上 下
166 / 185
それぞれの未来へ

修学旅行~その1~

しおりを挟む
 そして二月に入り、修学旅行の日がやってくる。

 四、五、六の二泊三日の旅で、行き先は京都だ。





 ひとまず、集合場所の駅に到着すると……。

 同じ制服の高校生たちが集まっていて……。

 その中から、真兄が近づいて来る。

「おっ、来たな。班の全員が揃ったら、俺の所に来てくれ」

 どうやら、担任ごとにクラス名簿があり、来たらそれに○を班長がつけるらしい。

「わかった」
「清水。準備はどうだ?」
「はい、順調に進んでいます。先生、色々とありがとうございました」
「なに、気にするな。これでも、担任の先生だ。何より、可愛い弟分の頼みだからな」
「ふふ、そうですよね」

(本当に真兄はよくしてくれた。自分の結婚式のことで忙しかったのに)

「なに言ってんだが……ほら、書いたよ」
「クク、照れるなよ」
「えへへ」
「はぁ? 照れてないし。それより、この間言ってた結婚式は決まったの?」
「ああ、三月の初めに決まった。弥生さんと話し合って……清水、お前も出られるようにな」
「先生……」
「親父さんと弥生さんが、どうしてもお前に出て欲しいってさ」
「でも、私……急にバイト辞めて……まだ半年も経ってないのに……」
「ばかやろ、そんなのは関係ねえよ。だいたい、冬馬が一人ぼっちで可哀想だろうが」
「そうそう、俺が可哀想だ。黒野だって、博を連れて行くらしいし」
「そうなの?」
「ああ。そういや、綾には色々と決まってから言うことになってたな」
「ふふ……嬉しい。先生、ありがとうございます!」





 その後、真兄は次々と生徒に声をかけていく。

「立派な先生だよね?」
「ああ、見た目はともかくな」
「えへへ、そうかも……私、このクラスで良かったなぁ」
「ん?」
「だって、先生がいなければ……冬馬君とこうなることもなかったかもしれないし」

(……あぁー、そういや……真兄が、俺の住所を教えて……そこから始まったんだっけ)

「もう、10ヶ月も前なのか……なんか、あっという間に過ぎたな……楽しすぎて」
「うん……そうだね」
「綾~!」
「わぁ!?」
「何しみじみしてるの?」
「もう! びっくりしたよ!」

 綾の背中に、森川が乗っかっている。
   その横には黒野もいる。

「やあ、冬馬」
「おす、冬馬」
「おはよう、冬馬君」
「おう、これで揃ったな」

   博、マサ、啓介も揃ったので……。
 俺は真兄の元に行き、○をつける。





 そして、新幹線に乗り……いよいよ、出発である。

「イェーイ!」
「だからうるさい」
「うるさいね」
「はは……でも、貸し切りだしね」
「そうだよな!」

 向かい合わせになっている四人席で、俺たちは座っている。
 通路を挟んで向こう側には、女子達が座っている。

「なあなあ……」 
「ん?」
「清水さん、留学しちゃうんだろ?」
「ああ、そうだな」
「寂しくなるね……」
「うん……」
「おいおい、お前達が暗くなるなよ」
「意外と、お前は冷静なんだな?」
「この先もずっと一緒いたいと思ってるからな」
「はは……参ったね」
「冬馬君らしいや」
「確かに! お前、男前すぎんぞ!」
「ええい! 首を絞めるな! 暑苦しい!」

 すると……隣から笑い声が聞こえる。

「ふふ、綾の顔が真っ赤ね」
「綾! もはやプロポーズだよ!」
「はぅ……いや、その、あの……」

 流石にプロポーズされたことは言っていないらしい。
 本人達から漏れるとかではなく、単に恥ずかしいだけらしいが……。
 この旅行中に伝えるとか言ってたな。





 そして席替えをしつつ、トランプなどをして、あっという間に京都に到着する。
 いわゆる、楽しい時間は過ぎるのが早いってやつだな。

「お前ら! 迷子になるなよ! しっかりついてこい!」

 真兄に先導され、皆でワイワイ移動する。

「冬馬君。私、京都初めてだから楽しみ!」
「そういや言ってたな」
「関東の人は、普通は中学の時に来るんだよね?」
「まあ、定番だからな。埼玉県民は大体そうだろ。たまたま綾は違ったらしいが」
「えへへ、じゃあ……案内してもらおっと」

 そう言って、腕を組んでくる。
 最近、特にスキンシップが多い。

(嬉しいのだが……約束した手前、手を出すことはできない。かといって、寂しいであろう綾を我慢などさせられない。故に、俺が全身全霊の力でもって、これに耐え抜くしかない)

 あと二ヶ月、厳しい戦いになりそうだ……。





 そのままバス停の前まで行き……。

 みんなが集まるまで、ジュースを買って待っていると……。

 綾がヒソヒソと話しかけてくる。

「ねえねえ、いつ言ったら良いかな?」
「綾のタイミングでいいんじゃないか?」
「でも、冬馬君だって知られちゃうよ?」
「まあな……俺は色々と言われそうだなぁ」

(アキや剛真、智や飛鳥、小百合には、先に言っておいた方が良いか。あいつらには、本当に世話になったからな)

 この一ヶ月、あいつらは俺を励ましてくれた。
 アキは、三年になったら遊ぼうぜ!と。
 智は、一緒に勉強しましょうと。
 剛真は、運動で発散しようと。
 飛鳥と小百合は、俺に女の子が寄ってこないようにするって綾に伝えていたな。


「ふふ、みんな驚いちゃうね?」
「俺はさっさと知らせたいよ——綾は俺の奥さんになるって」
「ふえっ!?」
「こんなに可愛いんだ、色々と心配だしな。この旅行でも、俺の側を離れるなよ?」
「は、はぃ……」

 寒い空気の中、俺たちは身を寄せ合う。

 しかしそうすると……不思議と、寒さは感じなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...