上 下
38 / 257
少年期~前編~

~皇女ヒルダの気持ち~

しおりを挟む

 私は、この国唯一の皇族の女性……だった。

 今は、可愛い妹のエリカがいるもの!

 可愛いアレスの、可愛い妹……はぅっ!

 い、いけない……興奮しちゃうところだったわ。



 私は少し変わっているらしい……。

 民の生活を考えたり、威張らないことが……。

 なんでだろう?私達は、彼らの税金で生かされているのに……。

 お母様も、貴族達も、それが当たり前だと思っている……。

 私には、それが理解できない……。

 周りの貴族からは、この子は何を言ってるの?という顔をされたり。

 お母様には——育て方を間違えたとか言われたり……。

 でも、そんな私にも理解者がいるの。

 アレスっていう可愛い弟が。

 とっても賢くて、素直で優しい子。

 悪いと思えば謝れるし、何かをしてもらったらありがとうと言える。

 平民や貴族にも別け隔てなく接する。

 当たり前のようだけど、大人にも出来ない人が多いのが現実だ。

 初めて会った日から、私の唯一の可愛い弟。

 あと2人は嫌いね!傲慢だし、自分より下の者を虐めるし。

 何より……いくら言っても直そうとしないところが。

 ……まあ、いいわ。

 私にはアレスがいるもの。

 ……でも、アレスにとっては?

 私は邪魔じゃない?ほ、ほんとは……嫌いだったりしない……?

 バカ!私のバカ!アレスはそんな子じゃ……。

 でも、私のお母様のせいで、アレスは……。

 そんな時、事件が起きた。

 お母様達が、エリカが生まれるところに乗り込もうとしたのだ。

 私は知らされておらず、後からその事を知った……。

 ……私は、アレスに会うのが怖くなった……。

 もう、嫌われちゃった?お姉ちゃんとして見てくれない?

 新しい妹にも会わせたくないよね……。

 そんな時、お父様がお母様の反対を押し切り、私を連れ出してくれた。



「お、お父様、大丈夫なの?お母様、怒り狂ってたけど……」

「ああ、問題ない。たまには父親らしいことをさせてくれ。すまないな……ヒルダ」

「お父様は悪くないわ!悪いのはお母様と………何より、お爺様よ……」

「ヒルダ……そこまでわかっているのか……賢いが故に……」

「お爺様は、どうしてもライルを皇位につけたいんだわ。自分のために……そして、私を権力者の嫁に……」

「……ああ、わかっている。安心しろ、俺とて皇帝として矜持がある。いつまでも、好きにやらせるものか……!お前にも、無理強いなどはさせてなるものか……!」

「お父様……ありがとう……私は、アレスのところに行っていいのかな?」

「良いに決まっている。アレスは、ヒルダが好きだからな」

「ほんと!?」

「ああ、本当だ。俺が言うのだから間違いない」

「……そんなに会ってないのに?」

「グハッ!?……い、痛いところを突くな……」

「フフ……冗談よ。お父様が言うなら……勇気を出して行ってみるわ」



 結果から言って……アレスは許してくれた。

 いや、許すとか許さないとかじゃなかった……。

 私とお母様は別だって……大好きなお姉ちゃんって……。

 妹に会わせたいって……私がどんなに嬉しかったか……。

 人前で泣くなんて……レディとして失格だわ……。

 でも……我慢ができなかった……全く!アレスったら!



「ふふ……可愛かったなぁ~。また、会いに行きたいなぁ~」

 自分の部屋でそんなことを思い出しながら、私はニヤニヤしていた。

「でも……お母様やお爺様がうるさいし……お父様に苦労をかけるのも……」

 そんな時……お母様の鼻歌が聞こえてきた。

「ふふ~ん、良い気分だわ」

 珍しいわね……いつも、大体イライラしているのに……。
 ……あっ——今、言えば許してもらえるかも!?
 お外行きたいって言っても……。

「よし!追いかけないと!」

 部屋を出て、私はお母様の部屋に向かいます。

「あれ?扉が開いてるわ……ノックをしなさいって教わったし……どうしようかしら?」

 お母様は何が逆鱗に触れるかわからないから……。
 せっかく機嫌が良いのに、それで台無しなったら困るわ……。
 私は様子を伺いながら、部屋を覗き込む。

「ふふふ……あのアレスの顔が恐怖に歪む……あの女も、さぞ悲しむことでしょう……アハハ!笑いが止まらないわ!」

 ……ど、どういうこと?
 また、アレスに何かしたの?

「いや……宰相は死んでは困るって言ったけど……甘いわ。別に殺してしまって良いと思うのよ。跡を継ぐわけでもない出来損ないなんて。今なら、邪魔なブリューナグ侯爵家の娘も消せるし……」

 ……お母様……そこまでして……。
 お母様がそんな考えだから、お父様も近寄らないのよ。
 お父様だって、お母様を愛そうとしていたのに……。
 もちろん、エリナ様が1番で気にくわないのはわかるけど……。

「うん、それが良いわ。あの女も、思い知るがいい。チヤホヤされて、調子に乗ってるに違いないわ……私の方で、襲撃する傭兵を追加で雇いましょう。何かあっても、お父様が揉み消してくれるだろうし……ふふ、完璧だわ」

 ……宰相、ブリューナグ家とアレスが一緒、襲撃……あっ——。
 頭の中で線と線が繋がった私は、静かにその場を離れる。



「アレスとカグラは、アラドヴァル家の領地に……襲撃するなら……帰り道……」

 断片的な情報から、私が導き出した答えは……。
 お母様は——本気でアレスを殺す気だ。

「そんなことさせない……!いくらお母様でもやりすぎたわ……!」

 でも……もし、これで知らせたら……。
 そのことが露見したら……。
 お母様は……殺される……?

「で、でも、アレスが……!何も悪いことしないのに……!」

 ……ど、どうしたらいいの!?
 お母様のことだって憎いわけじゃない……。

「お、お父様のところに……そうよ!未然に防げれば、罪は軽くなるはず……!」

 私は、急いでお父様の元へ向かうのでした……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

処理中です...