静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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冬馬君は遅れたものを取り戻す

文化祭1日目~その四~

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 真兄と弥生さんと別れた俺は、麻里奈を連れて教室に戻ろうしたが……。

 何かを忘れている気がした……。

「麻里奈ー!どこだー!?」

「あっ……親父だ」

「もぅ……大声で恥ずかしいなぁ……」

 親父が俺に気づき、こちらにくる。

「おっ、冬馬と一緒だったか。良かった……なんか、あったのかと」

「いや……」

「お兄」

「ん?……そうだな、何もなかったよ」

「なんだなんだ?」

「いいから!ほら、お兄に投票するよー。お兄、カッコいいね!」

「わかった!わかったから押すんじゃない!ほう……男前だな、俺に似て」

「ハハ……複雑」



 投票を済ませた二人を連れて教室に戻る。

 ちなみに、親父は入り口で真兄に会って話し込んでいる。

 是非ともお礼が言いたいと……俺は照れくさいので逃げてきたが。

「あっ——麻里奈ちゃん!大丈夫だった!?」

「はい、綾さん。心配してくれてありがとうございます」

「啓介が助けてくれたそうだからな。あれ?啓介は?」

「さっき、休憩に入ってお姉さんと出て行ったよー」

「えー!?まだ、きちんとお礼してないのに……」

 ……ん?なにか、今……おかしくなかったか?

「あれ?麻里奈ちゃん……もしかして……」

「ち、違うよ!別に……少し素敵だなって思っただけ……」

「グハッ!?」

 麻里奈が……見たことない顔しとる……!
 膝から崩れ落ちた俺を、綾が支えてくれる。

「だ、大丈夫……?」

「な、なんとか……啓介か……」

 まあ……どこぞの馬の骨よりかはいいか。

「だから、そんなんじゃないって……少し気になっただけで……」

「わかった……まあ、今度うちにも連れてくるさ」

「そ、そう……」

「ふふ……可愛い」

「もう!綾さん!?抱きしめないで——!」

 妹と綾がイチャイチャしてる……尊い……!
 誰得?——俺得だ。

「おっ、仲がいいな。これなら、姉妹でもやっていけそうだ」

「お、おじさん!?はぅぅ……」

「ハハ!お父さんと呼んでもいいぞ?」

「おい、気が速いから。で、真兄は?」

「ん?お礼を言ったら、綺麗な方と歩いて行ったぞ」

「そうか……あのな、俺の憧れの漢なんだ。その……ああいう風になれたらって思う」

「そうだな、とても良い男だった。いいんじゃないか?そろそろ、そういうことも考える時期だろうしな」

「冬馬君、なんの話?」

「後で話すよ。とりあえず、仕事をするか」



 その後1時間ほど仕事し、そろそろ休憩かと思っていると……。
 タイミングよく、森川が戻ってきた。

「あっ——愛子……どうだった?」

「ま、まあ、それなりに楽しかったかな」

「ふふ……顔赤いよ?」

「ほら!いいから!あんたらは休憩に入って!」

「親父、麻里奈、悪いが……」

「ああ、行ってこい」

「うん、私達は他見てくるねー」

 皆の了承を得て、俺と綾は一時間の休憩に入る。



 まずは教室を出て、2人で顔を見合わせる。

「お嬢様、どちらに行かれますか?」

「ご主人様、どこに行かれますか?」

「………かぶったな」

「………そ、そうだね」

「普通に行くか」

「そうしようか」

 とりあえず手を繋ぎ、2人で歩き出すが……。

「ねえねえ!あれって!」

「ポスターの人だ!あれが彼女かぁ……そりゃ一途にもなるよね」

「あれって清水さんだよな!?メイド服……パネエ……!」

「彼氏できたって聞いてだけど……夢じゃなかったのか……」

 目立ちすぎているな……。

「す、すごい見られてるね……?」

「まあ、綾が可愛いからだな」

「ち、違うよ……冬馬君が……かっこいいからだもん」

「何を照れている?」

「く、黒縁眼鏡は反則なのです……」

「はい?」

「め、眼鏡男子……実は好きなの……というか、最初にあった時から……」

「初耳だな……これからは眼鏡にするか?」

「どっちも好きと言いますか……たまにしてくれたら嬉しいです……」

「なんというか……可愛いわがままだな。わかった、今度眼鏡を買いに行くとしよう。もちろん、綾が選んでくれ」

「いいの!?」

「お、おう……」

「えへへ~、何がいいかなー」

 こんなに喜んでくれるなら安いものだ。

 すると……再び、周りから声が聞こえてくる。

「いいなー、優しくて」

「ポイント高いよね!」

「いやあれだけ可愛い彼女いたらそうなるだろ……」


 俺と綾は顔を見合わせて、お互いに頷く。

 そして飲み物と食べ物を買い、恒例の場所に移動することにした。


 つまりは……いつもの空き教室である。

「はぁ……ゲームとかしたかったのに……」

「なに、明日もあるさ。明日の午前中はお互いに休みだから、その時に回ればいいさ。その時は普通の格好でいけばいい」

「……うん!」

「やっぱり、綾には笑顔が似合うな」

「あ、ありがとぅ……」

 このまま綾の照れ顔を眺めていたいところだが……。

「さて……さっきの話だが……」

「何か、おじさんや麻里奈ちゃんと言ってたね?」

「いや、今更気づいたんだが……俺、教師になろうかと思う」

「えっ!?ど、どういうこと?」

「まずは……俺は、やりたいことがなかった。母さんが死んで、それからは生きることに精一杯だったから……」

「うん……」

「そして綾に出会った……俺はバラバラになったものが、再構築されていくのを感じた。母を失った悲しみ……友達を遠ざけたこと……真兄や兄貴分達との交流……新しい友達……それらによって、少しずつ見えてきたんだ。やりたいことが……」

「それが……どうして先生なの?」

「いや……なんといったらいいか……まずは、真兄に憧れていること」

「うん」

「それと……意外と悪い奴はいないんだって、みんなに教えてあげたいなと思ってな」

「どういうこと?」

「見た目や性格、リア充やら陰キャやら沢山あるけど……話してみないことには、互いのことなんかわからないものだと思ってさ。もちろん、合わない場合もあるが……」

「あっ——わかる気がする。私も、愛子と仲良くなれるとは思ってなかったもん。見た目がギャルで言葉遣いもアレだったから……でも、話してみたら……そうだよね」

「いじめをなくそうなんて大層なことは言えないが……少なくとも、知らないからということもあると思うんだよ。啓介なんかもそうだし……付き合えば、当たり前のことだけど普通に話せるし楽しいからな」

「知らないから……そういうこともあるかもね」

「まあ……さっき思ったばっかで上手く言えないが……そんな感じだな」

 すると……綾が真面目な表情になる。

「冬馬君……私の話も聞いてもらって良い?」

「ああ、もちろんだ」

 これは真剣な話だと判断して、俺は姿勢を正す。

「あ、あのね……私……留学がしたいと
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