静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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それぞれの未来へ

二人の話

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 少しスッキリした俺は、三人にお礼を言って、家に帰宅する。

 そして、親父と麻里奈にも出来事を話すことにした。

 落ち着いて話せたのも、真兄達のおかげだ。

「そうか……みんな辛いな」
「うん……離れ離れは寂しいもんね」
「ああ、俺もそう思う。だけど、少しわがままを言おうかと思ってる。もしかしたら、二人にも協力してもらうかもしれない。親父、麻里奈、その時はお願いします」
「……冬馬のお願いか。そっか、言えるようになったか」
「えへへ、お兄ってば、全然人を頼らないもんね!」
「そ、そうか?」
「ああ、そうだ。俺たちが言ったところで、お前は意固地になるだろうからな」
「ねー! だから、お兄が言い出すまでは我慢って言ってたもん」

(そうだったのか……俺は知らず知らずのうちに、自分で何でも出来ると……中学の時のように、迷惑をかけないようにしていたのか)

「二人とも、 ありがとな」
「馬鹿やろ、家族だろ」
「うん! 家族だもん!」

(そう……大事な家族だ。 だから、親父さんの気持ちも少しわかる。でも……このままでは終われない)





 その日は頭を冷静にするため、特に行動を起こすことなく寝ることにする。

「スマホを確認しても、綾から連絡もないしな……」

(よし……明日起きたら、綾に電話しよう。そして、きちんと話をしよう)










 そして……翌朝……目覚ましが鳴る。

「ん?……意外と寝れたな。やっぱり、真兄達や親父達のおかげか」

(だが、おかげで体調は悪くない。頭も回る……よし、いけるな)

 起き上がった俺は、窓を開けて空気を吸い込む。

「ふぅ……よし、目が覚めた」





 ひとまず階段を下り、顔を洗う。

「そういや、もう二人は出かけたのか」

(親父は今日から仕事だし、麻里奈は朝練とか言ってたな)


「さて、飯はどうする……へっ?」
「と、冬馬君!」
「……綾?」

 リビングに……綾がいた。

「な、なんで!?」
「えへへ、冬馬君の驚くところなんか久々に見た……やったね」
「い、いや! 驚くから!」

(待て待て! また八時だぞ!? いや、そこじゃなくて!)

「いつからいたんだ!?」
「えっと……えへへ、七時半くらい? お父さんと麻里奈ちゃんに、ここで待ってて良いって言われて」
「そ、そうか……」

(い、色々言いたいことがあったのに……まだ、混乱している)

「あのね、言いたいことがあります。まずは……昨日はごめんなさい!」
「えっ?」
「嫌いって言っちゃったけど……あれは嘘で、でも、あの……好きなの」
「ああ、わかってるよ。俺も悪かった。自分の気持ちを押し付けてしまったかも」
「ううん、私の方こそ……嫌いになってない?」
「もちろんだ——好きだよ、綾」
「よ、良かったぁ……えへへ」

(ひとまず良かった……綾が笑顔になってくれた。だが、なんだ? 綾がいつもより……大人びて見える?)

「そ、それでだな……」
「待って!」
「綾?」
「私から話させて欲しいの」
「……わかった」

 その目はとても真剣で、何か覚悟を決めた感じがする。




 ◇◇◇◇◇


 ……さあ、私——言うんだ。

 昨日、お父さんに伝えたことを。





「お父さん、お話があります」
「……ああ、わかった。座りなさい」
「お姉ちゃん……」
「誠也、お母さんと二階に行きましょうね」
「でも……」
「平気よ、もう喧嘩にはならないから」
「……うん、わかった」

 お母さんが誠也を連れて二階に行ったあと、私はお父さんの対面に座ります。

「さて……なんだ?」
「お父さん、まずはわがままを言ってごめんなさい。お父さんだって、好きで転勤したわけじゃないし、本当なら家に帰ってきたいのに……」
「……ああ、そうだな。それにしても……良い顔になったな」
「えっ?」
「昨日とは違う……それで?」
「う、うん……私は、ここを離れたくありません」
「ああ、しかし」
「うん、わかってる。それが子供のわがままだってことは」
「……俺としては、喜んでくれると思っていた。お前は英語を学びたいと言っていたし、留学も視野に入れていたからな」
「うん……でも、あの時は行かなくて正解だったよ。おかげで、冬馬くんに会えたから」
「……そうか」
「冬馬くんのおかげで人目を気にしなくなったし、いつでも守ってくれた。おかげでバイトだってするようになったり、色々なところにも連れてってもらった。冬馬君に会って、私の全ては変わったの」
「……そこまでか。いや、母さんから話は聞いているが。じゃあ、どうする? 駆け落ちでもするのか?」

 そう言い、お父さんは少し寂しそうな顔をする……。
 うん、やっぱり……これが一番なのかもしれない。

「お父さん、あのね……」
「何?  ……うむ、そうか。いや、しかし……そのあとはどうする?」
「何でもするよ。一人で何でも出来るようにする」
「……ひとまず、彼に話してきなさい。そして……また、話し合うとしよう」
「うん、そうするね。あのね、お父さん……私だって、一緒にいたいんだよ?」

(これだけはきちんと伝えないといけない。私がお父さんを好きだってことは)

「……ああ、それが聞ければ充分だ。じゃあ、父さんは寝る」
「うん、おやすみなさい」





 ……ふぅ、よし。

「冬馬君、私は——留学をしようと思います」
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