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少年期~前編~

~皇女ヒルダの気持ち~

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 私は、この国唯一の皇族の女性……だった。

 今は、可愛い妹のエリカがいるもの!

 可愛いアレスの、可愛い妹……はぅっ!

 い、いけない……興奮しちゃうところだったわ。



 私は少し変わっているらしい……。

 民の生活を考えたり、威張らないことが……。

 なんでだろう?私達は、彼らの税金で生かされているのに……。

 お母様も、貴族達も、それが当たり前だと思っている……。

 私には、それが理解できない……。

 周りの貴族からは、この子は何を言ってるの?という顔をされたり。

 お母様には——育て方を間違えたとか言われたり……。

 でも、そんな私にも理解者がいるの。

 アレスっていう可愛い弟が。

 とっても賢くて、素直で優しい子。

 悪いと思えば謝れるし、何かをしてもらったらありがとうと言える。

 平民や貴族にも別け隔てなく接する。

 当たり前のようだけど、大人にも出来ない人が多いのが現実だ。

 初めて会った日から、私の唯一の可愛い弟。

 あと2人は嫌いね!傲慢だし、自分より下の者を虐めるし。

 何より……いくら言っても直そうとしないところが。

 ……まあ、いいわ。

 私にはアレスがいるもの。

 ……でも、アレスにとっては?

 私は邪魔じゃない?ほ、ほんとは……嫌いだったりしない……?

 バカ!私のバカ!アレスはそんな子じゃ……。

 でも、私のお母様のせいで、アレスは……。

 そんな時、事件が起きた。

 お母様達が、エリカが生まれるところに乗り込もうとしたのだ。

 私は知らされておらず、後からその事を知った……。

 ……私は、アレスに会うのが怖くなった……。

 もう、嫌われちゃった?お姉ちゃんとして見てくれない?

 新しい妹にも会わせたくないよね……。

 そんな時、お父様がお母様の反対を押し切り、私を連れ出してくれた。



「お、お父様、大丈夫なの?お母様、怒り狂ってたけど……」

「ああ、問題ない。たまには父親らしいことをさせてくれ。すまないな……ヒルダ」

「お父様は悪くないわ!悪いのはお母様と………何より、お爺様よ……」

「ヒルダ……そこまでわかっているのか……賢いが故に……」

「お爺様は、どうしてもライルを皇位につけたいんだわ。自分のために……そして、私を権力者の嫁に……」

「……ああ、わかっている。安心しろ、俺とて皇帝として矜持がある。いつまでも、好きにやらせるものか……!お前にも、無理強いなどはさせてなるものか……!」

「お父様……ありがとう……私は、アレスのところに行っていいのかな?」

「良いに決まっている。アレスは、ヒルダが好きだからな」

「ほんと!?」

「ああ、本当だ。俺が言うのだから間違いない」

「……そんなに会ってないのに?」

「グハッ!?……い、痛いところを突くな……」

「フフ……冗談よ。お父様が言うなら……勇気を出して行ってみるわ」



 結果から言って……アレスは許してくれた。

 いや、許すとか許さないとかじゃなかった……。

 私とお母様は別だって……大好きなお姉ちゃんって……。

 妹に会わせたいって……私がどんなに嬉しかったか……。

 人前で泣くなんて……レディとして失格だわ……。

 でも……我慢ができなかった……全く!アレスったら!



「ふふ……可愛かったなぁ~。また、会いに行きたいなぁ~」

 自分の部屋でそんなことを思い出しながら、私はニヤニヤしていた。

「でも……お母様やお爺様がうるさいし……お父様に苦労をかけるのも……」

 そんな時……お母様の鼻歌が聞こえてきた。

「ふふ~ん、良い気分だわ」

 珍しいわね……いつも、大体イライラしているのに……。
 ……あっ——今、言えば許してもらえるかも!?
 お外行きたいって言っても……。

「よし!追いかけないと!」

 部屋を出て、私はお母様の部屋に向かいます。

「あれ?扉が開いてるわ……ノックをしなさいって教わったし……どうしようかしら?」

 お母様は何が逆鱗に触れるかわからないから……。
 せっかく機嫌が良いのに、それで台無しなったら困るわ……。
 私は様子を伺いながら、部屋を覗き込む。

「ふふふ……あのアレスの顔が恐怖に歪む……あの女も、さぞ悲しむことでしょう……アハハ!笑いが止まらないわ!」

 ……ど、どういうこと?
 また、アレスに何かしたの?

「いや……宰相は死んでは困るって言ったけど……甘いわ。別に殺してしまって良いと思うのよ。跡を継ぐわけでもない出来損ないなんて。今なら、邪魔なブリューナグ侯爵家の娘も消せるし……」

 ……お母様……そこまでして……。
 お母様がそんな考えだから、お父様も近寄らないのよ。
 お父様だって、お母様を愛そうとしていたのに……。
 もちろん、エリナ様が1番で気にくわないのはわかるけど……。

「うん、それが良いわ。あの女も、思い知るがいい。チヤホヤされて、調子に乗ってるに違いないわ……私の方で、襲撃する傭兵を追加で雇いましょう。何かあっても、お父様が揉み消してくれるだろうし……ふふ、完璧だわ」

 ……宰相、ブリューナグ家とアレスが一緒、襲撃……あっ——。
 頭の中で線と線が繋がった私は、静かにその場を離れる。



「アレスとカグラは、アラドヴァル家の領地に……襲撃するなら……帰り道……」

 断片的な情報から、私が導き出した答えは……。
 お母様は——本気でアレスを殺す気だ。

「そんなことさせない……!いくらお母様でもやりすぎたわ……!」

 でも……もし、これで知らせたら……。
 そのことが露見したら……。
 お母様は……殺される……?

「で、でも、アレスが……!何も悪いことしないのに……!」

 ……ど、どうしたらいいの!?
 お母様のことだって憎いわけじゃない……。

「お、お父様のところに……そうよ!未然に防げれば、罪は軽くなるはず……!」

 私は、急いでお父様の元へ向かうのでした……。
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