静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
上 下
160 / 185
それぞれの未来へ

綾の想い

しおりを挟む
 ……酷いこと言っちゃった。

 泣き疲れた私は、ようやく思考が動き出す。

 今日は、人生で一番楽しい日になると思ってたから……。

 お父さんが認めてくれて、正式に結婚を前提にお付き合いをして……。

 みんなで仲良くご飯を食べて、これからもずっと一緒にいられるって……。

「それなのに……一番悲しい日になっちゃった」

 さっきまで枕は涙でぐちゃぐちゃで……なのに、もう乾いている。

「どれくらい、こうしてたんだろう?」

 スマホを見ると……。

「あれ? もう夕方……」
「綾、良いかしら?」
「お、お母さん?」
「入るわよ」

 お母さんは部屋に入ってきて……静かに私を見つめます。

「まあ、随分と泣いたようね」
「うぅー……だってぇ」
「せっかくの可愛い顔が台無しね」
「良いもん、別に」
「ほら、行くわよ」
「へっ?」
「泣くだけ泣いたら少しはスッキリしたでしょ?」

 そう言い、お母さんは私の手を引いていく。

「ちょっ、まだお父さんには会いたくない!」
「わかってるわよ。だから、誠也とお父さんには買い物に行ってもらったわ」
「ふえっ?」
「綾、ひさびさに……一緒にお風呂でも入りましょう」





 そして、お母さんに連れられて……。

「ふぅ……良い湯ね。高校生になってからは初めてかしら?」
「う、うん」
「一応、お父さんには説明しておいたから」
「へっ?」
「冬馬君の事情よ」
「そ、そう……」

(ど、どうしよう? 色々ありすぎて、思考が追いつかないよぉ)

「お父さん、驚いてたわ。お母さんがいないこともそうだし、高校生の男の子からあんなセリフが出たことも。結婚前提の挨拶とか、その後のこととか」
「お、お父さんは、なんて?」
「立派な好青年ですって。まあ、アレを好青年と言わなかったら、私が怒るところだったわ。今時、あんな子いないもの」
「うん……そう思う」
「それに対して……貴女はダメね」
「……えっ?」

 その瞬間——お母さんの目は、急に厳しいものになった。

「きちんと話も聞かずに、感情が先走って……喚いて泣いて、冬馬君に酷いこと言って」
「うっ……だ、だって……」
「まあ、貴女くらいの歳なら普通なんでしょうね。あの子が少し大人びてるというか……環境が人を育てるというのかしらね」
「う、うん……いつも、私を助けてくれるの」
「それで、それに甘えきりになるの? 何もかも彼に任せて、それで夫婦になるの?」

(……そうだ。私はいつも甘えてばかりで……冬馬君に何も返せてない)

「そんなんじゃ、いずれにしろ破綻するわよ。でも……今回のは、ある意味では良いきっかけになったかも」
「どうして?」
「貴方達、喧嘩もしたことないでしょ?」
「……確かに」
「別に喧嘩するのが良いとは言わないけど……貴方達は、少し関係性が歪かもしれないわね。綾が少し甘えすぎね。でも、貴女だけの所為でもないわ。冬馬君が、それを受け止めきれる度量があったのが問題ね」
「……私、無意識のうちに冬馬君をヒーローみたいに思ってた? 何でも頼っても良いって思ってたかも……」
「別に悪いことではないわよ? 男の人は嬉しいらしいから。でも、あの子だってまだ高校生の男の子よ」

(そっかぁ……私はいつの間にか、冬馬君なら何とかしてくれるって思ってた……自分は何もしてないのに……それを押し付けて……結果、勝手に怒って……)

「私、最低……冬馬君に酷いこと言っちゃった」
「そうね、あの子だって辛いと思うわよ? それでも、私達家族のことを考えて、しっかりと言ってくれたわ」
「うん、今ならわかるよ……冬馬君は、家族でいられる時間が永遠に続かないことを、誰よりも知っているから……」
「そうね……さて、ひとまず冷静になれたようね。それで……本題は、貴女はそれで良いのって話ね」
「えっと?」
「ずっと冬馬君に頼りきりで、これからも頼って、あっちから言ってくるのを待って、それを享受して……生きていくのかしら? それはそれで、女としては幸せかもしれないわね」

(お母さんは、お父さんと対等でいたいから仕事を続けてるって言ってた……そして、私はそんなお母さんに憧れて……いつか、そうなりたいって思ってたのに……)

「私は、冬馬君と会って……弱くなった? ダメになった?」
「さあ? それはわからないわ。貴女も大変な時期もあったから、あんな男の子が現れたら……頼るのも無理はないことだし」
「でも……私も、冬馬君と対等でいたい。冬馬君は、いくらでも甘えて良いって言うかもしれないけど」
「そう……じゃあ、しっかりと考えなさい。そして、お父さんと話し合って……彼にも、自分から伝えなさい。貴女がきちんと出した答えなら、お母さんは応援するから」
「お、お母さん……」
「はいはい、厳しいこと言ってごめんなさい」

 我慢できずに、涙が溢れてきます。

 お母さんだって、色々大変なはずなのに……私のために言いにくいことを伝えてくれた。

 冬馬君だって……きっと辛かったに決まってる。

 もう、呆れちゃったかもしれないけど……。

 しっかり考えて……冬馬君に伝えなきゃ。

 そうしないと、どんな形であれ——冬馬君と一緒にいる資格がない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...