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少年期~後編~
ヒルダ姉さんとのお別れ
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ある日、俺は学校が休みだったので……。
朝の稽古を終えた後、久しぶりに一人で行動していた。
そして、以前クロスと遊んでいた廃墟に来る。
ここは俺の隠れ家的なところで、悩みがあると度々訪れていた。
「クロス……?」
(…………)
「反応らしきものはあるが、まだ返事はできない感じか」
クロスについても色々調べてみたが……。
「これといってわかるものはなかったんだよな……」
龍とは悪しき者という文献ばかりで、具体的な説明が記載されてない。
まるで、意図的にそうなっているかのように……。
「その辺りを調べるためにも、他国に行ってみたいが……」
皇族とはいえ、簡単には見せてもらえないだろうな。
最悪の場合、闇魔法を駆使して……それはまずいか。
「教会にも行きたいが、今のところは危険だし」
最低、自分の身は自分で守れるくらいには強くならないと。
「ふぅ……考えることは山積みだな」
だが、まずは……。
「自分のことか」
俺は誰だ? ……アレスだ。
和馬は? ……もう、俺という認識は薄い気がする。
ただ、倫理観や価値観は未だに根っこにある。
「カグラを女性として愛せるのか?」
……カグラのことは好きだろうな。
これが、いずれ恋になるのか?
別に恋じゃなくても良いのかもしれないが……。
「ああっ! くそっ! 前世の記憶が……いや、言い訳だな」
前世でも、恋愛結婚だけが全てではない。
打算的であったり、一緒にいて安らげる人と添い遂げることも多い。
「なんだ……結局、俺がびびってるだけなんじゃないか」
カグラとそういう関係になることに。
そして、セレナとも……。
「インドなんかでも一夫多妻制だし、日本だって昔はそうだったもんな」
要は、両方を幸せにする覚悟さえあれば良いってことか。
「そして俺には、今は自信がないということか」
自分のことで大変ということもあるが……。
「俺の妻になるということは、危険な目に遭うこともある」
大事な二人を守れる力を身につけなくては。
「そのためには、やはり強くなるしかない」
結局、そこに行き着くのか。
こればっかりは、すぐにどうこう出来るものじゃないし。
「あとは……ヒルダ姉さんのことか」
まさか、婚約が決まった瞬間に失恋するとはな。
あれは、自分でも驚いたな……きっと前世の倫理観が邪魔をしたのだろう。
兄妹を好きになるとか、余程のことがない限りあり得ないことだからな。
まあ、といっても初恋というか……純粋な気持ちだったし。
ただ……あまりの出来事に、未だに消化不良な感じなんだよなぁー。
「あら? バレていたの? 上手く気配を消したのに」
「へっ?」
ヒルダ姉さんが、扉からひょっこり現れる。
「あれ? 気づいてなかった?」
言葉遣いや態度に変わりはないが、立派な女性に成長していた。
雰囲気も刺々しさがなくなり、落ち着いたように見える。
そうか……もう昔のヒルダ姉さんではないんだな。
「え、ええ……鍛え上げましたね」
ヒルダ姉さんの聖痕の能力は、弟の同じ身体能力上昇タイプだ。
それをパワーには振らずに、スピードや足運びなどに特化させたようだ。
「まあね! あっちでは、最悪殺されることもあるだろうし」
俺の助けとなるためもあるが……。
どうやら、フラムベルク家を掌握しようとしているらしい。
父上から命を受けて……最後まで迷っていたが、姉さん自身が望んだと。
ヒルダ姉さんはそのために、ここ数年鍛えていたそうだ。
「それよりも……会って良いんですか?」
「平気よっ! 護衛はきちんと撒いてきたから!」
前言撤回! 前と変わってないし!
「いや、そういうことではなくて……」
なんか、この感じも懐かしいなぁ。
「それに、今はアレスが結界を張っているでしょう?」
「ええ、この会話は聞かれることはありません」
「なら、問題ないわ!」
「相変わらずですね……」
でもきっと、こういうところに惹かれたのだろうな。
俺も前世では年上好きだったし。
だから、尚更のこと十二歳の子と婚約というのがピンと来ないんだけど。
「ふふ、そうね。ずっと話してなかったけど、すぐに昔みたいに戻れるわね。それで、私がどうかしたのかしら?」
……ここで、はっきりさせておくか。
多分、これが最後の機会になるだろうから……。
「いえ……実は、俺はヒルダ姉さんに恋をしていたようなのです」
「……やっぱり、あの時の最期のセリフはそういうことだったのね」
「ええ……ヒルダ姉さんもですか?」
「ええ、そうよ。貴方は私の理想そのものだから。優しくてかっこよくて、強くて誠実で……そして、少し弱い人。誰かが支えないといけない人」
「姉さん……」
「でも、私にはその役目は無理だわ。私と貴方では障害が大きすぎるし、別にそういう関係になりたいわけじゃないでしょう?」
「ええ、それはそうですね……なんとかいうか、気づいたのがあの時でして……」
「まあ、無理もないわね。さあ、どうぞ?」
「へっ?」
「言いたいことがあるんでしょ? 私は——正式に結婚が決まったわ。来年の今頃は、もう皇族の者ではないわ。フランベルク家の者にして、人妻になるのよ。しばらくはこの皇都に夫婦で住むことになるけど、今まで以上に貴方と会うことは難しくなるわ。ただし、エリカのことは任せなさい。約束通りに私が立派なレディにしてあげる!」
……やはり、そうか。
数年ぶりに話しかけてきたから、そういうことだとは思っていた。
「ヒルダ姉さん、エリカのこと可愛がってくれてありがとうございます。そして、俺のことも……俺は、貴女のことが好きでした。その気高い心、意志の強い眼差し、優しい心……貴女は、この世界で絶望していた俺の心を救ってくださいました」
「そう……私もよ、アレス。貴方は私の心救ってくれたわ。きっと、生涯忘れることはないわ」
「ヒルダ姉さん——結婚おめでとうございます!」
「ありがとう、アレス。私は、私の道を選んだわ。貴方も、自分の道を歩いて行きなさい。あんな可愛い子達を泣かせてはいけないわよ? これは……姉としての最後の命令よ!」
「はいっ! 俺は俺の道を進み、彼女達を泣かせるようなことだけはいたしません!」
「良い返事ねっ! それでこそ——我が愛しの弟よっ!」
……ヒルダ姉さんが泣き笑いしながら言う。
そして、俺の胸につかえていたものが、スッと溶けていくのを感じる。
ありがとう、ヒルダ姉さん……お幸せに。
朝の稽古を終えた後、久しぶりに一人で行動していた。
そして、以前クロスと遊んでいた廃墟に来る。
ここは俺の隠れ家的なところで、悩みがあると度々訪れていた。
「クロス……?」
(…………)
「反応らしきものはあるが、まだ返事はできない感じか」
クロスについても色々調べてみたが……。
「これといってわかるものはなかったんだよな……」
龍とは悪しき者という文献ばかりで、具体的な説明が記載されてない。
まるで、意図的にそうなっているかのように……。
「その辺りを調べるためにも、他国に行ってみたいが……」
皇族とはいえ、簡単には見せてもらえないだろうな。
最悪の場合、闇魔法を駆使して……それはまずいか。
「教会にも行きたいが、今のところは危険だし」
最低、自分の身は自分で守れるくらいには強くならないと。
「ふぅ……考えることは山積みだな」
だが、まずは……。
「自分のことか」
俺は誰だ? ……アレスだ。
和馬は? ……もう、俺という認識は薄い気がする。
ただ、倫理観や価値観は未だに根っこにある。
「カグラを女性として愛せるのか?」
……カグラのことは好きだろうな。
これが、いずれ恋になるのか?
別に恋じゃなくても良いのかもしれないが……。
「ああっ! くそっ! 前世の記憶が……いや、言い訳だな」
前世でも、恋愛結婚だけが全てではない。
打算的であったり、一緒にいて安らげる人と添い遂げることも多い。
「なんだ……結局、俺がびびってるだけなんじゃないか」
カグラとそういう関係になることに。
そして、セレナとも……。
「インドなんかでも一夫多妻制だし、日本だって昔はそうだったもんな」
要は、両方を幸せにする覚悟さえあれば良いってことか。
「そして俺には、今は自信がないということか」
自分のことで大変ということもあるが……。
「俺の妻になるということは、危険な目に遭うこともある」
大事な二人を守れる力を身につけなくては。
「そのためには、やはり強くなるしかない」
結局、そこに行き着くのか。
こればっかりは、すぐにどうこう出来るものじゃないし。
「あとは……ヒルダ姉さんのことか」
まさか、婚約が決まった瞬間に失恋するとはな。
あれは、自分でも驚いたな……きっと前世の倫理観が邪魔をしたのだろう。
兄妹を好きになるとか、余程のことがない限りあり得ないことだからな。
まあ、といっても初恋というか……純粋な気持ちだったし。
ただ……あまりの出来事に、未だに消化不良な感じなんだよなぁー。
「あら? バレていたの? 上手く気配を消したのに」
「へっ?」
ヒルダ姉さんが、扉からひょっこり現れる。
「あれ? 気づいてなかった?」
言葉遣いや態度に変わりはないが、立派な女性に成長していた。
雰囲気も刺々しさがなくなり、落ち着いたように見える。
そうか……もう昔のヒルダ姉さんではないんだな。
「え、ええ……鍛え上げましたね」
ヒルダ姉さんの聖痕の能力は、弟の同じ身体能力上昇タイプだ。
それをパワーには振らずに、スピードや足運びなどに特化させたようだ。
「まあね! あっちでは、最悪殺されることもあるだろうし」
俺の助けとなるためもあるが……。
どうやら、フラムベルク家を掌握しようとしているらしい。
父上から命を受けて……最後まで迷っていたが、姉さん自身が望んだと。
ヒルダ姉さんはそのために、ここ数年鍛えていたそうだ。
「それよりも……会って良いんですか?」
「平気よっ! 護衛はきちんと撒いてきたから!」
前言撤回! 前と変わってないし!
「いや、そういうことではなくて……」
なんか、この感じも懐かしいなぁ。
「それに、今はアレスが結界を張っているでしょう?」
「ええ、この会話は聞かれることはありません」
「なら、問題ないわ!」
「相変わらずですね……」
でもきっと、こういうところに惹かれたのだろうな。
俺も前世では年上好きだったし。
だから、尚更のこと十二歳の子と婚約というのがピンと来ないんだけど。
「ふふ、そうね。ずっと話してなかったけど、すぐに昔みたいに戻れるわね。それで、私がどうかしたのかしら?」
……ここで、はっきりさせておくか。
多分、これが最後の機会になるだろうから……。
「いえ……実は、俺はヒルダ姉さんに恋をしていたようなのです」
「……やっぱり、あの時の最期のセリフはそういうことだったのね」
「ええ……ヒルダ姉さんもですか?」
「ええ、そうよ。貴方は私の理想そのものだから。優しくてかっこよくて、強くて誠実で……そして、少し弱い人。誰かが支えないといけない人」
「姉さん……」
「でも、私にはその役目は無理だわ。私と貴方では障害が大きすぎるし、別にそういう関係になりたいわけじゃないでしょう?」
「ええ、それはそうですね……なんとかいうか、気づいたのがあの時でして……」
「まあ、無理もないわね。さあ、どうぞ?」
「へっ?」
「言いたいことがあるんでしょ? 私は——正式に結婚が決まったわ。来年の今頃は、もう皇族の者ではないわ。フランベルク家の者にして、人妻になるのよ。しばらくはこの皇都に夫婦で住むことになるけど、今まで以上に貴方と会うことは難しくなるわ。ただし、エリカのことは任せなさい。約束通りに私が立派なレディにしてあげる!」
……やはり、そうか。
数年ぶりに話しかけてきたから、そういうことだとは思っていた。
「ヒルダ姉さん、エリカのこと可愛がってくれてありがとうございます。そして、俺のことも……俺は、貴女のことが好きでした。その気高い心、意志の強い眼差し、優しい心……貴女は、この世界で絶望していた俺の心を救ってくださいました」
「そう……私もよ、アレス。貴方は私の心救ってくれたわ。きっと、生涯忘れることはないわ」
「ヒルダ姉さん——結婚おめでとうございます!」
「ありがとう、アレス。私は、私の道を選んだわ。貴方も、自分の道を歩いて行きなさい。あんな可愛い子達を泣かせてはいけないわよ? これは……姉としての最後の命令よ!」
「はいっ! 俺は俺の道を進み、彼女達を泣かせるようなことだけはいたしません!」
「良い返事ねっ! それでこそ——我が愛しの弟よっ!」
……ヒルダ姉さんが泣き笑いしながら言う。
そして、俺の胸につかえていたものが、スッと溶けていくのを感じる。
ありがとう、ヒルダ姉さん……お幸せに。
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