上 下
156 / 185
それぞれの未来へ

年越し

しおりを挟む
 ひとまず、家にお邪魔して……。

「にいちゃんだっ!」
「冬馬君、いらっしゃい」
「誠也、玲奈さん、こんばんは。遅くにお邪魔して申し訳ない」
「良いのよ、バイトだったんだもの」
「僕、頑張って起きてたよっ!」
「そうかそうか、ありがとな。今年もお世話になりました、来年も宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
「もう! 冬馬君、まずは上がって」
「ああ、そうだな」



 リビングに案内され、コタツにてぬくぬくする。

「はぁ……生き返る」
「ごめんね、寒かったよね。すぐにお茶持ってくるね」
「すまんな」
「ねえねえ! いつもにいちゃんは何見てるの!?」
「うん? 笑ってはいけないとか。格闘技とか」
「面白いよね! でも、僕はいつも録画なんだ! 今日は、にいちゃんが来るから特別だって!」

(なるほど……道理でテンションが高いとは思ったが。まあ、もう十一時を過ぎている。普通の小学生なら寝る時間だもんな。そういや、麻里奈も初めて夜更かしするときはテンション上がってたな)

「はい、冬馬君」
「おっ、ありがとな……ふぅ、あったまるわ」
「隣いい?」
「お、おう」
「えへへ、不思議な感じ」

(いかん……上にブランケットを羽織っているとはいえ、パジャマは生地が薄い。色々と柔らかいものが当たる)

「にいちゃん?」
「い、いや、なんでもないさ」

(ふぅ……誠也とお母さんがいて良かった)

「じゃあ、お母さんが年越しソバを作るわ」
「あっ、手伝うよ」
「ダメよ、冬馬君の隣にいなさい。せっかく可愛いパジャマ着てるんだから」
「お、お母さん!」
「うん? いつもと違うのか?」
「お姉ちゃん、いつもは地味な色か中学のジャージだよ!」
「あ、あぅぅ……」
「そっか……うん、可愛くて似合ってるよ。ありがとな、綾」
「はぅ……」
「あらあら、良かったわね~」



 そして……いよいよ年明けが近づく。

「誠也、起きろ」
「う、うん……」
「どうする? 寝ちゃう?」
「……うん。にいちゃん、ごめんなさい」
「何を謝ることがある? 明日もいるさ。だから、しっかり寝ておけ」
「はぁーい」

 玲奈さんに手を引かれ、誠也は二階に上がっていった。

(いかん……ストッパーがいなくなった。鼻腔をくすぐる香りとか、肌の感触が……)

「あ、あのぅ……恥ずかしぃ」
「へっ?」
「ずっと……胸元見てるから」

(ゴハッ!?)

「す、すまん! 無意識だっ!」
「う、うんん……大きくなった?」
「はっ?」

(え? 俺のが? そういう意味? いや、大きくなってるけれども!)

「少しサイズが上がっちゃって……冬馬君は大きいのは嫌いかな……?」

(いえ、好きです……うわぁ……我ながらひどい)

「いえ、大変結構なことかと存じます」

「ふえっ? ……ふふ、変なの。冬馬君、今年もお世話になりました。その……来年も一緒にいてくれたら嬉しいです……」

「ああ、もちろんだ」

 自然と口と口が近づき……キスをする。

 すると……足音が聞こえたので、急いで離れる!

「あらあら~邪魔しちゃったわねー」

「お、お母さん! 別に何もしてないもん!」

「ノーコメントでお願いします」

「ふふ、じゃあ年越しソバを食べましょうね」

 そう言い、玲奈さんはキッチンへ向かった。

「へっ?」

「……過ぎてるし」

(どうやら、イチャイチャしてる間に年を越していたらしい)

「あはは……」
 
「ひとまず……そば食うか」



 玲奈さんが用意してくれたソバを食べ終えると……。

「じゃあ、お父さんは予定通り二日に帰ってくるんだ?」

「ええ、そうよ。ただ……」

「何かあったの?」

「うーん……ちょっと歯切れが悪かったのよね。もしかしたら、何かあったのかしら?」

「帰ってこれないとか?」

「そういう感じじゃなかったわね……まあ、気のせいかもしれないわ」

「俺はいつ頃伺えばよろしいですか?」

「三日のお昼過ぎかしらね。時差ボケもあるでしょうから」

「わかりました」

「お母さん、作戦はどうするの?」

「あまり立てなくて良いと思うわ。ありのままの冬馬君を見てもらいましょう」

「うんっ!」

「それに冬馬君はともかく……綾には腹芸は出来ないもの。嘘が下手だし、お父さんも嫌がるだろうから」

「そうかも……でも、お父さんもきっと気にいるよ!」

「いや、それはあり得ない。娘に近づく男は、すべからく敵だ」

「あら、わかってるわね。さすが、妹さんがいるだけあるわ」

(そうか……いよいよ、近づいてきたな。気に入られるように、しっかりしないとな)





 そして、就寝時間となる。

「えっと……良いんですかね?」

「ふふ、信頼してるから」

「では、頑張ります。おやすみなさい」

「お、お母さん、おやすみなさい」

「ええ、おやすみ。じゃあ、また明日」

 俺は綾の部屋に入る……つまり、お泊りだ。

(と言っても、ただ寝るだけだけどな。ここで手を出したら、今までの苦労が水の泡だ)

 というわけで、大人しく綾のベットの横にある布団に入る。

「ふふ、変な感じだね」

「まあ、そうだな」

(ヤベェ……部屋中から綾の香りがして……色々まずい)

「そういえば、先生たち来た?」

「ん? ああ、真兄たちか。報告ついでに食べに来たよ」

「私も、今日上がる時に伝えられて……びっくりしちゃった」

「まあ、お互いに良い歳だしな」

「弥生さん、幸せそうだったなぁ……わたしも、いつか……」

 綾はうとうとし始めた。
 その姿は、ずっと見ていたいほどに可愛い。

「寝て良いぞ。明日も予定あるしな」

「うん……おやすみなさい……」

 そして……すぐに寝息をたて始めた。

「さて、俺も寝ますか。そのために、今日は頑張ったんだし」

 そう、俺が今日朝から晩までバイトをしたのは、もう一つの理由がある。

 疲れ果てていれば、何とか寝られるのではないかと思ったからだ。

(……おっ、来た……これなら、何とか……)

 その感覚に身を委ね……俺も微睡みの中に沈んでいく……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

俺の高校生活がラブコメ的な状況になっている件

ながしょー
青春
高校入学を前に両親は長期海外出張。 一人暮らしになるかと思いきや、出発当日の朝、父からとんでもないことを言われた。 それは…… 同い年の子と同居?!しかも女の子! ただえさえ、俺は中学の頃はぼっちで人と話す事も苦手なのだが。 とにかく、同居することになった子はとてつもなく美少女だった。 これから俺はどうなる?この先の生活は?ラブコメ的な展開とかあるのか?!   「俺の家には学校一の美少女がいる!」の改稿版です。 主人公の名前やもしかしたら今後いろんなところが変わってくるかもしれません。 話もだいぶ変わると思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...