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少年期~前編~

懐かしい風景にふれ、夢を見る

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 俺たちは親交を深めつつ、その後も観光を楽しんだ。

 川が流れる景色を見ながら、お昼ご飯を食べたり……しかも、蕎麦って。

 更には、まさかの甘味に出会ったり……まさか、餡蜜を食べれるとは……。

 うん……俺、ここに通おうと思う。



「いや~楽しかったな」

「ですね!」

「はい!」

「喜んでもらえて嬉しいです。では、戻るとしましょう」

 日も暮れてきたので、屋敷に戻ることにする。

 屋敷の前には、和風美人である弥生さんが待っていた。
 その後ろには、偉丈夫……当主が仁王立ちしている。

 「皆様、お帰りなさいませ。如何でしたか?」

「とても、良いところですね。きっと、この屋敷もノスタルジアの方々に合わせて作ったのでしょうね。それにアラドヴァル家は、ノスタルジアの人々と良い関係を築けていると思われます。きっと、日頃からの接し方のお陰でしょうね。国を代表して、皇帝陛下に代わり、お礼を申し上げます」

「……有難きお言葉、感謝いたします」

「……絶望していたが、まだ希望は残されていたか」



 その後、お風呂に入りながらオルガと会話する。

「そういえば、オルガには兄弟は?」

「姉上がいますよ。ただ、ノスタルジアの各地を転々としてまして……」

「へぇ……自由な方なのかな?」

「まあ……そうですね。お転婆なので、僕は振り回されますよ……」

「ハハ!僕と一緒だね!」

「恐れ多いですが……似てるかもしれないです。今度、会わせますね」

「うん、楽しみにしているよ……あっ——オルガ、帰りは一緒だよね?」

「え?あ、はい、ご一緒しますよ」

「じゃあ、帰りにうちに寄って行ってよ。妹を会わせたいんだ。まだ、うちにも来たことないし……多分、遠慮してると思うけど……もちろん、オルガがイヤじゃ……」

「そんなことはありませんっ!」

「うおっ!?」

「す、すみません……そうです……私のような男爵子息が、お邪魔して良いかと思っておりました。ですが……もう、やめますね……アレス様——お邪魔しても良いですか?」

「ああ!もちろんさっ!妹も家族も喜ぶし、何より——僕が嬉しいよ」

「て、照れますね……あっ——父上……」

 オルガの視線の先には……ゴーゲンさんがいた。
 ……凄い肉体だ……傷だらけだし、筋肉が盛り上がっている……。

「すまんな、邪魔をして……しかし、良き場面を見れましたな。オルガ、時に遠慮は相手を傷つける……覚えておくと良い」

「は、はいっ!」

「うむ……オルガ、アレス様と二人で話がしたいのだが……」

「わかりました、父上。では、僕が見張りもしておきましょう」

「すまんな……出来の良い息子で助かる」

 オルガは嬉しそうに頷き、風呂から出て行った。

 そして、ゴーゲン殿が少し離れたところで温泉に浸かる。

「フゥ……アレス様、如何ですかな?」

「ええ、とっても良い気分です。毎日入りたいくらいですよ」

「良きことですな……この辺境は扱いが難しいのです」

「え?」

「ノスタルジアとの付き合い、教会からの干渉……本国との付き合い……一男爵には、中々に荷が重く……いえ、申し訳ない」

 そうだよな……。
 男爵っていう地位に見合わない領地。
 重責を担う仕事の数々……魔物の出現率も高いらしいし。
 きっと、皇都の連中はハズレだと思っているのだろうな……。
 だから、男爵家に押し付けているのだろう。

「ご苦労様です……すみません、僕ではお力になれず……」

 俺に力があれば……不遇な扱いを受けている方々をどうにか出来るのに……。
 いや……それは考えてはいけないことだ。
 俺は母上や大事な人達のために強くはなりたいが……その座につく気はない。
 そんなことになれば……父上の兄貴達の、二の舞いになるだけだしな。

「いえ、お話を聞いて頂けただけ有難いです。貴方様は、しっかりした考えの持ち主のようですから」

「……出来る限りのことはします。父上にお伝えしましょう」

「催促をしたようで申し訳ない……」

「いえ、当然のことかと。国の要所なのですから」

「……それを理解している者が、皇都にどれだけいることか……」

「それは……」

「いえ、線なきことを申しました……明日は、如何なさいますか?」

「そうですね……鍛錬を積むことができる場所はありますか?」

「……魔物が発生しやすい箇所があります。我々が定期的に倒していますが……」

 ……また、足手纏いになるのもアレだが……。
 鍛えるには実戦が1番なのは……変えられない事実だ。

「足手纏いを承知で言います………ご迷惑をおかけしますが、我々も参加して良いですか?」

「……ククク……」

「ゴーゲン殿?」

「いえ、失礼いたしました。あまりに真っ直ぐなお言葉だったもので。命令すれば我々は断れないというのに……オルガは、良き方に出会えましたな」

「それはそうですけど……あまりしたくないですね。こちらこそ、オルガには世話になってますから」

「うむ……では、明日の予定はそれでよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いします」

 まだ、休暇は終わってないけど……。

 中々、色々なことがわかってきて、良い時間を過ごせているな。

 魔界のこともそうだし……国境付近のこと。

 ノスタルジアのこと……下の国は危険だし行けないからな。

 何より……あそこを守るのは、四大侯爵が一角。

 最大の力と権力を持つ……フラムベルク家があるからだ。




 その後、風呂から出て食事をとり、早めの就寝時間となる。

 皆が疲れていることもあるし、明日は実戦があるからだ。

 布団にに入った俺も……すぐに意識を手放す……。






 ……これは、また夢か。

 懐かしい日本の風景だ。

 きっと、久々に日本に似たものに触れたからだろうな……。

 ん?アレは結衣……?

 隣にいるのは誰だ……?

 男に見える……もっと近づけ!

 俺の願いが届いたのかはわからないが、視点が変わりよく見えるようになる。

 ここは……俺の墓の前か……。

 結衣が祈るように拝んでいるが……。

 後ろにいる今時の若者は、退屈そうな表情を浮かべているな……。

 もしや……結衣の彼氏か?

 おい?誰の許可を……夢に何を言ってんだか……。

 しかし、正人さんは知っているのか?

 くそっ!夢なのがもどかしい……!



「なあ、もう行こうぜ?」

「…………」

「おいってば!」

「煩いわ……ここはお墓よ。そもそも、なんでいるのよ?」

「いや……だってな……もう、よくね?」

「——何が?」

「こ、怖い顔すんなよ!いつまでも、死んだ人間を想っても意味なくね?」

「貴方には関係ないわ。あの人のこと知らないくせに」

「いや、でもよ……」

「さっきも聞いたけど……そもそも、なんでここにいるの?」

「お前が、また墓に行くって聞いたから……」

「お母さんったら……和馬さんのこと忘れさせようとして……」

「そりゃ、そうだろ!もういないんだぞ!?」

「うるさいっ!そんなことわかってるもん!」

「……ほら、ここに良い男がいるわけだし……なっ?」

「——触らないで。和馬さん、騒がしくしてごめんなさい。また、来ますね」

「おい!?待てって!」

 映像が遠ざかっていく……。

 随分と馴れ馴れしい男だな……。

 どうやら、綾さんが俺を忘れるように言ったようだが……。

 それに関しては、それで良いと思う。

 あんな若くて素敵な女の子が、俺なんかを想っていてはいけない。

 ただ……あの男は良くないな。

 チャラそうだし、自分を押し付けている感じがする。

 ……でも、そうか。

 気づかないフリをしていたが……結衣は、俺のことを……。

 俺とて……いや、今更どうにもならないか。

 もはや——俺と結衣が出会うことはないのだから……。


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