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少年期~後編~
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さて、本日から……いよいよ、卒業試験の開始である。
今日からは日課である稽古をせずに、精神統一のみで済ませる。
さらには、いつもはみんなで登校するが、今日からは一人で学校へ向かう。
理由は至極単純なもので、これから数日かけて本気で戦うことになるからだ。
お互いの癖や弱点を知り尽くしているので、それぞれに作戦を練ることになる。
大事な友であると共に、試験を争うライバルとなるのだから……。
「ふぅ……こんなものかな」
「アレス様、い、いよいよですねっ!」
「あらあら、カエラが緊張してどうするの?」
「で、でも……ずっと見てきましたから……」
「ありがとう、カエラ。それに母上も」
「何のことかしら?」
「俺がプレッシャー感じないように配慮していただいて。昨日、あまり寝てないですよね?目の下のクマが隠しきれていないですよ?」
「……まいったわね」
「母上、俺は大丈夫です。だから、安心して見ててください」
今日は観覧席で、母上やカエラも見にくる。
もちろん護衛はカイゼルなので、カイゼルも見るということだ。
「本当に……ええ、わかったわ。アレス、頑張ってね」
「はいっ!」
「私からいうことはございませぬ。いってらっしゃいませ」
「ああ、カイゼル」
「むにゃ……おにたん……?」
普段ならお昼寝の時間なのだが、エリカが見送ると言って聞かなかった。
しかし母上の腕に抱かれ、ずっと船を漕いでいた。
「エリカ、きちんと寝ておきなさい。でないと、お兄ちゃんの試合が見れないぞ?」
「うぅー……見たい……ねりゅ……いってらったい」
「ああ、行ってくる」
家族に挨拶を済ませて、俺は一人で家を出て行く。
「いよいよか……中々感慨深いものがあるな」
俺は、この世界に生まれてからのことを思い返していた。
突然の出来事により、結衣や叔父さん夫婦との別れ。
会社のみんなには、きっと迷惑をかけたに違いない。
そして、前の世界と別れ……正直言って、死んだという実感はない。
本当に気がついたら、この世界で赤ん坊だったからだ。
もしかしたら、前の世界の出来事は夢なんかじゃないか?
それとも今見ているのが夢なのか?
そんなことを日々考えてしまうほどだった……。
でも、もうそんなことは思っていない。
俺は今、この世界でアレスとして生きている。
そして、前世の和馬もまた、あの世界で生きていた。
ようやく、ここまでたどり着くことが出来た。
二つの心でもって、俺はこの世界で生きていく。
大切な人達の思い出を胸にしまいながら……。
教室に入ると、普段とはまるで空気が違う。
皆、ピリピリしている。
無理もない……これからの成績次第では、この先の道が決まってしまうくらいだ。
俺は不思議と落ち着いている。
もしかしたら、前世での経験が活きているのかもしれない。
「はい! 皆さん!」
皆が黙って先生を見つめる。
「良い目です! 自信と少しの恐れ……それは、戦いにおいて重要なものです。自信がなければ勝てませんし、恐れなどがないと蛮勇になり、これもまた駄目です。そのバランスが大事だと先生は思います。これから君達は戦場に出ることでしょう。その感覚を忘れないようにしてください。戦場では、それを忘れた者から死んでいきます」
「「「「「「「「はいっ!!!!!!!!」」」」」」」」
先生の真面目な表情と話に皆の声が重なる。
こんなことは、数年ぶりかもしれない。
それだけ、先生の声に熱を感じたからだろう。
「良い返事ですねっ! では、まずは抽選会を行います! トーナメント試合を行います! 誰に当たるか運もありますが、それを含めての試合です! 戦場ではどうしようもない時もありますから。では、回っていくので引いてください」
全員が神妙に頷き、それぞれ箱の中から取り出していく。
「一番……」
黒板には、一から八までの数が書いてある。
一と二があたり、三と四があたるような感じのようだ。
「二番……」
俺と奴の目が、実に数年振りに合う。
いつもは、あちらが逸らしてくるが……今回は、違うようだ。
「ザガンか……」
「ハハッ! ようやくだ……! もう制限はない! 今度こそ貴様を……!」
何やら様子がおかしい……制限?
もしかしたら、今までは俺に絡むなと命令されていたのかもしれない。
大元であるターレス-トライデントから……。
あれから数年……あいつも動き出すということか?
「いや、今は考えなくて良い。ザガン、君とやるのはいつぶりだろうね? お互いに悔いの残らない戦いと、皆に恥じない戦いをしよう」
「ははっ! バカがっ! 恥をかくのは貴様だけだっ! 俺がこの日をどれだけ待っていたことかっ! あの日から肩身の狭い生活……この侯爵家に連なる俺がっ! だが……それも、今日で終わる。お前を倒すことで、俺はターレス様に認めてもらうっ!」
……やはり、ターレスが絡んでいるか。
しかし、まだまだ子供だな。
感情を制御できていないし、俺に情報を与えてしまっている。
「そうか……まあ、それはどうでも良い」
「なっ——!?」
「はいっ! そこまでっ! サガン君! アレス君!」
「チッ!」
「はい、申し訳ありません」
「興奮するのはわかりますが、これはあくまでも模擬戦ですからね! さあ、次々と引いていきましょう」
全員が引き終わり、それぞれの相手が決まる。
俺は侯爵家のサガンに決まった。
一番が俺で、二番がザガン。
三番がアスナで、四番がエルバ。
五番がカグラで、六番がオルガ。
七番がセレナで、八番がロレンソ。
どうやら、俺は仲間と決勝まで当たることはないようだ。
みんなの戦いも気になるが……。
だが、他の人を見ている場合ではない。
俺は意識を集中して、ザガン戦に備えるのだった。
今日からは日課である稽古をせずに、精神統一のみで済ませる。
さらには、いつもはみんなで登校するが、今日からは一人で学校へ向かう。
理由は至極単純なもので、これから数日かけて本気で戦うことになるからだ。
お互いの癖や弱点を知り尽くしているので、それぞれに作戦を練ることになる。
大事な友であると共に、試験を争うライバルとなるのだから……。
「ふぅ……こんなものかな」
「アレス様、い、いよいよですねっ!」
「あらあら、カエラが緊張してどうするの?」
「で、でも……ずっと見てきましたから……」
「ありがとう、カエラ。それに母上も」
「何のことかしら?」
「俺がプレッシャー感じないように配慮していただいて。昨日、あまり寝てないですよね?目の下のクマが隠しきれていないですよ?」
「……まいったわね」
「母上、俺は大丈夫です。だから、安心して見ててください」
今日は観覧席で、母上やカエラも見にくる。
もちろん護衛はカイゼルなので、カイゼルも見るということだ。
「本当に……ええ、わかったわ。アレス、頑張ってね」
「はいっ!」
「私からいうことはございませぬ。いってらっしゃいませ」
「ああ、カイゼル」
「むにゃ……おにたん……?」
普段ならお昼寝の時間なのだが、エリカが見送ると言って聞かなかった。
しかし母上の腕に抱かれ、ずっと船を漕いでいた。
「エリカ、きちんと寝ておきなさい。でないと、お兄ちゃんの試合が見れないぞ?」
「うぅー……見たい……ねりゅ……いってらったい」
「ああ、行ってくる」
家族に挨拶を済ませて、俺は一人で家を出て行く。
「いよいよか……中々感慨深いものがあるな」
俺は、この世界に生まれてからのことを思い返していた。
突然の出来事により、結衣や叔父さん夫婦との別れ。
会社のみんなには、きっと迷惑をかけたに違いない。
そして、前の世界と別れ……正直言って、死んだという実感はない。
本当に気がついたら、この世界で赤ん坊だったからだ。
もしかしたら、前の世界の出来事は夢なんかじゃないか?
それとも今見ているのが夢なのか?
そんなことを日々考えてしまうほどだった……。
でも、もうそんなことは思っていない。
俺は今、この世界でアレスとして生きている。
そして、前世の和馬もまた、あの世界で生きていた。
ようやく、ここまでたどり着くことが出来た。
二つの心でもって、俺はこの世界で生きていく。
大切な人達の思い出を胸にしまいながら……。
教室に入ると、普段とはまるで空気が違う。
皆、ピリピリしている。
無理もない……これからの成績次第では、この先の道が決まってしまうくらいだ。
俺は不思議と落ち着いている。
もしかしたら、前世での経験が活きているのかもしれない。
「はい! 皆さん!」
皆が黙って先生を見つめる。
「良い目です! 自信と少しの恐れ……それは、戦いにおいて重要なものです。自信がなければ勝てませんし、恐れなどがないと蛮勇になり、これもまた駄目です。そのバランスが大事だと先生は思います。これから君達は戦場に出ることでしょう。その感覚を忘れないようにしてください。戦場では、それを忘れた者から死んでいきます」
「「「「「「「「はいっ!!!!!!!!」」」」」」」」
先生の真面目な表情と話に皆の声が重なる。
こんなことは、数年ぶりかもしれない。
それだけ、先生の声に熱を感じたからだろう。
「良い返事ですねっ! では、まずは抽選会を行います! トーナメント試合を行います! 誰に当たるか運もありますが、それを含めての試合です! 戦場ではどうしようもない時もありますから。では、回っていくので引いてください」
全員が神妙に頷き、それぞれ箱の中から取り出していく。
「一番……」
黒板には、一から八までの数が書いてある。
一と二があたり、三と四があたるような感じのようだ。
「二番……」
俺と奴の目が、実に数年振りに合う。
いつもは、あちらが逸らしてくるが……今回は、違うようだ。
「ザガンか……」
「ハハッ! ようやくだ……! もう制限はない! 今度こそ貴様を……!」
何やら様子がおかしい……制限?
もしかしたら、今までは俺に絡むなと命令されていたのかもしれない。
大元であるターレス-トライデントから……。
あれから数年……あいつも動き出すということか?
「いや、今は考えなくて良い。ザガン、君とやるのはいつぶりだろうね? お互いに悔いの残らない戦いと、皆に恥じない戦いをしよう」
「ははっ! バカがっ! 恥をかくのは貴様だけだっ! 俺がこの日をどれだけ待っていたことかっ! あの日から肩身の狭い生活……この侯爵家に連なる俺がっ! だが……それも、今日で終わる。お前を倒すことで、俺はターレス様に認めてもらうっ!」
……やはり、ターレスが絡んでいるか。
しかし、まだまだ子供だな。
感情を制御できていないし、俺に情報を与えてしまっている。
「そうか……まあ、それはどうでも良い」
「なっ——!?」
「はいっ! そこまでっ! サガン君! アレス君!」
「チッ!」
「はい、申し訳ありません」
「興奮するのはわかりますが、これはあくまでも模擬戦ですからね! さあ、次々と引いていきましょう」
全員が引き終わり、それぞれの相手が決まる。
俺は侯爵家のサガンに決まった。
一番が俺で、二番がザガン。
三番がアスナで、四番がエルバ。
五番がカグラで、六番がオルガ。
七番がセレナで、八番がロレンソ。
どうやら、俺は仲間と決勝まで当たることはないようだ。
みんなの戦いも気になるが……。
だが、他の人を見ている場合ではない。
俺は意識を集中して、ザガン戦に備えるのだった。
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