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少年期~前編~

妹の名前と遠出

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 初めての実戦から、2週間が過ぎた。

 姉上のお陰なのか、あれから奴らが絡んでくることはなかった。

 それに、大臣達や王妃達からも何も言われていない……。

 そつちは、父上が上手くやってくれたのかなと思っている。

 ただ、ザガンやロレンソは奴らの派閥らしく、俺に嫌味などを言ってくるが……。

 自分に言われる分には、大したことはない。

 子供の言う戯言だと受け流せるし、こっちは前世の記憶があるしな。




 そんな日々を過ごしていたある日のこと……。

「え?僕が?」

「は、はい!私の家に来てもらえませんか!?」

「良いけど……喋り方、どうしたの?カグラらしくないけど……」

「え……?変ですかね……やっぱり……」

「ううん、変ってことはないよ。ただ、どうしたのかなって……」

「母上が……す、好き……違くて、アレス様の側にいたいなら、きちんとした言葉を覚えなさいって……」

「……それは、無理してるのかな?」

「……少し」

「なら、無理しなくていい。そういうしおらしいカグラもいいけど、僕は普段のカグラも良いと思うよ?もちろん、公の場ではさっきみたいにした方がいいけどね」

「あぅぅ……」

「ハハ……カグラちゃん、顔真っ赤……」

「赤くないのだ!」

 あんまりからかうもんじゃないか。
 可愛いから、ついね……。
 俺も、やっぱり子供になっているのだろうな。

「それで……どうしたのかな?」

「父上と母上が、是非来て欲しいって……本来なら、こちらから行くべきなのはわかっていますがと……もちろん、全ての手配はこちらですると……」

 確か……魔界に近い国境付近を守っているんだよな。
 そりゃ、中々離れることは出来ないだろう。

「うん、いいよ。僕1人かな?」

「セレナも来るのだ!オルガも!」

「ふえっ?………わ、私も?」

「僕もですか……侯爵家当主に……父上と仲は良いとは聞いていますが……」

「遠慮しなくて良いのだ!うちは、そういう堅苦しいことは気にしないのだ!」

「カグラが言うなら、みんなで行こうか。オルガとも、出掛けたことないしね。次の休みはどうかな?」

「わ、私は平気です!」

「アレス様……覚えていてくれたのですね……ええ、僕も問題ありません」

「うむ!決まりなのだ!」

 そうして話はまとまり、それぞれ報告や親睦を深めて日々を過ごす……。



 そして……週末になり、出かける日を迎える。

「母上!動かなくて良いですから!」

「まだ、平気よ」

「ダメですよ、エレナ様。さあ、戻ってください」

「むぅ……可愛いアレスをお見送りしたいじゃない……」

「僕が行きますから」

 母上に近づくと、強く抱きしめられる……。
 安心する……懐かしい感覚……。

「この人がお兄ちゃんですよー。エリカ」

「あれ?名前……?」

「昨日、決めたわ。もう、あと3ヶ月くらいだもの」

 どうやらこの世界は、十月十日というわけではないようだ。
 7ヶ月から、9ヶ月で生まれてくるらしい。
 聞いた時は驚いたが、人の死が軽い世界だ。
 本能的に、そういう作りになっていったのかもな……。
 そもそも、前の世界の常識を当てはめることが間違っているかも……。
   ちなみに、性別などは魔力の波動などでわかるようだ。


「そうですか……エリカ。僕の名前はアレスだ。無事に元気で生まれてくれれば、他に言うことはない。たとえ、何があってもお兄ちゃんはお前の味方だ」

 今度こそ、君を悲しませない……!

「ふふ……まるで、妹がいたみたいに慣れてるわね?」

「……シミレーションしましたから」

「良かったわねー?エリカ。優しいお兄ちゃんで」

「アレス様ー!時間ですよー!」

「おっと、待ち合わせしてるんだった。では、行ってまいります」

「ええ、いってらっしゃい」

「アレス様、お気をつけて」

 俺は馬車に乗り、三人と合流してそのまま皇都を出て行く。



 道中にて……。

「すまないね、カグラ。護衛の騎士まで手配してもらって」

 本来なら、皇族である俺には護衛がつくはずなのだが……。
 大臣達や王妃達がうるさいからな。
 代わりに父上が、ブリューナグ家に働きかけてくれたようだ。

「いえ!当然のことです!我が家が誘ったのですから!」

「うん、それでもありがとう」

「ドキドキ……お外に出るの初めて……」

「僕は地方から来たけど、セレナさんは皇都で生まれたからね。アレス様は?」

「僕も初めてだよ。だから、ワクワクしてるかな」

「皇族の方ですからね」

 ……まあ、姉上みたいな例外もいるけど。
 継承権がないのも理由だろうな。
 俺は聖痕がないから、外出許可が下りた。
 ……少々複雑な気分ではあるな。

「わぁ……!すごいですね!」

「どれどれ……ああ、すごいね」

 馬車の外には、見渡す限りの草原が広がっていた。
 生き物や魔物達が徘徊しているが……。

「……世界は広いな……」

 生まれてからしばらくは家から出られなかったし……。
 街を自由に歩き回ることもできなかったし……。
 いつか……旅とかしたいものだな……。
 まあ、無理だろうけどね……。


 この時の俺は、知る由もなかった……。
 この先の出会いで、運命が変わることを……。
 いずれ、旅などと言えない出来事が起きることを……。
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