静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
上 下
157 / 185
それぞれの未来へ

初詣

しおりを挟む
 ……うん? 何か、柔らかいものが……。

「うん……やぁ……」

「あん? ……うおっ!?」

(なぜ、俺の布団に綾がいる? 待て待て……よし、俺と綾は服を着ている。つまり、何もいたしてはいない)

「おい、綾。起きろって」

 時計を確認し、朝の八時なっていたので、揺さぶるが……。

「やだぁ……」

「ちょっ!?」

(しがみつくな! というか、パジャマからこぼれとる!)

「あら~困ったわね」
 
「れ、玲奈さん! 違うんです!」

「わかってるから平気よ。その子、実はねぼすけさんで朝も弱いのよ。きっと、トイレにでも行った帰りに間違えて入ったんでしょうね」

「な、なるほど……」

「ふふ、どうする?」

「どうもしませんよ。ふつうに起こしますから。綾、起きろって」

「じゃあ、あとはお願いしようかしら……お姫様を起こすのは、王子様の役目よ?」

 そう言い、静かにドアが閉まった。

「はぁ……仕方ない」

 そっと、綾の頬にキスをする。

「ひゃあ!?」

「おっ、起きたか」

「と、と、冬馬君!? なんでいるの!?」

「そりゃ……泊まったからだろうな」

「……そうでした。な、なんで一緒の布団に?」

「ここは、俺の布団だ。つまり、綾が入ってきたと推測される」

「あぅぅ……な、何もしてない?」

「ああ、特には。ほら、起きようぜ。みんなで初詣するんだろう?」

「そうだったっ! あっ! わたし、冬馬君いるのに顔も洗ってないよぉ~!」

「可愛いから安心しろ」

「ほ、ほんと?」

「ああ、これが毎日見れたら幸せだろうな」

「じゃ、じゃあ……はぃ」

 目を閉じるので、今度は普通にキスをする。

「えへへ……朝チューだぁ……じゃあ、先に下に行ってるねっ!」

 頬を染め、綾が部屋から出て行く。

 えっ? 俺はいかないのかだって?

 ……少し待ちます、今は立てそうにありません。




 荒れ狂う息子が治ったら、下に行き、持ってきた道具で朝の支度を済ませる。

 そして、リビングに入り……。

「みなさん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ、娘と息子共々よろしくお願いします」

「にいちゃん! 明けましておめでとう!」

「冬馬君、明けましておめでとう。今年もよろしくね」



 そして、全員でお雑煮を食べたら……。

「お、お母さん! 早く早く!」

「はいはい、慌てないで」

 二階から騒がしい声がするが……間に合うのか?

「にいちゃん! カッケー!」

「だろ? これ、親父のお下がりだが、サイズがぴったしでな」

 初詣に行くと言ったら、袴を親父が出してくれた。
 前もって綾の家に置いておいたので、それに着替えたってわけだ。

「お、お待たせ!」

「おう……綺麗だ——よく似合ってる」

「あっ——ありがとぅ……えへへ」

 艶やかな赤色の着物に包まれた綾は、いつもより大人びて見える。
 髪も綺麗にまとめて、魅力的なうなじが顔を出している。

「あらあら、良かったわね~。お母さんも、頑張った甲斐があったわ」

「姉ちゃん! 綺麗!」

「ありがとう、誠也」

「じゃあ、車出すからみんなで行きましょう」

 お母さんの車に乗って、地元民が毎年行く神社に向かう。



 到着したら、お母さんと誠也とは別行動になる。

「ほら、手を出して」
「う、うん、歩き辛いね」
「無理しなくても良かったんだぞ?」
「だめだよっ! 私のわがままだもん!」

 そう、この提案は綾の方から言い出した。
 この間うちに来た際に、親父から袴があることを聞かされたらしい。
 そして、俺に着てほしいと頼んできたわけだが……。

「まあ、俺は嬉しいけどな。めちゃくちゃ可愛いし」
「はぅ……冬馬君もかっこいいです……オールバックだし……」
「 ああ、長くなってきたし、面倒だからこうしたが……お気に召したなら良い」
「うんっ! すごい似合ってる! 映画に出てくる任侠の世界の人みたい!」

(……今のは、褒められたのだろうか?)



 その後、集合場所に行くと……。

「おう、集まってるな」
「やあ、冬馬。よく似合ってるね」
「うむ、やはりお前には似合うな」
「いやいや、剛真には負けるから。博も似合ってるよ。というか、二人が仲が良いとは知らなかったな」
「特別良いってわけじゃないけど、前は同じクラスだったしね」
「うむ、一応部長同士という繋がりもある」

 とまあ、この謎の組み合わせの原因は……。

「綾~! 超可愛いしっ!」
「とても似合ってるわ」
「二人も可愛いよっ!」

 綾と黒野と森川が、三人で集まりたいと言ったからだ。
 彼氏とも初詣したいし、仲良し三人組でもしたいと。
 まあ、とりあえず言えることは……。

「「「俺の彼女が一番可愛いな」」」
「「「………」」」
「おいおい、寝言言うなよ。綾が一番に決まってるだろうが」
「いやいや、俺たちは付き合いたてなんだし、ここは譲れないかな」
「何を言うか! 森川さんが一番に決まっている!」

 すると、クスクスという笑い声が聞こえてきた。

「ふふ、可愛いね」
「照れるんだけど?」
「まあ、男の人って馬鹿ね」
「ねえねえ! 写真撮ろうよっ!

 通行人の方に頼んで、六人で撮ってもらう。




 その後、俺たちはそれぞれの手に引かれ、お賽銭箱の前に立つ。

「冬馬君、何を願うの?」
「どうだろうなぁ、あんまり信用してないからな」
「あっ、そうだよね……お母さんの時に……」
「おいおい、落ち込むなって。こういうのは、人それぞれさ。だが、まあ……一応願っておくかね」
「なになに?」
「それを言っちゃダメだろう」
「それもそっか……わたしはね、決まってるの」
「そうか……」
「えへへ、冬馬君と今年も一緒に居られるようにって!」

 俺も手を合わせ、願い事を思う……。

 今年も、この子の笑顔が曇らないようにと……。

 そして自分に誓う——この子を泣かせるような真似はしないと。








 

 ……俺は後に思う……願い事なんてするんじゃなかったと。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...