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少年期~前編~

side~蠢く悪意~

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 ……気にくわない!

 何故、出来損ないであるアイツにっ!

 この聖痕を持つ、正当なる後継者の俺が……!

 あんな大勢の前で恥をかかさせるとは……!



「クソがっ!!」

「ライル兄上、落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるかっ!奴は……この俺に恥をかかせたんだぞ!?」

 次期皇位継承者である——この俺様にっ!! 
 聖痕もない出来損ない如きがっ!!

「確かに、気にくわないですけどね……ただ、父上からも注意されましたし……」

「それだっ!何故、嫡男であり聖痕を持つ俺より……奴を優先する!?」

「それは……やはり、あの女の子供だからでしょうか?」

「俺にはちっとも構ってくれないのにな……今度は、妹まで出来ると言うし……なおさら気にくわない……!」

 母上が言うには、父上は俺らを愛していないそうだ。
 愛しているのは、出来損ないとその家族だと……!

「それには同意します。母上も寂しそうですし……全部、あの女が悪いのです!父上を籠絡して……!」

「あの色気は凄いからな……この歳になってきてわかるが……このままでは、アイツが……いや、流石にそれはあるまい……聖痕も持たぬ奴に継がせるはずが……」

「や、やめてくださいよ!そんな恐ろしいこと……」

「くそっ!……外でも行って、憂さ晴らしでもしてくるか」

「おっ、良いですね。我々の特権ですからね」

 そうだ……この俺に刃向える者などいてはならない……!
 全ての者は——俺にひれ伏すべきなんだっ!






 ヘイゼルと共に、皇城の純粋たる皇族専用の居住区を歩く。

「下級貴族にします?平民にします?」

「クク、そうだな……ん?」

 居住区の入り口付近の、人目のつかないところで会話をしているのは……。

「母上……それに、ノーラさん……宰相まで……」

 母上であり第一王妃でもある、ゲイボルグ侯爵家出身のゲルマ母さん。
 ヘイゼルの母で第二王妃の、ロレンソ伯爵家出身のノーラさん。
 最後に……この国の大臣である、トライデント侯爵家出身のモルダ殿。

「何を話しているのでしょうね?」

「わからんが……気になるな。しかし、話しかけられる雰囲気でもないな……」

 何やら、不穏な空気というか……俺ですら入り込めない感じだ……。

「私がやりますよ……風よ……音を届けたまえ……」

 ヘイゼルの得意の風魔法により、声が聞こえてくる……。
 こいつの聖痕の能力は、魔力の高さにある。

「人払いは……?」

「完璧です。誰も通さないように言っております。皇子達には、最悪聞かれても問題ありませんし」

「まあ、そうね。でも、なるべく聞かせたくないわ」

「余計なことは気にせずに、成長してほしいですからね」

「……まあ、それは任せます」

「それで……手はずはどうなってるのかしら?」

「ならず者を雇い、襲わせます」

「いつなの?」

「どうやら、アラドヴァル家に行くようです。その帰り道に仕掛ける予定です」

「なるほど……勝算はあるのかしら?」

「正直言って、厳しいかと。ブリューナグ侯爵家の護衛がいますから」

「あの忌々しいブリューナグ家めっ!侯爵家のくせに、あの出来損ないに肩入れして……!」

「それに、口煩いですよね。もっと贅沢を控えろとか、民のことを考えろとか……そんなことは、下々のもの達が考えること。私達が考えることではないですね」

「全くよ!そのくせ自分達には、お金がないから寄越せだ……食糧を送ってくれだ……好き勝手やってるのはそっちじゃない!」

「やれやれ……私も困っております。戦いばかりしてる奴らには、私達内政の苦労などわからないのですよ」

「それで……ならば、どうするの?」

「失敗しても良いかと思っております。大事なのは、狙われているぞと警告すること。というか……流石に殺してしまってはまずいですからね……それは最終手段です」

「どういうこと?」

「……なるほど。お姉様、つまりは……これ以上余計なことをすれば——不幸な事故も起きるぞと思わせるのですよ」

「ノーラ様の言う通りです。それに……いつどこから来るかわからない刺客に、9歳の子供が耐えられるわけがない。あとは、勝手に大人しくなるでしょう」

「そういうことね……フフフ……アハハッ!良いわ!それ!」

「お姉様……!声が……」

「あら、ごめんなさい。つい嬉しくて……あの出来損ないが怯える姿を想像すると……あの女が、それを見て悲しむ姿を……フフフ……」

「まあ……気持ちはわかりますね。あの生意気な顔が、怯えるところを想像すると……ふふ……堪りませんね」

「私もうんざりしておるのです。何故、出来損ないのために警備などを出さなくてはいけないのか……平民街に行きたいなら、勝手に行けばいいのです」

「あら、今度は平民まで媚を売っているのかしら?」

「まあ、まさしく出来損ないに相応しい行動ですね」

「ええ……というわけで、大人しく家に引きこもっていれば良いのです。では、そういう手筈でまいります」

「ええ、頼むわ」

「さて……楽しみ」

 俺達は顔を見合わせて、その場を離れる。



「聞いたか?」

「はい、これは……いい気味ですね」

「ああ、あの出来損には痛い目にあってもらおう」

 ……クク……出来損ないの分際で出しゃばるからだ。

 これを機に、大人しくしてるんだな……。

 帰ってきたアイツが……どんな顔をしてるか……。

 今から楽しみだ……!
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