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それぞれの未来へ

年越し

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 ひとまず、家にお邪魔して……。

「にいちゃんだっ!」
「冬馬君、いらっしゃい」
「誠也、玲奈さん、こんばんは。遅くにお邪魔して申し訳ない」
「良いのよ、バイトだったんだもの」
「僕、頑張って起きてたよっ!」
「そうかそうか、ありがとな。今年もお世話になりました、来年も宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
「もう! 冬馬君、まずは上がって」
「ああ、そうだな」



 リビングに案内され、コタツにてぬくぬくする。

「はぁ……生き返る」
「ごめんね、寒かったよね。すぐにお茶持ってくるね」
「すまんな」
「ねえねえ! いつもにいちゃんは何見てるの!?」
「うん? 笑ってはいけないとか。格闘技とか」
「面白いよね! でも、僕はいつも録画なんだ! 今日は、にいちゃんが来るから特別だって!」

(なるほど……道理でテンションが高いとは思ったが。まあ、もう十一時を過ぎている。普通の小学生なら寝る時間だもんな。そういや、麻里奈も初めて夜更かしするときはテンション上がってたな)

「はい、冬馬君」
「おっ、ありがとな……ふぅ、あったまるわ」
「隣いい?」
「お、おう」
「えへへ、不思議な感じ」

(いかん……上にブランケットを羽織っているとはいえ、パジャマは生地が薄い。色々と柔らかいものが当たる)

「にいちゃん?」
「い、いや、なんでもないさ」

(ふぅ……誠也とお母さんがいて良かった)

「じゃあ、お母さんが年越しソバを作るわ」
「あっ、手伝うよ」
「ダメよ、冬馬君の隣にいなさい。せっかく可愛いパジャマ着てるんだから」
「お、お母さん!」
「うん? いつもと違うのか?」
「お姉ちゃん、いつもは地味な色か中学のジャージだよ!」
「あ、あぅぅ……」
「そっか……うん、可愛くて似合ってるよ。ありがとな、綾」
「はぅ……」
「あらあら、良かったわね~」



 そして……いよいよ年明けが近づく。

「誠也、起きろ」
「う、うん……」
「どうする? 寝ちゃう?」
「……うん。にいちゃん、ごめんなさい」
「何を謝ることがある? 明日もいるさ。だから、しっかり寝ておけ」
「はぁーい」

 玲奈さんに手を引かれ、誠也は二階に上がっていった。

(いかん……ストッパーがいなくなった。鼻腔をくすぐる香りとか、肌の感触が……)

「あ、あのぅ……恥ずかしぃ」
「へっ?」
「ずっと……胸元見てるから」

(ゴハッ!?)

「す、すまん! 無意識だっ!」
「う、うんん……大きくなった?」
「はっ?」

(え? 俺のが? そういう意味? いや、大きくなってるけれども!)

「少しサイズが上がっちゃって……冬馬君は大きいのは嫌いかな……?」

(いえ、好きです……うわぁ……我ながらひどい)

「いえ、大変結構なことかと存じます」

「ふえっ? ……ふふ、変なの。冬馬君、今年もお世話になりました。その……来年も一緒にいてくれたら嬉しいです……」

「ああ、もちろんだ」

 自然と口と口が近づき……キスをする。

 すると……足音が聞こえたので、急いで離れる!

「あらあら~邪魔しちゃったわねー」

「お、お母さん! 別に何もしてないもん!」

「ノーコメントでお願いします」

「ふふ、じゃあ年越しソバを食べましょうね」

 そう言い、玲奈さんはキッチンへ向かった。

「へっ?」

「……過ぎてるし」

(どうやら、イチャイチャしてる間に年を越していたらしい)

「あはは……」
 
「ひとまず……そば食うか」



 玲奈さんが用意してくれたソバを食べ終えると……。

「じゃあ、お父さんは予定通り二日に帰ってくるんだ?」

「ええ、そうよ。ただ……」

「何かあったの?」

「うーん……ちょっと歯切れが悪かったのよね。もしかしたら、何かあったのかしら?」

「帰ってこれないとか?」

「そういう感じじゃなかったわね……まあ、気のせいかもしれないわ」

「俺はいつ頃伺えばよろしいですか?」

「三日のお昼過ぎかしらね。時差ボケもあるでしょうから」

「わかりました」

「お母さん、作戦はどうするの?」

「あまり立てなくて良いと思うわ。ありのままの冬馬君を見てもらいましょう」

「うんっ!」

「それに冬馬君はともかく……綾には腹芸は出来ないもの。嘘が下手だし、お父さんも嫌がるだろうから」

「そうかも……でも、お父さんもきっと気にいるよ!」

「いや、それはあり得ない。娘に近づく男は、すべからく敵だ」

「あら、わかってるわね。さすが、妹さんがいるだけあるわ」

(そうか……いよいよ、近づいてきたな。気に入られるように、しっかりしないとな)





 そして、就寝時間となる。

「えっと……良いんですかね?」

「ふふ、信頼してるから」

「では、頑張ります。おやすみなさい」

「お、お母さん、おやすみなさい」

「ええ、おやすみ。じゃあ、また明日」

 俺は綾の部屋に入る……つまり、お泊りだ。

(と言っても、ただ寝るだけだけどな。ここで手を出したら、今までの苦労が水の泡だ)

 というわけで、大人しく綾のベットの横にある布団に入る。

「ふふ、変な感じだね」

「まあ、そうだな」

(ヤベェ……部屋中から綾の香りがして……色々まずい)

「そういえば、先生たち来た?」

「ん? ああ、真兄たちか。報告ついでに食べに来たよ」

「私も、今日上がる時に伝えられて……びっくりしちゃった」

「まあ、お互いに良い歳だしな」

「弥生さん、幸せそうだったなぁ……わたしも、いつか……」

 綾はうとうとし始めた。
 その姿は、ずっと見ていたいほどに可愛い。

「寝て良いぞ。明日も予定あるしな」

「うん……おやすみなさい……」

 そして……すぐに寝息をたて始めた。

「さて、俺も寝ますか。そのために、今日は頑張ったんだし」

 そう、俺が今日朝から晩までバイトをしたのは、もう一つの理由がある。

 疲れ果てていれば、何とか寝られるのではないかと思ったからだ。

(……おっ、来た……これなら、何とか……)

 その感覚に身を委ね……俺も微睡みの中に沈んでいく……。
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