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少年期~前編~

後日談

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 あの騒動があってから、一週間が経過した。

 ターレスは大人しく誓約書にサインをしたとのこと。

 さらには、本人の行動の制限や政治活動にも……。

 これは父上に褒められたな……これで、少しは楽になると。

 良かった……俺でも父上の役に立てることがあって……。

 ただ、その際に……面白い子を育てましたね?と言われたそうだ。

 別の意味で目をつけられたかもしれない……。

 ……本当なら、もっと攻め込んでも良かったのだが……。

 一応、皇子を殺そうとしたわけだし……。

 例えば——ライルの廃嫡など。

 ただ、そうなったら……おそらく、ただでは済まなかっただろうな。

 なにせ、父上の地盤は強くないようだ。

 味方も少ないし、俺達という足枷もある。

 貴族共は、出来損ないの俺なら別に死んだところで構わないと言うだろうな。

 実際、聖痕のない皇子の価値など、ないも同然の扱いだし。

 ……ムカつくが、それがこの世界の理だ。

 変えたいのであれば——価値観そのものを破壊するしかないほどに。

 話が大きすぎるな……話を変えるか……。

 ゲルマ王妃は幽閉されたが、部屋から出られない以外は普通の生活を送っている。

 もちろん、本人からしたら不満だろうが……。

 ただ、ゲルマが生きているからこそ、ターレスを抑え込めたんだ。

 死んでしまうと、それを材料にして介入してくるだろう。

 決定的な証拠はないわけだし……。

 何より……国内で争うのは得策じゃない。

 潜在的敵国である、グロリア王国があるからだ。

 さらには、フラムベルク侯爵家も動くかもしれない。

 あそこは皇家の血を受け継いでいる……。

 噂では、自分達こそが正統な後継者だと……。

 まあ、聖痕が現れない以上、眉唾ものだろうけどね。

 それに、国内で争い最も割りを食うのは民の方々だ。

 なので、皇族で殺し合いをしている場合じゃない。

 前も言ったが、父上の兄達の二の舞は御免だし。




 ……さて、一応平和が訪れたんだけど……。

 今度は、色恋沙汰が発生したみたいです。

 たった今……放課後の、学校の教室にて。

「ア、アレス様!」

「どうしたんだい?オルガ」

「あ、あのですね……また、お家に行ってもよろしいでしょうか?」

「……カエラに会いにかな?」

「え?ち、違いますよっ!そうっ!妹君に会いに……」

「オルガ……僕は、妹をダシに使われるのは——」

 俺は鋭く睨みつける。

「す、すみませんでした——!!」

「全く……で、なんだって?」

「カ、カエラさんに会わせて頂けるでしょうか?」

 ……そうなのだ。
 俺の家に行った際に、カエラに一目惚れをしたらしい。
 まあ、ノスタルジア出身で、黒髪黒目の美少女だ。
 オルガからしたら、よっぽど馴染みがあるだろうな。

「まあ……良いけど、なんで僕に許可を?母上とかじゃないの?」

「え?だって……アレス様のメイドさんということは、そういうことですよね?アレス様の物と言いますか、女を教えてくれる方と言いますか……」

 ……これはオルガを責めることは出来ない。
 前世とは違い、専属メイドは確かにそういう役割を担うこともある。
 いざという時に失敗しないように、歳上の女性をあてがっておくのだ。
 ただ……オルガが、少し勘違いしてるだけで。

「いや、カエラはそういうアレじゃないよ?」

「え?しかし……アレス様が運ばれた時、泣き崩れていて……とても愛されているのだなと……ですが、メイドでは皇子様の奥さんにはなれません。僕の家なら男爵家ですし、そういうのもありませんし……」

 ……なるほど、そうだったのか。
 勘違いされても仕方のないことだな。
 あとで、きちんと謝らないといけないね。
 ただ……その前に。

「カグラ?セレナ?」

「ひゃい!?」

「はわっ!?」

「何を聞き耳を立てているんだい?というか、君達が説明しといてくれよ」

「い、いや……拙者も、オルガと同じことを思っていたので……ほっ、違うのですね」

「わ、わたしも……愛人?よくわからないけど、貴族の方はそういうのがあるから、お母さんが許してあげなさいって……」

 ……どうしよう?
 どこから突っ込んでいいかわからない……。
 え?ずっとそう思ってたってこと?
 いや、俺が悪いのか?説明しなかったし……。
 そして……セレナの家に行こう、誤解を解かなくては……!

「とりあえずっ!カエラはそういうアレではない!もちろん、大事な人であることに変わりはない。僕の家族であり、姉である人だ。オルガ、君なら——カエラが嫌でないなら近づくことを許可する」

「あ、ありがとうございますっ!」

「セレナ!最大のライバルが減ったのだっ!」

「はいっ!やりましたね!」

「……セレナ、君までもかい……いや、逞しくなって良いことだね……」

「よし!私達も行くのだっ!」

「行くのだっ!」

「言葉遣いまでも感化されてる……」

 その時、教室のドアがバーン!と音を立てて開かれる。

「アレス!!」

「姉上、どうしたのです?」

「は、話は聞いていたわ!わ、私も……行っても良いかしら……?」

 どうやら……聞き耳を立てて、様子を伺ってたようだ。
 まだ、昨日のことを気にしているんだろうな……。

「もちろんです。大好きな姉が弟や妹を訪ねるのに——許可がいりますか?」

「……アレス……ないわ!私——行くわっ!」

「ええ、どうぞ。エリカも母上もカエラも、何より——僕が喜びますよ」

「し、仕方のない弟ねっ!良いわ——可愛がってあげるっ!」

 泣きそうになりながらも、姉上は微笑んでいる。

 ……良かった、本当に。

 この方の笑顔を守ることが出来て……。

 よくよく話を聞けば……父上に密告したのは姉さんらしい。

 自分の母親の悪事を……俺を救うために……きっと、辛かっただろうに……。

 もちろん、俺以外には知らないし、姉さんも俺が知っていることは知らない。

 だから、これで良かったんだ。

 何より、両親とカエラ以外で、初めて俺を愛してくれた人だから……。

 きっと……ヒルダ姉さんがいなかったら、俺はどこか歪んでしまっていたに違いない。

「ねえねえ、カグラちゃん」

「わかっている、セレナ」

「実は……1番のライバルって……」

「うむっ!ヒルダ様なのだっ!」

「……君達は、何を言っているのかな?姉さんだからね?」

「そうよっ!アレスが欲しければ——まずは、私を倒してからよっ!」

「「はいっ!」」

「良い返事ねっ!」

 ……まあ、良いや。

 皆の笑顔を見ながら、俺は切に願う。

 ……この平和な時間が、少しでも長く続きますようにと……。
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