上 下
4 / 46

到着

しおりを挟む
休憩を挟みつつ、ひたすらに草原を駆け抜ける。

ギンは魔獣の中でも最上位に近いので、力の差がわかる敵は寄って来ない。

力量の差がわからない魔獣などは、ギンの爪で一蹴されるので問題にもならない。

俺は何もすることなく、久々にのんびりと過ごす。

「……それにしても戦争の傷跡が酷いな」

「ガウ?(どうしたのだ?)」

「いや、王都付近では感じなかったが……西に行くに連れて寂れた印象を受けるなと」

「ガウ(確かに活気がない場所が多い。人々もやせ細っている印象だったな)」

今回戦争が起きたのは、我が国の王都より北に位置するガルド帝国だ。
当時国土を広げ、我が国の領土と資源を求めて侵略戦争を開始した。
この辺りは戦場ではないとはいえ、兵力や食料などを長年取られた影響かもしれない。

「まだ戦争は終わってないということか……俺にできることはあるだろうか?」

「ガウ(相変わらずのお人好しだな)」

「ほっといてくれ」

「ガウ(だが、その甘さに我は救われた。主人の気がすむようにしたらいい。我は協力を惜しまない)」

「ギン……感謝する。それじゃ、道中の村々に食料を届けながら向かうとしよう」

そうして魔獣狩りをしつつ、食べられる魔獣を村々に届けながら目的地に向かう。
そして一週間後、西の果てである目的地近くに到着した。
これでも早い方で、普通に馬で行ったら十日はかかっていたはず。
夕日の中、小高い丘の上からその景色を眺める。
奥には山々があり、西のほうには深い森、手前付近には村々と畑などがある。

「久々だな……少し景色は違うが懐かしい」

「ガウ?(そうなのか?)」

「ああ、まだお前に出会う前……十七歳くらいの時に、父に連れられて遊びにきたことがある」

「ガウ(ふむ、我と主人が出会ったのは戦争が始まってからであったな)」

ギンを拾ったのは十年くらい前で、それは戦場でのことだった。
ある作戦で殿を務めた俺は森へと逃げ込み、そこで雨の中倒れていた子供狼を見つけた。
とっさに抱え込み、そのまま一緒に近くの洞窟で過ごして世話をした。
それからは俺の良き相棒として、共に戦場を生き抜いてきた。

「もう、そんなになるか。あんなに小さかったのに、今では馬くらいあるしな……早いもんだ」

「ガウ(まだ大きくなるがな)」

「確かフェンリルの大人は三メートルを超えるって聞いたしな……さて、そろそろいくか。あちらに着く頃には、日が暮れてしまう」

俺はギンに再び跨り、丘を越えていく。
そして、一時間くらいかけて……小さな街の入り口に到着する。
ギンがいるので怖がらせないように、ゆっくりと門に近づく。

「な、なんだ!?」

「大型の魔物!?」

「騒がせてすまない、私の名前はアイクという。国王陛下の命により、この地の領主として赴任してきた者だ」

武器とギンをその場で待機させ、俺は手紙を門番に渡す。

「なになに……この者を新しい領主に命ずる?」

「そもそも、うちには領主様なんていないべ?」

「俺たちじゃ難しいことはわかんね! お前はモルトさん呼んでこい!」

「そ、そうだな!」

一人の門番が、慌てて街の中へと入っていく。
俺はその間に、雑談をすることにくる。

「そう言えば、ここにくるまで他に街とか見なかったのだが」

「もう大きな街はないんですよ。王都で政変があって、戦争が起きてから若い連中はほとんど出て行っちゃって。残ったのは、住むところがない連中や住み慣れた土地を離れたくない者達でさぁ」

「なるほど……近くに村とかは?」

「それならいくつかありますよ。ただ、大分減ってしまいましたが」

ということは、ほとんど領地としては機能してないってことか。
すると、門が開いて身長の低い初老の男性がやってくる。
白髪をオールバックにし、優しそうな雰囲気の人だ。

「お待たせいたしました。国王陛下より、この地の代官を任されているモルトと申します」

「突然押しかけてすみませんでした。お手紙にある、アイクと申します」

「これはこれはご丁寧に……ささっ、まずは中でお話をいたしましょう」

「ありがとうございます。ところで、ギン……従魔がいるのですが、中に入れても良いでしょうか?」

俺としては無理を言うつもりはない。
こんな辺境では、ギンのような魔獣は珍しいだろう。
危険がないとは言っても、それは初めての人には理解しがたい。

「へっ? あ、あれですか……いえ、構いません」

「よろしいのですか? まだ、俺の身分もきちんと示してないのに」

「このお手紙には確かに国王陛下の印があり、全権を委ねてあると書いてありますから。そこには銀狼もいるとの記載もあるので、逆に信用がおけるかと」

「そんなことが……感謝いたします。きちんと言い聞かせますのでご安心を」

「では、私の後をついてきてくださいませ」

開封をしてはいけないから、俺自身は手紙の内容を知らない。

ギンのことも知っていておかしくはないが、全権を委ねるとは俺を信用しすぎてないか?

もしかして……セレナ様が何かお伝えしていたのかもしれない。

そんなことを考えつつ、俺はギンを連れて街の中へと入っていくのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...