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それぞれの未来へ

最後の日~後編~

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 ~綾視点~

 ……今日が最後だね。

 鏡の前で、私は今日の準備をする。

「髪型は……出会った頃のように下ろしておこうかな?」

(あっという間だったなぁ……この約一年)

 五月に知り合って……そこから徐々に変化して……。
 どうにかして近づけないかって……日々悩んで……。
 ようやく付き合えて幸せだなって思ったら……違う悩みが出てきたり。

「メイクは、冬馬君は濃いのが好かないと思うから……これでよし」

 軽めに済ませて、制服に着替える。

(これを着るのも、実質もう最後かぁ……この格好でも色々なことがあったね)

 初めての制服デートをしたり、学校帰りにゲームセンター行ったり、カラオケだって……あ、あんなこともしたり……。

「結局、冬馬君はあれから何もしてこないけど……あぅぅ」

(したいわけじゃないけど、興味はあるといいますか……複雑な乙女心です)

「か、帰ってきたら覚悟しとけって言ってた……」

(な、何されちゃうんだろう? いや、わかってるんだけど……他にもすごいことされちゃうのかな? 加奈や愛子には、きっと獣みたいになるよって言われたけど……はぅぅ)

「冬馬君と付き合ってから少し太っちゃったし……見られても恥ずかしくないようにしとかないとだね……な、何言ってんるだろう?」
「お姉ちゃん、ぶつぶつ何言ってるの?」
「せ、誠也!? ノックしてよ!」
「したよ? あと、遅刻しちゃうよ?」
「へっ? ……あっ——何で!?」

 いつの間にか、待ち合わせ時間が迫っていました!

「誠也! 行ってくるね!」
「はいはい、待ってるね」






 ま、間に合ったぁ……逆に急ぎすぎて、少し早くきちゃった。

「か、髪を直さないと……最後のデートなんだから、可愛いって思われたいもん」

 手鏡で髪を直して、少しすると……冬馬君が歩いてきます。

(かっこいいなぁ……背筋がピンと伸びてて……精悍な顔つきなんだけど……私を見つけるとクシャって感じで笑うの……ほら)

「待ったか?」
「ううん!」

(本人には言わないけど、私だけに見せる顔なんだよね……この顔が好き……身体がふわふわして……胸がぎゅーってなるから)






 楽しい時間は、あっという間に過ぎていく……。

 お世話になったみんなに、挨拶回りをしたり……。

 思い出の場所や、楽しかった遊びなんかしたり……。

 そして……出会った路地裏で、2人とも黙って歩く。

(ここで、会ったよね。怖くて、どうしようもなくて……そんな時、いつも冬馬君が助けてくれた……私はいつからか、それに甘えきってしまった)

 だから、強くなろうと思った。
 大好きな彼の横に立てるように。
 ずっと、一緒にいたいから。







 だから、今日だって……泣かないって決めてたのに。










 ◇◇◇◇


 ……ん? 返事がないな。

 勇気を出して、俺が顔を上げると……。

「ひ……ひくっ……あぐ……」

 綾の目からは——大粒の涙が溢れていた。

「あ、綾……」
「あぅあぅ……ご、ごめんなざいぃ……泣かないって決めてたのにぃ……」
「そうか」
「で、でも……嬉しすぎて……止まらなくて……」

 俺は予定変更して、立ち上がり……優しく抱きしめる。

「泣いて良いんだよ。そうか、ずっと気を張っていたのか……俺に心配かけないために」

(俺は馬鹿か……ここに残る俺より、綾のが寂しいに決まっているじゃないか)

「う、ううん……そうだけど、違うの。私が、これからも冬馬君といたいから……」
「馬鹿だなぁ……良いんだよ、強くなくたって。そりゃ、負んぶに抱っこじゃいけないと思うけど……夫婦って助け合うものだろ? 弱みを見せたっていいんだ」
「と、冬馬君……」

 俺は綾の涙を拭い……正面から見つめる。

「もう一度言う——帰ってきたら、俺と結婚してくれますか?」
「……はいっ!」

 そう言って、ようやく笑ってくれる。

(そうだ……俺はこの顔が見たいから頑張れるんだ……とろけるように笑う顔は、俺だけが知っているから)

「あ、開けてもいい?」
「ああ、もちろん」
「……ふぁ……綺麗」

 綾は指輪を見て感動している様子だ……良かった。

「はぁ~! 良かったぁ!」
「ふえっ!?」
「あっ——すまん、驚かせたな」
「う、うん……どうしたの?」
「いや、振られたらどうしようとか、受け取ってもらえるかとか……」
「……私、冬馬君のこと好きだよ?」
「お、おう……」

(改めて言われると照れるよなぁ……)

「ふふ、その感じも好き!」
「御勘弁を……いや、緊張するんだよ」
「冬馬君でも?」
「そりゃ、もちろん。俺なんか、ただの高校生だよ」
「ふふ、そうだったね……つけてもらってもいい?」
「あ、ああ……」

 綾の柔らかく小さい手をとり……左手の薬指に指輪をはめる。

「うわぁ……もしかして、このためにバイトを?」
「あ、ああ……そんなに高いものじゃないが……」
「そんなことないよ——すっごく嬉しい!」
「そ、そうか……」
「でも、帰ってきてからじゃダメだったの?」
「いや、それも考えたんだが……」

(ど、どうする? ……いや、さっき言ったじゃないか。夫婦っていうのは、時に弱みを見せていいんだって……)

「お」
「お?」
「お、男避けになるかと思って……可愛い彼女を持つと……彼氏は大変なんだよ」
「ふえっ~!? そ、そ、そうなんだ……えへへ、嬉しいね」

(……なんだ、この可愛い生き物は?)

「綾」
「ん?」

 俺は綾の両手を握り——思いきり口づけをする。

「んっ……ぁっ……」
「……続きは、来年だな。いいか、覚悟しとけよ?」
「ふぁ……は、はぃ……」

 この俺だけが知ってる顔を、目に焼き付けておく。

   綾、元気でな……俺も、お前に相応しい男になれるように頑張るよ。










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