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悪夢

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「……やめろぉぉぉ!」

俺の目の前で、仲間達が死んでいく。
時に魔法で吹き飛び、剣や槍で貫かれ、遠くからの矢によって。
いくら救おうとしても、この手からこぼれていく。

「お、俺は何も救えやしない……!」

いくら強くなっても、上官の命令を無視しても部下は死んでいく。
なのに、俺だけはいつも生き残ってる。
皆が、俺には死んでほしくないと……その身を犠牲にしたこともあった。
生きて、この戦争を終わらせてくださいと。

「俺が強くなれば……もっと……誰よりも強くなって皆を守れば……もう、誰も死なせない!」

そうすれば、大事な人を死なせずに済む。
そう思っていたのに……一体、何人の部下の死を見送っただろう。
親族に遺骨や手紙を送り、悔しくて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「もう、大事な人が死ぬのは見たくない……なのに、皆が死んでいってしまう! 俺が不甲斐ないばかりに!」

その時、何か温かい感触に包まれる。

それは潰れそうになる俺の心を和らげ、少しずつ解いていった。

そして重いまぶたが開き、視界が開けていく……。







「……ここは」

「あっ! 気がつきましたか!?」

何故か、目の前にはセレナ様がいた。
俺を心配そうに見つめてくる。

「……俺は一体? どうして、セレナ様……セレナさんが俺の部屋に?」

「そ、その、勝手に入ってごめんなさい。時間になっても珍しく起きてこないから、様子を見てくるように言われたんです……皆さんに」

「ったく、あいつら。王女を使いっ走りに使うとか何を考えているんだか」

「わ、私が志願したからいいんですっ。それに、ここでは王女ではありませんよ?」

そういや、そういう話だった。
だから、俺も敬語を使わないようにしないといけない。
下手に気を使う方が、この方にとっては良くないだろう。
……俺も、完全に意識を切り替えるとするか。

「そうだったな。だが、俺は不器用な男だ。貴女がそういう扱いを望むなら、そういう対応しか出来ないと言っておく」

「えへへ、望むところですねっ」

「やれやれ……何がそんなに嬉しいのだか」

「だって、こうやって普通に話せる日を楽しみにしてたんです。戦争中はお互いに立場がありますし、それぞれ特定の一人と仲良くするのは憚れますから」

「まあ、それはそうだ……今更だが、約束を破ってすまない」

俺はきちんと起き上がり、彼女に対して頭を下げる。
どんな事情があるにしろ、俺が黙って出て行ったのは確かだ。

「い、いえ! それはいいんです! ……その、私のことを考えてくれたんですよね?」

「あ、ああ……色々と変な噂もあるようだからな」

「あっ……そ、そ、そうですね! 別に私はごにょごにょ……」

なんだ? 何やら下を向いて呟いているが……やはり、気持ちのいい話ではないか。
こんなおっさんと、恋仲と言われていたなど。

「まあ、噂などすぐに収まる。ともかく、何かあれば言ってくれ。詫びというわけではないが……そういう性分でな」

「収まっても困ります……」

「うん?」

「いえ! ……何でもいいんですか?」

「ああ、俺にできることなら」

「……なんの夢を見ていたのですか? その、とっても苦しそうでしたの」

その言葉に……咄嗟に反応できない。
それは、彼女にとっても辛い記憶だろうから。
しかし、約束は約束だ。

「……昔の夢を見ていた。まだ未熟で、部下を何人も死なせてしまった。俺の力が足りないばかりに」

「そうでしたの……私も気持ちはわかります。回復魔法は万能ではなく、目の前で手を握った方々が亡くなっていくのを見てましたから」

「セレナさん……すまない、思い出させてしまった」

彼女の方が、俺なんかより余程辛い目に合っている。
一度は助かった命を、目の前で失っているのだから。
それはある意味で、一番辛いことだろう。

「ううん、いいんです。私は、彼らを忘れたくありませんから。思い出もそうですが、戒めとして」

「……立派な考えだと思う」

「ありがとうございます……私達は、彼らの分まで生きる必要があると思うんです。彼らの生きた証と、彼らが作ってくれた平和を守るために」

「……ああ、その通りだ」

その言葉は、後ろ向きだった俺の心に染み渡る。
それで俺の罪が軽くなる訳ではないが、これからの行動で示していけばいいと。

「だから、こうしてお話をしましょうね? そうしたら、彼らは思い出の中で生き続けますから……綺麗事かもしれないですけど」

「いや、俺だったら……それはとても嬉しいことだと思う。だから、たまには良いかもしれない」

「アイク様にそう言って頂けると嬉しいです」

そう言い微笑む彼女は、とても綺麗で美しかった。
今更ながらに、自分の部屋に二人でいることに焦ってくる。
しかも、俺は寝汗がすごい事になっているし。
多分、臭いのではないのだろうか?

「と、ともかく、起こしてくれて助かった。とりあえず、身体を拭くので出て行ってくれるか? 他はともかく、ちょっと背中の寝汗が酷くてな」

「そ、そうですよね!」

そして、彼女が立ち上がり部屋を出て行こうとして……立ち止まった。

「どうした?」

「あ、あのぅ……お背中だけでも拭いても良いでしょうか?」

「……はっ?」

我ながら間抜けな声が出た。
それくらい、彼女の言葉は衝撃的だった。
王女様に背中を拭かせる男など、この世界で聞いたことがない。

「わ、私は水魔法が使えますし! 手間が省けるかと! 乾拭きより気持ちいいですし!」

「い、いや、何を言っているんだ?」

「兄や弟にはよくやってましたから! そ、それに、なんでも言ってくれって言いましたもん」

「いや、兄弟とは違うだろ。それと、それはさっきの話では?」

「一回とは聞いてません」

今度は膨れっ面をして、子供みたいなことを言う。
セレナ様は大人っぽいと思っていたが、こういう一面もあるのだな。

「ははっ! 確かに!」

「わ、笑われてしまいました……ダメですか?」

「いいや、平気だ。それでは、お願いしよう」

「はいっ、お任せください!」

下手に恥ずかしがっても変になるので、素早くTシャツを脱ぐ。

そして彼女に向けて背中をむけるのだった。
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