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それぞれの未来へ

アキとの話

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 それから数日後の放課後……。

 俺はアキに呼び出される。

「よう、アキ」
「……おう」
「どうした?」
「綾ちゃんとの貴重な時間を奪って悪いが……少し付き合ってもらえるか?」
「ああ、問題ない。綾と居たいのは俺だけじゃないからな」

 今日は森川や黒野と遊ぶと言っていた。
 それもまた大事なことだと思うし……。
 本当に大事に思うなら、束縛なんかしてはいけないしな。

「なるほど、相変わらず出来た男だ……俺とは違って」
「おいおい、らしくないこと言うなよ」
「……とりあえず、歩きながら話すか」
「ああ、そうするか」

 ひとまず、一緒に帰ることにする。






 校門を出て……駅まで歩き……。

 地元に着いてからも、アキはずっと黙ったままだったが……。

 ある程度歩いて、俺の家とアキの家の中間くらいに来ると……。

「そこの公園寄って行かね? 寒いから、人もいねえし」
「ああ、そうするか」

 缶コーヒーを買って、二人でひと気のない公園のベンチに座る。

「なあ、知ってたのか?」
「うん?」
「……小百合のことだよ」
「……気づいたのは、ごく最近だけどな。誰も気づいていない……いや、飛鳥辺りはどうかわからないが」
「そうか……俺も、全く気づいてなかったし……はぁ、どうしたもんか」
「いつ言われたんだ?」
「あの日……罰ゲームで負けた日にな。ずっと、一日中付き合って……いつもみたいに言い合いをして……なんだかんだ楽しんでいる自分に……楽だと思う自分に気がついた時だった……最後に、とんでもない爆弾を落としていきやがった……相変わらず食えない女だぜ」


(……ふむ、この感じは珍しいな)

 大体女の子に告白されたら、喜んで付き合うか……。
 なるべく傷つけないように、穏便に事を済ませるタイプだが……。
 やはり、相手が相手ということなのかもしれない。

「どうしたもこうもないだろう——付き合うか、付き合わないかだ」
「簡単に言ってくれるぜ……でも、そうなんだよなぁ」

(……自分でも、心の整理がついていないのかもしれないな)

「告白されて、どう思ったんだ?」
「……青天の霹靂ってやつだな。ありえない、そんな馬鹿な、なんの冗談だ、カメラはどこだ……気がつけば、そんな言葉を吐いていた」
「可哀想に……とも言えんか。小百合の普段の態度を思えば」
「そうだよ。あいつがツンデレとか知らんし……そもそも、ツンが99,9パーセントで……最後の最後にデレるとか……あいつ、顔を真っ赤にして言いやがった」
「ふむふむ……それで、返事は?」
「それが……即答できなかった。俺にもよくわかんねえ……すぐにふざけんな、お前みたいな女と付き合えるかって言おうとしたんだが……何故か、言葉が出てこなかった」

(アキ自身も戸惑っているってことか……さて、俺にできることは)

「じゃあ、保留中ってことだな?」
「まあ……そういうことだ」
「珍しいよな、お前にしては」
「そうなんだよなぁ……何で断らなかったんだ」
「嫌いなのか?」
「……いや、そんなことはない。なんだかんだで付き合いは長いし……良いやつだっていうのも知ってる」

(ふむ、まあ……これは伝えてもいいか。本人も、薄々気づいているだろうし)

「実はな、お前が問題を抱えていた件……あいつ、知ってたぞ?」
「やっぱりか……この間の台詞はそういうことか」
「しかも、お前を助ける気でいたぞ?」
「……なに? どういうことだ?」
「俺が気づかなかったら、あいつがどうにかしたと思う」
「そんなことが……いや、あいつなら出来そうだ。あらゆるツテがあるからな」

(我が学校全員の弱みを握ってると噂されるくらいだからなぁ)

「まあ、俺に言えるのは……お前みたいな男と付き合えるのはあいつくらいだな。女子が嫉妬しようが、あいつには通じないし。むしろ、お前が嫉妬されるかもな?」
「はははっ!  確かに!  そうか……あいつ、そのことは言わなかったな」
「よく似てるよ、お前らは。意地っ張りで素直じゃないし……お調子者で、自分を偽って……それでも、根っこの部分は優しい奴だ」
「冬馬……」
「ふっ……それじゃあ、よく考えるんだな」

 俺は少し気恥ずかしくなり、ベンチから立ち上がる。

「ああ、サンキュー」
「なに……ダチだしな」
「良いダチを持ったもんだな、俺も……」

 俺は背を向けて手を振り、その場を後にする。

(……お節介はこのくらいにしとかないとな。あとは、本人たちがどうするかだ)




 その日の夜……。

「へぇ~そんなことがあったんだね」
「小百合いわく、俺と綾を見たから決心したそうだ」
「そうなの?」
「ああ、いつどうなるかわからないこと……あと、自分も前に進まないといけないってさ」
「そうなんだ……えへへ、なんか嬉しいね」
「うん?」
「私達が付き合ったことで、みんなに変化を与えてて……今日も、二人に言われたんだ。冬馬君と私のおかげで、自分達も成長できたって……」
「そうか……あいつらも上手くやってるみたいだしな」
「ふふ、色々大変みたいだけどね?」

(そうか……俺と綾が付き合うことで、色々な変化があったんだな)

 俺は心地良い声を聞きながら、そんなことを思った……。
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