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少年期~前編~

side~それぞれの思惑~

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 ~侯爵家当主ターレス視点~


 ……ふむ……。

 面と向かって会うのは初めてだったが……。

 中々に面白い子供だったな……。

 私と皇帝の力関係、その他の貴族との力関係……。

 民への影響……他国との影響……。

 それらを完全にではないが把握しておった……。

 消すのが一番かと思っていたが……。

 場合によっては……そういう手もありかもしれんな。

 まあ……あの方に指示されたことはほとんどやったはず。

 あとは……しばらくは様子を見るとしよう。




「ターレス様」

「ん?ああ、お前かレイス」

「再度確認しましたが、証拠等は一切ございませんでした」

 若いが、優秀な秘書のレイスからの報告を聞き、私はほくそ笑む。
 私の家に代々仕える家系の者だ。
 諜報、暗殺まで幅広くな……。

「クク……いやはや、少し自由にさせすぎたな」

 まあ、そういう風に育てたのだから仕方ないが。
 ああいう馬鹿のが扱いやすいからな。

「お嬢様の件ですね?」

「うむ……まあ、甘やかしていたわけではない。ただ、興味がなかっただけだ。あいつの仕事は、次世代の皇子を産むこと……道具となる皇女を産むこと。そういった意味では役に立ってくれたな」

「……消さなくて良かったので?」

「そうだな……まあ、仮に喋ったとしても断片的なことしか知らん。末端の末端の情報しかな……ここに辿り着くことはあり得ない。何より、皇帝も聞かないだろう」

 おそらく、奴にとっても最善だったはず。
 これで、地盤を固める時間ができたのだから。

「しかし……お嬢様には困りましたね」

「まあ、私とてそういうこともある」

 私はあの方と違い万能ではない。
 人間の思考を完全にコントロールなどできるわけがない。
 だったら、失敗してもいいように策を講じることのが楽である。

「少しやりすぎましたが……まあ、あそこで殺してくれても問題ありませんでしたし」

「うむ……その場合の策も講じてあったからな」

 無実の罪で、私怨により殺したとかな……。
 手を回せば、真実などどうとでもなる。

「となるとやはり……アレス皇子ですか」

「ああ、面白い小僧だったな」

 この私を相手に一歩もひかなかった。
 何処で学んだかはわからないが、相当慣れていた感じだったな。

「ターレス様と互角に……失礼しました」

「いや、よい。少し言い過ぎだが、概ね間違ってはいまい。奴は私の思考を読みとり、落としどころを探っていた。自分の置かれている状況や立ち位置も把握していたしな」

「……どうしますか?」

「とりあえずは消さなくてよい。最悪の場合も想定しているしな……」

「ライル皇子が廃嫡されたところで、特に問題はないですしね」

「その通りだ。策とはそういう者だ。常にいくつもの代案や、先のことを考えて練ることだ。第二皇子でも……問題あるまい」

 さて……国内を混乱させつつ、均衡を保つという使命は果たした。

 他国との戦争が起きることや、内戦はあの方も求めていない。

 私の願いにも、そこまでの影響はない。

 二、三年の間は、静かに過ごすとしよう……。

 ゆっくりと策を練りつつな……。




 ———————————————————————


 ~皇帝ラグナ視点~

 ……アレスには敵わんな。

 高潔なる人物のクロイス侯爵や、気難しいゴーゲン男爵に気に入られ……。

 そのおかげで、俺の統治を信じることにすると手紙を送ってきた……。

 時間はかかるでしょうが、それまで耐えてみせますと……。

 全く……我が息子ながら、大した奴だよ。

 ただ……流石に、今回は驚いたな。

 俺が手こずっていたターレスを丸め込むとは……。

 もちろん、奴ならあそこからでも論破出来ただろうが……。

 それでも、上手く落としどころを見つけたのは見事だった。

「しかし……あいつは何処で学んだ?」

「そうですね……剣の稽古や、魔法の鍛錬はしていたようですが……」

「エリナの魔法の才能を継ぎ、カイゼルの剣技を学ぶ。魔法に至っては、将来は優秀な魔法士になれると太鼓判は押されているがな……」

「宮廷魔法士の連中が言っていましたね。あそこは一部を除いて実力主義の世界。その連中が認めるならば本物でしょう」

「セレナという女の子にも目をつけていたな……ゼノから見て、剣技はどうなんだ?」

 俺は、アレスの剣技をまともに見たことはない。
 あの時も、それどころではなかったし……。
 その時間があれば、話すことや触れ合うことを優先していたしな。
 何より、俺は剣技に関しては専門外だ。

「一流になれるかと……何より、師匠が認めていますしね」

「あれな……そうなるように願ってはいたが、忠誠を誓うとは……少し驚いたな」

「ええ、そうですね。先帝陛下が死んでから、抜け殻だったあの方が……弟子としては嬉しい限りです」

「俺もだ。幼き頃、奴には世話になったからな。話がズレたな……」

「あの交渉術は何処で学んだですよね……」

「ああ、いくら賢くとも9歳だ。あそこまで頭が回るとは思えん……もちろん、あり得ないということもないが……」

「あまりに堂に入っていた……ですね?」

「そうだ。立ち振る舞いや、言葉のチョイス、受け答え……あれらは、経験を積まないと無理だろう」

「まあ……最初から不思議な子供でしたからね」

「赤ん坊の頃から、俺達の言葉もわかっていたようだしな。もしかしたら、それも要因かもしれない」

「それに関してはなんとも言えないですが……ひとつだけ言えるのは、アレス様のおかげで時間が出来ました」

「ああ、その通りだ。あの妖怪ジジイが大人しくしている間に、地盤を固めるとしよう。きっと、もって二、三年といったところか……自分が動くことなく、それとなく周りを動かしていくだろうな……」

「ですね……バレても、トカゲの尻尾切りを図るでしょうし。では、私も微力ながらお手伝いをいたしましょう」

「ああ、よろしく頼む。伯爵家出身であり、俺の最も信頼するお前を頼らせてくれ」

 友としてではなく、皇帝として言うとゼノは跪く。

「はっ!畏まりましたっ!」


 ……アレス、お前を助けるつもりが助けられるとは……。

 本当に、情けない父親ですまない……。

 時折見せる、大人びた雰囲気や言動の数々……。

 もしかしたら……お前には、何か秘密があるのかもしれない。

 それも……俺達にすら言えないなにかが……。

 それがなんなのかはわからないが……いつかその日が来たならば……。

 どんなことであれ、しっかりと話を聞こう。

 そして、それが正しいことなら……。

 俺は、全力でお前の力になろう。


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