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少年期~後編~

カグラとの話

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 俺が家に帰ると……天使が突撃してくる。

「おにぃちゃん! おかえりなしゃい!」

「ただいま、エリカ。カグラもただいま」

「お、お帰りなさいませ、アレス様」

 何もかもがおかしい。
 カグラらしくない口調に、格好もいつもと違い、スカートを履いている。
 大体いつもは男の子みたいな格好してたのに……。
 ただ、俺は鈍感ではないので……ここで言うべきことはわかる。

「カグラ、その格好可愛いね。よく似合ってるよ」

「ひゃい!? あ、ありがとぅございます……」

「カグラちゃん、顔真っ赤だよー?」

「え、エリカ様!」

「エリカ、カグラに遊んでもらったのか?」

「うんっ! あのねー! カグラちゃんと、おにぃちゃんをどっちが好きか勝負してたのっ!」

「っ~!! ち、違うのですっ!」

「ふぇ!? ちがうのっ!? おにぃちゃんの事嫌いなの?」

「あ、いや、その……す、好きです……」

 スカートの両端を押さえて、恥ずかしそうにしている。
 不覚にも、ドキッとした自分がいることに驚いた。
 なんだ? 胸が高まった? いやいや、相手は十二歳だぞ?
 俺にはそんな性癖はない……が、アレスにはあるのか。
 今までは子供はアレス、大人は和馬という住み分けがあったが……。
 最近はそれも無くなってきて、戸惑うことが多くなってきたな。

「はは……とりあえず、上がっても良いかな?」

「あっ——申し訳ありません! アレス様を玄関で立たせてしまうなんて……あぅぅ……」

「気にしなくて良いよ。さあ、一緒に夕飯を食べようか」

「はいっ!」

「あいっ!」

「ププッ……!」

「むぅ……何故笑うのですか?」

「いや、何でもないよ」

 言えないよな……エリカと同じような顔をするとは。
 満面の笑みがこぼれるようだったな……。
 でも……カグラとなら、良い家族になれるかもね。



「アレス、お帰りなさい」

「アレス様、手洗いうがいはしましたか?」

「おいおい、子供じゃないんだから。まあ、してきたけど」

「子供扱いさせてください……すぐに大きくなっちゃうんですから」

「カエラ……ああ、わかったよ」

 俺にはカエラの気持ちがわかる。
 俺も結衣が成長した時、嬉しいと同時に寂しさを感じたから……。
 きっと、今頃は素敵な女性に成長しているだろうな。
 それを見れないことが少し残念でもあり……嬉しくもある。
 彼氏とか結婚とか、きっと叔父さんと一緒に落ち込んじゃうからね。



 その後、楽しい食事を終え、縁側にてカグラと並んで座る。

 エリカは、母上と共に二階の寝室で寝ているだろう。

 カエラはお風呂に入ってくると言っていた。

 カイゼルまでもが、少し離れてくると言っていた。

 まあ、つまりは……気を使われたのだろうな。

「アレス様、涼しくなってきましたね?」

「ああ、そうだね。別に喋り方は気にしなくて良いからね? もちろん、それが嫌とか言っているわけではないから」

「い、いえ……でも、流石にこのままではいけないかと……」

「まあ、確かにね。これから、色々な場面に出るだろうから」

 侯爵令嬢として舞踏会に参加したり、御偉いさんと話したり……。
 何より領地にて、これから仕事もしていくだろうし。

「それもありますが……拙者は、アレス様のお側にいたいんです——女性として」

「カグラ……俺は……」

「わかっています。アレス様の心の中には、他の誰かがいることくらい」

「…………」

 やはり、女性というのは鋭いな。
 そして、それに気づけるくらいに彼女も大人になったということか。

「それはセレナとも話し合いましたし、父上達にも伝えてあります」

「それはそれで、次会うのが怖いのだが……」

 俺、領民や侯爵に殺されないだろうか?

「ふふ、大丈夫です。それでも……アレス様が好きって伝えてきましたから」

「強いな、カグラは。それに、セレナもか」

「アレス様が強くしてくれたんですよ? セレナも、きっとそう言うに決まってます」

「わかった、君達が覚悟を決めているなら——俺も、真面目に応えようと思う」

「はい……どんな言葉だろうと受け入れます。そしてそれに関わらず、これからもずっとお側にいますから——その場合は仲間として」

「ありがとう、カグラ。正直言って、戸惑っているのが正直なところだ」

「というのは……?」

「俺は前世でそれなりの大人だった。そして人並みに恋愛をしてきたし、大事な女の子もいたんだ。でも、今の俺は前世の俺ではない……それはわかっているんだ。ただ、少し……なんと言ったら良いかな」

「ゆっくりで良いですから……」

「ありがとう、カグヤ。そうだな……俺の前の世界では、今くらいの歳では子供扱いなんだ」

「え? 拙者達、今でも子供扱いですが……」

「うーん、極端になっちゃうけど……エリカくらいの扱いと言ったらわかりやすいかな」

「……なるほど、赤子扱いということですか」

「まあ、そんな感じだ。成人と見なされるのも、二十歳になってからだし。それに、若いうちから婚約者なんていない世界なんだ。もちろん、特例はあるけど」

「きっと、平和な世界なんですね」

「こっちよりは幾分かね。あっちはあっちで問題は一杯あったけど。ただ、俺のいた国は治安は良かったかな……だから、いまいちピンとこないんだ」

「そういうことですか……ふむ」

「だから、情けない話なんだけど……もう少し待ってもらえるかな? きちんと答えは出すから……そう遠くない未来に」

「ええ、わかりました」

「あれ? 随分とあっさりしてるね?」

「母上に言われました、あんまり追い詰めてはいけないって。待ってあげるのも良い女の条件らしいのです」

「こりゃ参ったね……だが、助かるよ」

「それにきちんとお話をしてくれましたから。アレス様の正直な気持ちを聞けて嬉しかったですし……拙者のことを大事に考えてくれてるのもわかりますし……あぅぅ……」

「ああ、それだけは間違いない。君が大事だということについてはね」

 これまで避けてきたが……いよいよ本気で向き合わなくてはいけないな。

 アレスとしての俺、和馬としての俺……二人の俺は、どうしたいのかということを。
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