラの前に立つ。

「ア、アレス様……」

「ごめんね、カグラ。もう平気だから」

「なっ——!? 兄に向かって何という口を!」

「……なに?」

 俺はそいつの足元から顔までを眺める。
 俺と似たような身長だが、体型はまるで違う。
 足は短いし、腹は出てるし、顔もパンパンである。
 いや、こんな奴は知らないぞ?

「アレス様、間違いなくヘイゼル皇子です」

 カイゼルが耳打ちをしてくる。

「まじか……何があった?」

 いや——今はどうでもいい。

「おい! 何をコソコソしておる!」

「これはこれは、ヘイゼル兄上でしたか——見違えましたね」

「うむ、そうであろう!」

 ……本当に何があった?
 学校を卒業して一年で何があった?
 確か、国の重役になるための勉強をしているはずだ。
 そのため、国を離れて地方を回っていたと。
 それらは、いずれ皇位につくライル兄上を支えるために。

「それで、何の用で?」

「なに、簡単な話だ——その後ろの娘を寄越せ。私が可愛がってやる」

「ふえっ……? わ、わたしですか?」

 ……堪えろ。
 まずは話を聞いてからだ。
 事と次第によっては——覚悟を決める。

「それは、どういう意味ですか?」

「まだ子供のお前にはわかるまい。だが、優しい兄が教えてやる。その女は処女であろう? だから、私がもらってやる。平民の分際だが、真の皇族である私に初めてを捧げる栄誉を与えてやるぞ?」

「…………」

 あまりの怒りに言葉を失う。

「久々に国に帰ってくれば……大会にて見ておった。良い身体つきなりおって……本当は呼び出しても良かったのだがな。この私が直々に来てやったぞ」

 セレナの身体を舐め回すように見ている。

「ひっ!?」

 俺はセレナを隠すように、豚野郎の前に立つ。

「出来損ない? 邪魔をする気か?」

「何があってそうなったかは知らないし、知りたくもない。だが、ひとつだけ言えるのは——貴様のようなクズにセレナは渡せない」

「アレス様……」

「おい? 勘違いするなよ? 俺はお願いに来てるじゃなくて、決定事項を伝えに来たんだぞ?」

「知るか、そんなもの。いいか? 一度しか言わないからよく聞け——セレナは俺の女だ! もし手を出すなら俺を殺してからにしろ」

 全身から魔力が溢れ出す!

「あ、あぅぅ……」

「な、なんだと?この兄に逆らうと?」

「逆らうも何もない。皇太子でないなら、俺とお前は対等だ」

「私は伯爵家と皇族の血を引いている! 貴様のような出来損ないとは違う!  大会で優勝したからといって調子にのるなよ!」

「母上はれっきとした第三皇妃だ。それは皇帝陛下が認めている。そして聖痕がないだけで、俺は正当な皇族だ。お前となんら変わりはない」

「屁理屈を述べおって……!」

「いや、当たり前のことを言ったまでだ」

「おい! こいつを連れて行け!」

 後ろにいる兵士たちが動き出そうとする。

「死にたい奴だけ前に出ろ」

 全身に炎を纏う。

「くっ!?」

「こ、ここは退いた方がいいかと! カイゼル殿もいますし!」

 兵士の一人が、豚に話しかける。
 俺の横には剣を構えたカイゼルがいる。

「皇族である私に剣を向けるとは!」

「我が主君はアレス様のみ。たとえ皇帝陛下であろうとも、アレス様に危害を加えるならば——斬る」

「な、なっ——!?」

「よく覚えておけ……! セレナは——俺の婚約者だ。それに手を出せば、いくらなんでもわかるよな?」

「チッ! 平民ごときの女が婚約者! 貴様にはお似合いだな! ほら! 行くぞ!」

 そう言い、ようやく立ち去る。

「ふぅ……やれやれ」

「あ、アレス様……」

「あっ——ごめんね、セレナ。勝手に言っちゃって……」

「い、いえ!」

「ごめん、ちょっと待ってね。順番を間違えちゃったから」

「はいっ!」

 俺はカグラの元に向かう。
 その姿は、どう見ても落ち込んでいる。
 今も、ずっと下を向いたままだ。

「アレス様……拙者は」

「カグラ、待たせちゃったけど……俺と婚約してほしい」

「へっ?」

「ダメかな?」

「で、でも、拙者はセレナと違って貧相な身体だし……」

「あんなクズの言うことなんて気にしなくていい。カグラの魅力は俺が知ってるから」

「拙者の魅力ですか……?」

「明るいし、元気が良いし、何事にも真っ直ぐだし、負けず嫌いなところも良いし——まあ、俺からしたらただの可愛い女の子ってことだよ」

「あぅぅ……」

「返事はもらえるかな? 俺は君が好きなんだ」

「は、はぃ……アレス様が好きです! よろしくお願い申し上げます! うぅー……」

「良かったねっ!」

「セレナも良いかな? どうやら、俺は欲張りのようだ。もちろん、仮という形にはなっちゃうけど……」

 流石に平民ということもあるし、カグラの方が優先されるだろう。

「はいっ! わたしはそれだけで嬉しいですっ! ずっと好きだったんですから!」

「ありがとう、俺も君が好きだよ」

「これで二人でアレス様のお嫁さんになれるのだっ!」

「夢が叶ったねっ!」

 突然のタイミングではあるが、もうすでに気持ちは決まっていた。

 あとは、俺の覚悟の問題だと。

 今回優勝したことで、俺の覚悟は出来ていた。

 だから、どっちしろ言うつもりではあったが……。

 しかし、あの変わりようは一体……?
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