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それぞれの未来へ
相容れない二つの気持ち
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……なに? 転勤が伸びる?
……落ち着け、まずは話を聞かなくてはいけない。
「お、お父さん! 聞いてないよっ!」
「ぼ、僕もっ!」
「なるほどねぇ、あなたが言い淀んでいたのはそれなのね。二人とも、まずは話を聞きましょうね」
俺は深呼吸をして……気持ちを落ち着かせる。
「ふぅ……それは俺に関係なくってことですか?」
「ああ、そうだ。別に娘と付き合うのを嫌がって連れていくわけじゃない。元々、その話をするつもりで一時帰国したんだが……」
「なるほど、その前に俺の話を聞かされてしまったと?」
「そうだ。おかげで頭が真っ白になるし、これからのことを考えると……全く、胃が痛くなるな」
「そうですか……」
(さすがに、これ以上の言葉が出てこない……綾がいなくなる? 俺の前から……そんな未来は嫌だ! しかし……)
「そ、そんなこの世の終わりみたいな顔をしても無駄だぞ!」
「お、お父さん! 勝手に決めないでっ! 私は、冬馬君と離れたくないっ!」
「ぼ、僕は……うぅ……わかんないよぉ~」
「ぐはっ……」
(物凄いダメージを受けているな……まあ、当然か)
「あなた」
「は、はい」
「まずは、しっかりとお話をしてください」
(なるほど、奥さんには弱いと……)
「ああ、そうだな……実は、急遽決まったことでな。詳しい説明は省くが、トラブルが色々あって仕事を一からやり直すことになった。そのためには計画から練り直したり、地域住民との話し合いを進め……とにかく、時間がかかる」
「そういうことなのね……あとは、私が原因かしらね?」
「それもある。今の仕事がひと段落しそうなんだろ?」
「ええ、今のが終わったら、しばらくはゆっくりする予定だったから」
(そうか……確か、元々は弁護士であるお母さんの仕事が立て込んでるのと、新築の家を購入してしまったこと、転勤が短いから連れて行かなかったんだっけ)
「家は誰かに貸し出すか、そのままにしておくかは考えないといけないがな」
「そうね……まあ、私はついていきたいと思うけど……」
「そ、そんな……わ、私は……嫌だもん!」
「い、いや、しかしだな……下手すると四、五年は帰って来れない」
「高校は!? だ、大学は!? 私はどうするの!?」
「あちらの学校に転校という形になる。大学もあちらで……」
「私はここに残るもん!」
「綾、あまりわがままを言わないでくれ……」
親父さんは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
(そうだよな……可愛い娘や息子、愛する奥さんと会えないんだもんな。家のこともあるし、家族には色々言われるだろうし……それでも、一緒にいたいんだよな)
……俺は、ここで一大決心する。
「綾……出来るなら——ついていった方が良い」
「へっ? ……な、なんで!?」
「き、君の口から、その言葉が出るとは……」
「あら……流石ね」
それぞれの顔を見ながら、俺は平静を装いつつ、ゆっくりと話す。
「綾、俺のことなら気にすることはない。例え、何年でも待ち続けよう」
「違う! どうしてそんなこと言うの!? そんな平気な顔して!」
「綾、俺は以前なんと言った?」
「へっ? な、なんのこと?」
「家族が一緒にいられる時間は思ったより少ない」
「あっ——そ、それは……」
「もし、ここに残るとしたら……もう、過ごす時間は少ないかもしれない。大学を卒業すれば、就職があったり、一人暮らしをしたりな」
「と、冬馬君はそれで良いの!? 私と離れても平気なんだっ!」
「っ——!! 平気なわけがないだろうが!!」
「ひゃっ!? ……グス……もう! 良い! 冬馬君なんか——嫌い!」
そう言い、綾はリビングから飛び出していった。
「……にいちゃん、大丈夫?」
テーブルに突っ伏す俺を、誠也が優しくさすってくれる。
「……平気じゃない」
(か、体に力が入らない……ショックが大きすぎる……思わず、大きな声を出してしまった自分にも……何より、綾に嫌いと言われてしまった……)
「あらあら、冬馬君らしくないわね……でも、そうね。しっかりしてても、まだ高校生だもの。ふふ、ようやく年相応に見えるわよ?」
「はい……我ながら精進が足りなかったですね」
「き、君は、何であのように……? 私の味方になるようなことを……」
「別に味方をしたわけじゃないんですけどね。俺だって、出来るなら離れたくない。連れて行くなら——無理矢理にでも連れ去ってやりたい」
「では、なぜだ?」
「その理由は、気になるなら奥さんに聞いておいてください。ひとまず、今日は帰りますね。流石に俺も……冷静ではいられない」
返事を待たずにリビングを出て、玄関から外に出る。
来た時のドキドキや晴れやかな気持ちは消し去られ……。
残るのは綾と一緒にいたい、でも家族を引き裂きたくないという……。
どうしたって、相容れない二つの気持ち。
「何より、綾を泣かせてしまった。あんな顔にさせてしまった……俺自身の手で」
(やっぱり、願い事なんかするんじゃなかったな……)
冷たい空気の中、俺はフラフラと歩き出すのだった……。
……落ち着け、まずは話を聞かなくてはいけない。
「お、お父さん! 聞いてないよっ!」
「ぼ、僕もっ!」
「なるほどねぇ、あなたが言い淀んでいたのはそれなのね。二人とも、まずは話を聞きましょうね」
俺は深呼吸をして……気持ちを落ち着かせる。
「ふぅ……それは俺に関係なくってことですか?」
「ああ、そうだ。別に娘と付き合うのを嫌がって連れていくわけじゃない。元々、その話をするつもりで一時帰国したんだが……」
「なるほど、その前に俺の話を聞かされてしまったと?」
「そうだ。おかげで頭が真っ白になるし、これからのことを考えると……全く、胃が痛くなるな」
「そうですか……」
(さすがに、これ以上の言葉が出てこない……綾がいなくなる? 俺の前から……そんな未来は嫌だ! しかし……)
「そ、そんなこの世の終わりみたいな顔をしても無駄だぞ!」
「お、お父さん! 勝手に決めないでっ! 私は、冬馬君と離れたくないっ!」
「ぼ、僕は……うぅ……わかんないよぉ~」
「ぐはっ……」
(物凄いダメージを受けているな……まあ、当然か)
「あなた」
「は、はい」
「まずは、しっかりとお話をしてください」
(なるほど、奥さんには弱いと……)
「ああ、そうだな……実は、急遽決まったことでな。詳しい説明は省くが、トラブルが色々あって仕事を一からやり直すことになった。そのためには計画から練り直したり、地域住民との話し合いを進め……とにかく、時間がかかる」
「そういうことなのね……あとは、私が原因かしらね?」
「それもある。今の仕事がひと段落しそうなんだろ?」
「ええ、今のが終わったら、しばらくはゆっくりする予定だったから」
(そうか……確か、元々は弁護士であるお母さんの仕事が立て込んでるのと、新築の家を購入してしまったこと、転勤が短いから連れて行かなかったんだっけ)
「家は誰かに貸し出すか、そのままにしておくかは考えないといけないがな」
「そうね……まあ、私はついていきたいと思うけど……」
「そ、そんな……わ、私は……嫌だもん!」
「い、いや、しかしだな……下手すると四、五年は帰って来れない」
「高校は!? だ、大学は!? 私はどうするの!?」
「あちらの学校に転校という形になる。大学もあちらで……」
「私はここに残るもん!」
「綾、あまりわがままを言わないでくれ……」
親父さんは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
(そうだよな……可愛い娘や息子、愛する奥さんと会えないんだもんな。家のこともあるし、家族には色々言われるだろうし……それでも、一緒にいたいんだよな)
……俺は、ここで一大決心する。
「綾……出来るなら——ついていった方が良い」
「へっ? ……な、なんで!?」
「き、君の口から、その言葉が出るとは……」
「あら……流石ね」
それぞれの顔を見ながら、俺は平静を装いつつ、ゆっくりと話す。
「綾、俺のことなら気にすることはない。例え、何年でも待ち続けよう」
「違う! どうしてそんなこと言うの!? そんな平気な顔して!」
「綾、俺は以前なんと言った?」
「へっ? な、なんのこと?」
「家族が一緒にいられる時間は思ったより少ない」
「あっ——そ、それは……」
「もし、ここに残るとしたら……もう、過ごす時間は少ないかもしれない。大学を卒業すれば、就職があったり、一人暮らしをしたりな」
「と、冬馬君はそれで良いの!? 私と離れても平気なんだっ!」
「っ——!! 平気なわけがないだろうが!!」
「ひゃっ!? ……グス……もう! 良い! 冬馬君なんか——嫌い!」
そう言い、綾はリビングから飛び出していった。
「……にいちゃん、大丈夫?」
テーブルに突っ伏す俺を、誠也が優しくさすってくれる。
「……平気じゃない」
(か、体に力が入らない……ショックが大きすぎる……思わず、大きな声を出してしまった自分にも……何より、綾に嫌いと言われてしまった……)
「あらあら、冬馬君らしくないわね……でも、そうね。しっかりしてても、まだ高校生だもの。ふふ、ようやく年相応に見えるわよ?」
「はい……我ながら精進が足りなかったですね」
「き、君は、何であのように……? 私の味方になるようなことを……」
「別に味方をしたわけじゃないんですけどね。俺だって、出来るなら離れたくない。連れて行くなら——無理矢理にでも連れ去ってやりたい」
「では、なぜだ?」
「その理由は、気になるなら奥さんに聞いておいてください。ひとまず、今日は帰りますね。流石に俺も……冷静ではいられない」
返事を待たずにリビングを出て、玄関から外に出る。
来た時のドキドキや晴れやかな気持ちは消し去られ……。
残るのは綾と一緒にいたい、でも家族を引き裂きたくないという……。
どうしたって、相容れない二つの気持ち。
「何より、綾を泣かせてしまった。あんな顔にさせてしまった……俺自身の手で」
(やっぱり、願い事なんかするんじゃなかったな……)
冷たい空気の中、俺はフラフラと歩き出すのだった……。
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