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ナイルとの話

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……帰りが気まずい。

いや、正確には俺とセレナ様だけが。

後ろに乗せてはいるが、俺の服の端をちょこんと握っているだけだ。

特に話すこともなく、領地へと向かっていく。

すると、しびれを切らしたのか、ギンが念話で話しかけてくる。

『主人よ、どうなっているのだ? セレナの様子がおかしいぞ?』
『あぁー……よくわからない』
『どうせ、主人が何かしたのであろう? 主人は女心がわからない故に』
『ほっとけ。そもそも、お前に何がわかる?』

ギンはまだ、人間で言うところの十歳くらいだ。
番を見つけるのは、あと三十年くらい先だろう。
道理で子供の相手もできるわけだ……やっぱり、わんちゃんで合ってるのかもしれない。

『我にだって、それくらいはわかるのだ。何より、エルフの女が言っていたのだ。あいつってば、女心とかわからなそうよねーと』
『くっ……確かに言われていたな。まあ……俺が悪いんだろうな』
『でも、女子は理由がわからないのに謝ると怒るとも言っていたぞ?』
『そんなことも言っていたな……難易度が高い』

何せ、生まれてこの方……女性と付き合ったこともなければ、親密な関係になったこともない。
十七歳で戦争に参加し、ずっと戦場で過ごしてきた。
そういうのに興味がないと言ったら嘘になるが……女にうつつを抜かした奴から、死んでいくというジンクスがあったからな。




結局、解決しないまま……街へと到着する。

朝早くに出て行ったので、どうにか日没までに帰ってくることができた。

そして荷馬車を引く俺達に、門兵や住民達がすぐに気づく。

「おおっ! 領主様達が帰ってきたぞ!」

「誰か! モルト殿に知らせを!」

「アイク様! お疲れ様です! あとはこちらでお預かりいたします!」

「ああ、よろしく頼む」

荷馬車を待機していた兵士達に預け、その場で解散させる。
皆疲労困憊で、ふらふらしながら去っていく。
さてさて、何人が残ってくれるか。

「そ、それじゃ、私もこれで……」

「あ、ああ、今日は助かった」

「い、いえ!」

そうして、俺とギンだけが残され……ナイルがやってくる。

「何したんです?」

「どうしてそうなる?」

「いや、どう考えても先輩が原因かと」

「……泣かれてしまった。もっと、頼って欲しかったと」

「あぁー……お疲れのところ悪いんですけど、ちょっと時間いいですか?」

「ああ、俺は平気だ」

そして俺はナイルの後をついていき、今はほとんど使われてない地区にいく。
草むらがあったので、そこで地べたに座り込む。

「ここなら聞かれることもないでしょう。本当は、本人がいないところで言うのはあれなのですが……セレナ様は、先輩の功績を認めて欲しかったみたいですね。それは、俺も同じですが」

「どういうことだ?」

「どうして戦争の立役者である先輩がパーティーに出れなかったり、休む間もないまま辺境に飛ばされることになったりするのかと。セレナ様は自分を犠牲にする貴方を……自分が助けたかったんではないかと。ですが、貴方は黙って出て行ってしまいました」

「それは……」

「ええ、わかっていますよ。貴方は別に褒賞も求めてもないし、こちらに気を使っていることも。ですが、やはりモヤモヤはするんですよ。これも、勝手な押し付けなので申し訳ないですけどね」

そうか……ナイル達はともかく、セレナ様も同じように。
あの時、俺はセレナ様に迷惑かと思って黙って出て行ってしまった。
しかし、それこそが……彼女を傷つけてしまったということか。

「いや……お前達の気持ちは嬉しい。俺とて無感情というわけではないし、思うところがないわけではない」

「先輩……」

「ただ、俺は割と今の暮らしを気にいっているんだ。ギンとのんびり過ごしたり、俺が戦争から守れた民達を見れること。そして、気心知れたお前達も来てくれたから」

「それなら、同じようにセレナ様にも言ってあげるといいかと思います」

「ああ、善処はする……少し疲れた。俺はここで休むから、お前は先に行ってくれ」

「はい、わかりました。ギン殿がいるし平気ですね」

そうしてナイルが立ち去るのを確認し、俺の後ろで待機していたギンに寄りかかる。

ギンは何も言わずに目を閉じ、俺も同じように目を閉じる。

そして、すぐに……意識が遠のいていく。




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