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少年期~前編~

運命の出会い

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 まずい……あの威圧感は……。

 西洋系の赤いドラゴンが、傷だらけで歩いている……。

 動く?いや、気づかれないはず……。

 落ち着け……クソ!心臓の音がうるさい……!

(……いた……)

 ん?何か、声が聞こえた気が……。

(我らが主人よ……希望を……この子を……頼みます……)

 まさか……このドラゴンが喋っているのか……?

(……この世界を……偽りの世界を……)

 そのドラゴンは安心したかのように、俺の側に横たわった……。

 し、死んだのか?
 そもそも、バレていたのか?
 喋っていたのか、このドラゴンなのか?
 ……わからないことだらけだ。

「キュイ?」

「え?」

「キュイ……?」

「うおっ!?なんだっ!?」

 そのドラゴンの口の中から、小さな黒いドラゴンが出てきた……!

「キュイ!」

 俺を見つけるなり、その子は突撃してくる!

「おわっ!?」

「キュイー!」

 可愛い……いや、魔物だぞ!
 しかし……不思議と敵意は感じない。
 それどころか……安心?親愛?
 とにかく、殺す気など全く起こらない……。

「アレは、お前のお母さんか?」

「キュイ?」

「いや、そんなつぶらな瞳で見つめられても……」

 この子は黒いし、頭に角もある……目は赤いかな。
 同じく、西洋系のドラゴンの体型をしているけど……。
 ただ、愛嬌があるというか……これ、どうしよう?

「キュイー!」

「うわっ!?ペロペロするんじゃない!」

「キュイー……」

「いや……怒ってないから。参ったな……」

 他の人に見つかったら殺されるだろうな……。
 ドラゴンは悪の象徴とされているから……。
 逃す?どっちしろ殺されちゃうか……。
 ……どうして、俺は救おうとしている?
 何故か、この子は救わなきゃいけない気がしてならない……。

「アレス様——!!」

 クロイスの声!まずい!

「キュイ!」

「はい?」

「キュイキュイ!」

 ……何かを伝えようとしている?

「よくわからないが……許可する」

「キュイ!」

 すると……ドラゴンは、俺の影に隠れていく……。
 これは……闇魔法の一種か……?
 見つかったら、確実に殺されちゃうな……。
 俺も見つかったらタダじゃ済まないけど……。
 どうしても、見捨てる気になれない……何故?

「アレス様!!」

「クロイス殿、心配をおかけしました」

「いえ!ご無事でなによりです!貴方様にもしものことがあれば、私は皇帝陛下に顔向けが出来ませぬ!」

「アレス様——!」

 突撃してくるカグラを、優しく受け止める。

「おっと……カグラ、痛いよ?」

「良かったのだー!無事なのだー!」

「こら、グリグリしないでくれ……」

 そういえば、誰もドラゴンのこと言わない……え?

「消えてる……?」

 さっきまでいた赤いドラゴンが消えていた……。
 幻?いや、そんなわけは……。
 あの黒いドラゴンは?アレも幻なのか?

(キュイー!)

「うおっ!?」

「どうしたのだ?」

「いや……なんでもないよ」

 どうやら、影の中にいるようだ。
 これは、気をつけないといけないな……。

「アレス様もお疲れなのでしょう。さあ、領地に戻りましょう。魔物は、倒し切りましたから」

「すまない、迷惑をかけちゃったね……」

「いえ、アレは読めませんから。やはり……封印が緩んでいるのかもしれませんね」

「ああ——その可能性はある。父上にも、僕から伝えておくよ」

「お願いします。私からも、お手紙を書きますので……お渡しをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「それは……いえ、わかりました。必ず父上に……僕が手渡しをします。

 恐らく、もみ消されることを心配しているのだろうな……。
 あの腐った大臣共に……。
 金がかかるとか、自分たちの仕事が増えるからという理由で……。
 前の世界でもそうだったが……。
 どうして、奴らはああなんだろうか?



 その後、無事に侯爵邸に到着する。

「アレス様!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だよ。2人共、心配をかけたね」

「さあ、まずはお風呂に入ってください」

「ええ、わかりました」

「では、僕もご一緒しましょう」



 オルガと共に、風呂に入る。

「フゥ……疲れたぁー」

「災難でしたね……まさか、そんな事があったなんて……ここからでも、見えました。光の壁が揺らいでいたのを……」

「そっか……なら、もみ消される心配もないかも……」
 
 ここからでも見えたなら、他の領地や国からも見えたはず……。
 いくつもの場所から通達がくれば、いくらあいつらでも無視はできない。

「え?」

「いや……そういえば、オルガの領地はどの辺りなんだい?」

「僕の家は、ノスタルジアの近くですね」

「へぇ……行ったことはあるの?」

「ええ、何度か」

「いいなぁー。僕も行ってみたいね。母上やカエラの故郷だし」

「そうでしたね……では、次は僕の領地に来ますか?ここよりも近いですし、一泊あれば行けますけど……」

「え!?いいの!?」

「ええ、もちろんです。父上も喜びますよ」

「そっかぁ……オルガのお父さんなら会ってみたいかな。じゃあ、お手紙を書くから一緒に渡しておいてくれるかい?」

 流石に、男爵家だと色々手続きが必要だからな。
 侯爵家とは何もかもが違うし……財力と、権力が。

「ええ、わかりました……その、楽しみです!」

 うん、色々あったけど……良い休暇だったな。

 オルガとも仲良くなれたし、父上が信頼するクロイス殿に会えたし。

 魔界もこの目で見る事ができたし……。

 ただ……この子はどうしようかな?

(キュイー?)

 ……とりあえず、良い子だから助かるけどね……。


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