静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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それぞれの未来へ

再会

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 それから日にちが経ち……。

 卒業式当日がやってくる。

(啓介も無事に受かったし……これで、あとは綾に会うだけだ)

「綾ちゃん、間に合うかな?」
「だと思うが……」

 綾は一昨日帰ってくる予定だったが、誠也が風邪を引いたらしく……。
 今日の朝ギリギリに空港に着く予定らしい。
 昨日の電話でも、二人にしきりに謝られたが、それは仕方のないことだ。
 ……すると、俺のスマホが振動した。

「ん?綾?」
「なんかあったのかな?」

 俺はとりあえず電話に出る。

「もしもし?」
『も、もしもし!? 冬馬くん!?』

 電話越しの綾は慌てた様子だ。

「落ち着け、綾。どうした?」
『えっと、電車事故があって……幸い、大怪我した人や死人はいなくて……でも、点検作業があって遅延しちゃうって』
「タクシーは?バスは? レンタカーは時間がかかるか……」
『もうすっごい並んじゃって……卒業式、間に合わないかなぁ……みんなと一緒に出たかったのに……あっ! 誠也! ちがうの! 誠也は悪くないから!』

 電話越しに、誠也の泣き声が聞こえてくる。

(このままでは、二人にとって良くない思い出になってしまうな……そんなことは、この俺が許さない)

「綾、玲奈さんに代わってもらえるか?」
『えっ? う、うん……』

 すると……。

『もしもし? 冬馬君?』
「お久しぶりです、玲奈さん」
『ごめんなさいねぇ、こんなギリギリになって……』
「いえ、誰も悪くありませんよ。怪我人もいないそうですし。今から迎えに行くので、綾に着替えをさせておいてください。そして、誠也に泣くなと。お前の兄ちゃんが、何とかしてやるからと」
『……ふふ、相変わらずね。わかったわ、二人のことは任せてちょうだい。でも、貴方が気をつけなさいね?』
「ええ、もちろんです。安全運転でいきます。幸い、まだ時間はあります」
『そうね。卒業式は十時開始だから、まだ二時間半はあるわね』
「ええ、それでは失礼します」

 俺は電話切り、急いで準備を済ませる。

「お兄! ヘルメット!」
「おっ、サンキュー。じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね!」
「もちろんだ」

 麻里奈からサブのヘルメットを受け取り、俺はバイクを走らせる!

(さて……待ってろよ、綾——すぐ行くからな)





 ◇◇◇◇


 ど、どうしよう!?

「お、お母さん!」
「落ち着きなさい、綾」
「へ、平気かな? 事故とか……」
「あの子がそんなヘマをするとは思えないわ。誠也、泣かないの」
「グスッ……僕のせいで……」
「お兄ちゃんに、しっかりしたところを見せるんじゃなかったの?」
「……うん!」

(ほっ……よかった。私のせいで、誠也が気にしちゃったら可哀想だもん)

「ほら、早く着替えなさい。おそらく、バイクで来るってことよ。貴方が怪我をしないように、しっかりしなさい」
「う、うん!」

 私はトイレに行って、上着やスカートを脱いで……動きやすい格好に着替えます。

(うぅー……可愛い格好で会おうかと思ってたのに……)

「顔、変じゃないかな? なんか可愛くなくなったとか思われたらどうしよう? 冬馬君は、かっこよくなってるんだろうなぁ……」

(ど、どうしよう……今更ドキドキしてきた……このタイミングで会う予定じゃなかったから……でも……会えるんだ……嬉しい)

「それに相変わらずカッコいいし……すぐに判断してきてくれるって……結局、私にとって冬馬君は——ヒーローなんだ」

(でも、それでも良いって思えるようになった。それに依存したり、甘えすぎたりしなければ……その分、私が他のことで支えれば良いんだって)

「よし! 情けない顔しない!」

 私は気合いを入れて、着替えを済ませるのでした。








 そして……軽く食事を済ませ、駐車場付近で待っていると……。

「あっ!」

 忘れもしない、見覚えのあるバイクが目に入る。

 気がついた時には、私の身体は走り出していました。

(冬馬君だ……ずっと会いたかった……!)





 ◇◇◇◇




 安全運転を心がけつつ、何とか一時間で到着し、バイクから降りると……。

「冬馬君!」

 駐車場の向こうから、綾が駆け出してくる。

(……ああ、綾だ。ずっと……会いたかった)

 気がつけば俺も、走り出していた。

 そして……。

「会いたかった……!」
「俺もだよ」

 綾を強く抱きしめ——キスをする。
 その体温、声、香り、その全てが愛おしい。

「んっ……」

(……身体全体が、幸せに包まれている感覚だ)

「お母さん! なにするの!? 見えないよ!?」
「はいはい、貴方にはまだ早いわ」

(おっと、いかんいかん)

 名残惜しいが、綾と離れ……もう一度、姿を確認する。
 顔は少し大人っぽくなり、長い髪もサラサラで綺麗だ。
 でも、雰囲気なんかは以前のままのような気がする。

「綾、お帰り」
「う、うん……ただいま!」
「ほら、早く行きなさい」
「そうですね。誠也、また後でな」
「うん! 兄ちゃん——ありがとう!」
「なに、気にするな。可愛い弟を泣かせるわけにはいくまい」

 俺は綾にヘルメットを渡し……。

「ほら、いくぞ」
「えへへ、懐かしいね!」
「ふっ、そうだな」

 一年ぶりだというのに、すぐに以前のような雰囲気に戻る。
 実は少しだけ心配していたが……ほっと一安心である。

「しっかり掴まってろよ?」
「うん!」

 懐かしい柔らかなモノを感じつつ、俺はバイクを発進させる。

 必ず、間に合わせてみせる!
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