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少年期~後編~

親子の会話

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 ライル兄上が去った後……。

「父上、いつまで見ているんですか?」

「おっと、気づいていたか。ライルは気づいていなかったが」

「俺は気配には敏感ですからね。そういう生活をしてましたし」

「それはそれで複雑だな……」

「それより、どうしました? ゼトさんがいるとはいえ、こんなところに」

 後ろの方にゼトさんもいるのが確認できる。
 俺に軽く会釈をして、会話には参加しないようだ。

「食べる時間もなくなるから手短に。よくやった、アレス。まだ戦いは続くが、どうしても一言言いたかったのだ。そして、ライルのことも……お前が助言をしてくれたからだ」

「ありがとうございます。全く、しっかりしてくださいね? 子供っていうのは、父親の影響を受けて育つんですから」

「うっ……肝に命じよう。それを息子に言われるとは……ハァ、父親失格かな」

「そんなことありませんよ。俺は父上を尊敬してますから。きっと、苦しいことだらけの日々でしょう。その中でも、父上は腐ることもなくこの国を良くしようと努力なさっています」

 さらには周りは敵だらけの世界で、俺たちを守りながら戦ってきたはず。
 やることなすこと全てが上手くいかず、苦しかったに決まってる。

「アレスゥゥゥ!」

 力強く抱きしめられる。

「相変わらず暑苦しいですね……まあ、良いですけど」

「ふふ、アレス様照れてますね?」

「ゼトさん!」

「おっ、そうなのか?」

「知りませんよっ! ほら、ゼトさんがきたってことは……」

「ええ、お時間です。アレス様もお食事を取らないとですし。戦いにおいて、それは重要なことですから」

「うむ……では、アレス。俺はいつでもお前を見ている——頑張れよ」

「はいっ!」

 俺は急いで母上達の元へ行くのだった。



 当たり前の話だが、皇族なのでVIP席となる。

 ただ母上が嫌がったので、父上や第二王妃とは別のところにしてもらった。

 父上はしょんぼりしてたけどね……。

「おにぃちゃん!」

「おおっ、エリカ」

 飛び込んでくる天使を抱き上げる。

「しゅごいねっ! カッコいいのっ!」

「そうかそうか、それは良かった」

 ウンウン、今日も元気で良いことだ。
 子供は元気で素直なのが一番だ。
 いずれは、嫌でも色々知っていかなきゃいけないからな……。

「アレス様、お見事でしたねっ!」

「カエラもありがとね」

「あ、あのう……」

「大丈夫だよ、オルガなら。彼はあんなことではへこたれない。仮にへこんだとしても、必ずや立ち直ってくれるさ。彼は、俺が唯一認める男の子だからね」

 オルガの精神力は、大人を経験した俺から見ても尊敬に値する。
 普通だったら、どこかで折れていただろう。
 しかし悔しがっても、折れたことはない。

「アレス様が何か言ったんですね?」

「さあ、どうだろ? ただ……これからは、彼がうちに来ることが多くなるということだけは言っておくよ」

「へっ?」

「あと、もしかしたら告白されるかもしれないから覚悟しときなね?」

「ええぇー!?」

 みるみるうちに顔が真っ赤になる。
 さて、この辺にしとくかね。
 あとは、オルガ次第だ。

「アレス様、お見事です。目ではなく、意で捉えることを実践しておりましたな」

「ありがとう、カイゼル。うん、気配でわかるようにしとかないとね。どのような形になるかはわからないけど、少なくとも俺は指揮官クラスにつくと思う。そのためには、そういうことも必要になるし」

「わかっているなら私から言うことはございません」

「おにぃちゃん! お腹減ったおっ!」

 それまで良い子にしていたが、流石に我慢しきれなかったようだ。

「おっと、悪い悪い。じゃあ、お昼ご飯を食べるとしよう」



 ひとまず座り、皆で食事をとる。

 そして食べ終えると、エリカが寝始めたのでカエラに預ける。

「アレス、よく頑張りましたね」

「はい、母上」

「私、初めて見たからハラハラしちゃったけど……もう立派な男の子なのよね」

 そうか……成長してから、実際に戦う場面を見せるのは初めてだったか。
 カイゼルとの稽古も、激しさを増してからは見ていない。
   心配で心臓に悪いからって……。

「まだまだ精進が必要ですが……少なくとも自分の身を守れるくらいには」

「ふふ……あんなに小さかった貴方が。暗殺から、カエラと2人で震えながら過ごした日々が嘘のよう……」

「母上……」

 俺が生まれる前の話か……初めて聞く。
 あまり良い思い出ではないだろうから。

「すぐにカイゼルを手配してくれたけど……最初は怖かったし」

「申し訳ない」

「ううん、こちらこそごめんなさいね。カエラ以外知り合いがいない土地で、私はただ孤独だった。ラグナは私の側にいようとしたけど、それが余計に苦しかったわ。でも、貴方を妊娠してから変わったわ」

「えっ?」

「怖いことは怖いけど、貴方を失う方が怖かったから。自分が死んでも、貴方を殺させはしないと誓ったわ。きっとその時になったら、身体が動いてしまうわね」

「…………」

 何をそんなバカなとは言えない。
 俺は結衣を助ける時、自然と身体は動いていた。
 今思うと、きっと彼女を失うことが怖かったのだろう。

「ふふ、母は強いのよ? 貴方がいたから強くなれたの。ありがとう、アレス。私の子供に生まれてくれて……少し寂しいけれど、貴方が成長して嬉しいわ」

「……ありがとうございます」

 泣きそうになるのを堪え、言葉を絞り出すのが精一杯だった。

「きっと、貴方と過ごす時間はそう長くはないわ。男の子は自分の家庭を持って、家を出て行くものです。だから……もう少しだけ、私にお母さんをやらせてね……」

 そう言うと、俺を優しく抱きしめる。
 恥ずかしいと思ったが……ここには家族しかいない。

「はい……しかし、俺はどこに行こうと母上の息子です」

「嬉しいこと言って……ありがとう、アレス」

「いえ……あっ」

『まもなく午後の試合を開始いたします。学生の皆さんは、指定の位置にお戻りください』

 館内放送が流れてくる。

「アレス、いってらっしゃい」

「ええ、行ってきます」

 俺が出て行こうとすると……。

「アレス様、わかっておりますな?」

「カイゼル……ああ、もちろんだ。たとえ誰が相手だろうと全力で戦うさ——楽しみつつね」

「それなら良いです。では、いってらっしゃいませ」

 慢心でもなんでもなく、俺はエルバには勝つだろう。

 運とかそういうレベルの話ではない。

 しかしカグラとセレナは別だ、もちろんオルガも。

 決勝戦では、俺はセレナかカグラと戦う。

 本気でやらなかったら、あの2人に合わす顔がないからね。
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