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冬馬君は遅れたものを取り戻す

文化祭二日目~その3~

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 会場である体育館に到着すると……。

 想像以上の人で溢れかえっていた。

 表から入ることは出来ないので、俺たちは壇上側の扉から入ることにする。

 その壇上の前にはカーテンで仕切られていて、お互いに見えない状態になっている。

「なんか、すげーいたな」

 数百人はいたぞ……。
 二階までも埋まってたし。

「そうね、こちらの想像以上だったわ。体育館にしといて良かったわよ。表でやったら収拾つかなくなっていたところね。体育館なら、自動で人数制限できるから」

「まあ、一杯になったらお終いってことだもんな」

「よう、冬馬」

「おっ、アキ……なんつー格好をして……」

「お前に言われたくない」

「……確かに」

 アキの格好は物語の中の王子様のような格好だ。
 ジャニー○系イケメンのアキにはぴったしの格好ではある。

「他の参加者は……」

 六人いるが、どれもアイドルのような衣装を着ている。
 俺は奴らをよく知らないが、アキが一番イケメンだな。

「まあ、俺のライバルは居なそうだな……お前以外には」

「おいおい、買い被りすぎたろ。俺は、お前に勝つ気はないぞ? ただ、ここで綾に相応しい男と客観的に認めてもらうことが大事だ」

「なら、なおさらの事じゃないか。俺に勝てば、否応無しに認めざるをえない」

「それはそうだが……いや、そうだな。やるからには一番を目指すべきか」

「ほら! くっちゃべってないで準備をしなさい! そういうのは後でして! 私が写真撮るから!」

「「いや、撮るなし」」

「撮らせなさいよっ! 次のコミケの題材に……」

「「するなっ!!」」

「ああっ! いまのいいわ! 脳内保存しとかなきゃ……!」

「「もう、勝手にしてくれ」」

「ふふ、懐かしいわね。このやり取りも」

「ったく……ほら、準備をするんだろ? どうしたらいい?」

「まずは、これを引いてちょうだい」

 何やら箱を差し出される。
 
「これで順番を決めるわ」

「ああ、そういうことか」

「どれどれ……」

 二人で引いた結果……。

「俺は六番目か……」

「冬馬はトリね」

「俺は五番目だな」

「アキはその前ね」

 こうして、あとは出番を待つだけとなる。



 そして、ミスターコンテストが始まる。
 カーテンが開いて、壇上に小百合が上がる。

「さあ! 皆さん! 我が校恒例のミスターコンテストが始まるわよ!」

「「「きゃ——!!」」」

「「「ウォォォ——!」」」

 はて?女子はともかく、なんで男子まで?

 その後、小百合が紹介した人物が袖から出て行く。

 その歓声の中、俺が考えていると……前にいるアキが振り向く。

「おい、冬馬。お前の疑問に答えてやるよ」

「ん?」

「最近は、カッコいい男やイケメンに憧れる男が増えてきたらしいぞ? 男性アイドルのコンサートでも、男子がいることも珍しくない」

「へぇ……時代は変わるんだな」

 少し違うが、俺が真兄に憧れるようなもんかね。



 そして時間が経ち、アキの番がくる。

「じゃあ、行ってくら」

「おう、行ってこい」

 アキが出て行くと……さっきまでとは違う歓声が上がる。

「アキ君~!!」

「はぅ……もうダメ!!」

「カッコいいーー!!」

「やあ! みんなっ! 学園のアイドルアッキー参上!!」

「「「きゃ——!!!」」」

「「「ヤリチ○は消えろ——!!」」」

 うん、何というか……対極的な歓声だこと。
 相変わらず、圧倒的に女性受けしかないな。
 あいつも、付き合えば男らしいところもあっていい奴なんだが……。
 それ以上に女好きというのがネックという。
 ヤリチ○も否定出来ないし。

「俺はヤリチ○じゃねぇ——!!  ただ女の子が好きなんだー!!」

「おーっと! アキ選手! 男子の殺気に堂々としておりますっ! 私のしては男好きと言って欲しかったっ! そうだろ!? 愛しの女子諸君!」

「「「きゃ——!! お姉様——!!」」」

「ステキな考えですわ!」

「何故、貴女には投票できないのですかー!?」

「我々は貴女に入れたいのにっ!」

「てめー! 人のファンを取るんじゃねえよ!」

「うるさいわねっ! この鈍感男がっ!」

「「「始まったっ! 我が校の風物詩!」」」

「うん、カオス」

 それにしても今更だが……小百合ってそういうことなのか?
 いや、そんなわけはないか。


 そして、いよいよ俺の番となる。

「さあ、続いての選手は……初登場となる男だっ! 皆も噂を知り、気になっていたのではないか?  あの学園のマドンナを射止めた男の名を! 難攻不落と言われた城を落とした男! そいつの名は——吉野冬馬!!」

 恥ずい……が、ここで照れると、更に恥ずいことになる。
 俺は覚悟を決めて、袖から出て行くのだった。

 しかし、俺はアキのようには出来ない。
 なので姿勢を正し、堂々とした姿を見せることにする。

「おっと、冬馬選手! 他の人とは違い、黙っての登場だ!」

 小百合が盛り上げようとするが……会場は静まりかえっている。

「だが、俺は俺らしくやるだけだ」

 そんな俺だが、観客に目を向けた瞬間——固まる。
 叫ばなかった自分を褒めたいくらいだ。

 ……店長!? 友野さんまで!? 
 店は!? どうして!?
 二人とも、ニヤニヤして俺を見ていた。
 これか、啓介の姉さんが言っていたことは。

「さて、アピールですが……何がありますか?」

「そんなものはない。俺がここにきた理由はただ一つ。大好きな彼女に相応しい男になりにきただけだ。小百合、マイクを貸せ」

「はいはい、相変わらず熱い男ね」

「さて……みんなの知っている通り、俺は清水綾さんの彼氏だ」

 体育館がザワザワとする。

「俺はみんなから相応しくないと言われ、様々なことをされてきた。時には陰口だったり、学校の裏サイトだったり、面と向かって言われたり……彼女はとても優しい女の子だ。俺が気にしないと言っても、彼女は傷ついてしまう」

 体育館中の視線が俺に集まる。

「なので、俺は変わろうとした。勉強したり、友達付き合いをしたり、見た目を変えたり……だが、それでも彼女は告白を受けている。俺には一切言わないけどな……顔を見ればわかる。そして、とても傷ついていることを。当たり前の話だが、断る方だって傷つく」

 段々と熱を帯びた視線に変わってくる。

「俺は考えた……どうすれば彼女が傷つかなくて済むのかと。俺のせいで彼女が傷つくのは耐えられない。というわけで……この場に出させてもらった。いちいち一人一人に言っていたんではらちがあかないからな。ここに宣言する——清水綾は俺の女だ! 文句がある奴は俺の所に直接来い! 俺は言ったからな? 次、彼女に近づいてみろ——俺がタダじゃおかない」

 これは動画を撮って全校生徒が見れるようになっている。
 これで、俺の宣言が広まるはず。
 これでも来るようなら……確実に叩き潰す。
 というか、それでも来る奴は危ない奴だし。

「キャ——!! 言われたいっ!」

「最近いないタイプだよねっ!」

「俺の女とか言われるの悪くないよねっ!?」

 女子が騒いだ後……地響きのような声がする。

「「「ウオォォォ——!!!」」」

 男子達が叫んでいる。

 よくわからないが……好意的な声な気がする。

「おおーっと! 男らしい宣言だっ! さすがは我が友よ! 生徒会長して、こいつの友として宣言する! 清水綾ちゃんの後ろには私がついている! 何かしようものなら——恥ずかしい秘密がバラされると思うがいい」

「……………」

 会場が静まりかえった……。
 いや、全校生徒の弱みは握っているとは言ってたが……。
 だが、感謝をしなくてはな。

「小百合、ありがとう。お前という友がいて良かったよ」

「お礼は要らないわよ。私は、以前何も出来なかったから……」

 俺が母さんを亡くした時のことか……。

   しかし、これでは借りのが大きい。

   小百合の相談に乗ってやらないとな。




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