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少年期~後編~

オルガ対カグラ

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 試合を終えた俺は、仲間達と目が合う。

 その目にはおめでとうという気持ちと……。

 自分達も負けらていられない!という強い意志が感じられた。

 俺は静かに頷き、リングから離れる。

 すると……。

「お、おい!!」

「ん? どうした?」

「なにを勝って当たり前って面してやがる……!」

「そんなつもりはないが……君は、これまで何をしてきたんだ?」

「あぁ!?」

「俺への対抗心を燃やすのは良い。家の意向に従うのも良い。しかし、君はこの数年間何をしていた? 後輩を虐めたり、平民相手に威張ったり……そんなことをしている奴に、俺が負けるわけがない。いや、俺達が負けるわけがない。君ではカグラはおろか、オルガやセレナの相手にもならないよ」

「お、俺が男爵子息や平民ごときに負けるだとっ!?」

「ああ、なんなら賭けても良い。そして、これからの試合を見ていると良い。俺の言っていることが、嘘かどうかをな……」

「くっ……! クソォォ——!!」

「その悔しさをバネにしなかったのが君の敗因だよ」



 俺はその場を離れて、少し深呼吸をする。

「少し大人気なかったかな……でも、もうそろそろ子供だからと済ませられることじゃない」

 ここで改心しないようなら……もう無理だろうな。

 

 そしてエルバとアスナが戦い、エルバが勝ち上がる。

   俺の相手はエルバか……油断さえしないれば負けることはない。

 次は……オルガとカグラの戦いである。

「ふむ、オルガが相手か」

「カグラさん、手加減はなしですからね?」

「そんなことはしない——拙者は、アレス様を超えなくてはいけないのだ」

「僕も負けられませんよ? アレス様に認めて頂かなくてはいけないので」

 二人とも、それぞれ獲物を構えて対峙する。

「では……始め!」

 二人とも全身に魔力で薄い膜を作る。
 うん、二人ともバランスが良い。
 どこかに一点に集中するのは、攻撃の最後の瞬間だけでいい。

「ハァ!」

「セィ!」

 リング内を駆けて、二人が激突する。

 かたや大剣を振り回し、かたや槍で応戦する形だな。

「相変わらず上手いのだっ!」

 カグラが怒涛の攻撃をするが、オルガは最小限の動きでいなす。

「相変わらず重たいですねっ!」

「お、重たいとか言うなっ!」

「も、申し訳ない!」

 カグラの攻撃を、オルガは華麗な槍さばきでいなしていく。
 さらには、カグラが大技に移る瞬間を狙い……そこを突く形だ。
 ときに下がり、ときに攻める……確立したオルガの戦闘スタイルだな。


 カグラは相手が倒れるまで、ひたすらに攻める戦闘スタイルだ。
 あまりある魔力と、それを扱うことができる強靭な身体。
 はっきり言って、カグラ以外には無理だろう。


 そうなると……こうなるよな。

「ハァ、ハァ、ハァ」

「ふぅ……はぁ……」

 戦いは長引き、双方疲れが見えてくる。

「せ、攻めきれないとは……やるのだ」

「受けるのが精一杯ですね……流石です」

「ウォォォ!」

「すげーよっ!」

「先生より強いんじゃねえ!?」

「オルガ君ー! カッコいいー!」

「カグラお姉様ー! 負けないでー!」

 うん、二人は人気者だなぁ。

 カグラは後輩女子から圧倒的な支持を得ている。
 その男前な性格と、侯爵家出身ながら、他者を見下さない姿勢から。
 最初は馬鹿にされたり、避けられていたが……今では、この様子である。

 オルガは単純にモテる……うん、モテる。
 紳士的な態度に、甘いマスクの持ち主。
 男爵だが、由緒ある家の者だ。
 年上受けもよく、上位貴族から婿にと誘われることもある。
 本人には、その気は無いけどね。

 ……ちなみに、俺は人気がない。
 いや、別に良いんですけどね。


 そして一進一退の攻防が続き……決着の時が来たようだ。

「攻撃から攻撃へと……アレス様のようにはいかなくても……」

「クッ!? 流れが止まらないっ!」

 カグラは大剣を振り回すのではなく、
 ギリギリで制御しつつも、流れるように……そう、俺のように。

「……今なのだっ!」

 嵐のような攻撃にオルガの魔力に乱れが生じる——その隙は致命的だ。

「かはっ!?」

 槍ごと叩き折り、大剣がオルガに叩き込まれる!

 俺は前もって準備をしていたので、場外に飛ばされるオルガを受け止める。

「おっと……」

 思ったより、ダメージがない。
 おそらく、食らう直前に下がったのだろう。
 ……いやはや、その冷静な判断には恐れ入るな。

「オルガッ!? 平気なのだっ!?」

「今、治療しますねっ!」

「カグラさん……強いですね、貴女は。羨ましいほどに……真っ直ぐで」

「お主だって強かったぞ? 拙者、アレス様以外に苦戦するとは思わなんだ。いくらオルガと言えどもな……これでも、追いつかれないように必死なのだ。だが——アレス様の右腕の座を譲るつもりはないのだっ!」

「カグラさん……ならば、左腕として負けてられないですね……!」

「えへへ、二人とも凄かったですねっ!ちなみに、わたしはアレス様の後ろを守りますっ!  ……これで良しっと、大した傷ではないですね。オルガくん、立てますか?」

「セレナさん、ありがとうございます。ええ、平気……くっ」

「おっと……俺があっちに連れて行くよ」




 オルガに肩を貸し、端の方に座らせる。

「あ、アレス様……情けないところを……」

「何を言うんだい? あれだけの戦いを出来る者がどれだけいる? 見事な守りと攻めだった……が、最後に気を抜いたね?」

「え、ええ……まだまだ精進が足りないようです。やはり、まだ僕には資格が……」

 オルガは暗い顔をしている……。

「資格ってなんだい?」

「……カエラさんのことです。気持ちはお伝えしましたが、最近は会いにも行っておりません。以前言ったように、エリカ様のこともありますが……僕は、貴方に認めてもらうまでは……貴方の大事な方であるカエラさんに求婚する資格が……」

 そうか……そんなことを思っていたのか。
 いや、これは俺が悪かったな。
 オルガの真面目な性格を考えれば、それくらいのことはするだろうに。

「言っておくけど……俺は、とっくにオルガのことを認めているからね?」

「えっ?」

「つまり……いつでもカエラに求婚してもいいから。もちろんカエラの気持ち次第だし、実際には婚約者ということになるね。俺個人としては、カエラのことを任せられるのは君しか居ないから。俺の仲間であり、親友だと思っている君なら……俺の姉さんを任せられる」

 血の繋がりはなくとも、カエラは俺の家族だ。
 大事なのは血の繋がりではなく、過ごした時間だと言うことを俺はよく知っている。

「アレス様……しかし、僕は一番弱い……!」

 仲間内での模擬戦では、確かにオルガはほぼ負けている。
 カグラしかり俺しかり、セレナにも……。
 セレナの魔法はすでに宮廷魔術師としてやっていけるほどだ。
 近接だけのオルガでは勝ち目はない。

「弱いなら強くなればいい」

「しかし……これ以上どうすれば……」

「カイゼルには、俺から頼んである。カイゼルは槍に勝つための剣技を極めた。つまりは、槍の弱点を知り尽くしている」

「し、しかし……あの方は誰が頼んでも教えないことで有名で……」

「ああ、知っている。実は……以前から頼んではいたんだ」

「えっ!?」

 俺は前々からカイゼルに頼んでいた。
 オルガが大事な仲間であると同時に、きっと俺達家族の力になってくれる人材だからと。
 カイゼルの後継者となる器だと……。

「俺が認めることが大前提で、あとは自分の目で確かめるってさ。ほら、あっちを見てごらん?」

 俺は視線を誘導させて、カイゼルがいる観客席をオルガに見せる。

「あっ——うっ……」

 そこには腕を組んで『良いだろう』と顔に書いてあるカイゼルがいた。

「さて、オルガ……どうする?」

「や、やりますっ! 必ずや強くなっで……貴方の力になりますっ!」

 涙を拭き、オルガは力強く宣言するのだった。

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