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冬馬君は遅れたものを取り戻す

文化祭1日目~その3~

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 俺が、再び校舎の入り口付近へ行くと……。

 ……おい?誰の妹に声をかけている?

 ナンパ男2人に、麻里奈が絡まれている。

 ハァ、どうしてもこういう輩が増えるな。

「お……」

「やめろ!」

 ……ん?誰かが、麻里奈をかばうように立ちふさがった?
 あれは……啓介?
 あまりの展開に驚き、俺は立ち止まってしまう……。

「あぁ!?なんだ!?てめーは!!」

「おいおい!オタク少年!そういうのは漫画の世界だけにしとけって!」

「そ、その人は僕の友達の妹だ!放っておけない!」

「あっ……お兄の友達?」

「うん、そうだよ。あれ……もしかして、困ってなかった?」

「い、いえ!困ってます!」

「そ、そっか……というわけで、君たち諦めてくれますか?」

「あぁ……?馬鹿か、お前」

「ただの友達の妹だろ?関係ねえし、カッコつけてんじゃねえ!!」

 ……いかん!感動している場合じゃない!

「はいはい、そこまでー」

「今度はなんだよ!?」

「あっ——お兄!」

「冬馬君!」

 2人を守るように、男達の前に立ちはだかる。

「というわけだ、兄貴なんでな。退いてくれると助かる。ちなみに、今すぐ退くなら何もしない。今——俺はすこぶる機嫌が良い……」

 啓介が……あの不良に絡まれていた啓介が……。
 俺の妹を守るために、男気を見せてくれた……!
 こんなに嬉しいことはない……!

「お、おい?兄貴だってよ……行こうぜ?」

「バカ言うなよ!こんな恥かいたまま行けるか!」

「やれやれ……暴力沙汰にはしたくないんだが……」

 距離があるから肩を掴むのも難しい……。
 それに、頭に血がのぼっている……。
 仕方ない……一発殴られてやれば正当防衛が成立するな。

「はいはーい、先生ですよー」

「真兄?」

 ……物凄いご機嫌でニコニコしている。
 気味が悪いほどに……。

「あぁ!?今度はな……な、なんで、アンタが……?」

「お、おい……伝説のヤンキー……真司……」

「おや?俺のこと知ってんのか?なら——消えろ」

「ヒィ!?」

「す、すみませんでしたー!」

 蜘蛛の子を散らすように、そいつらは去っていった……。
 さすがだな……凄みが違う。

「あらー……真司さん」

「あっ——ち、違うんです!あれは昔の話でして……」

 真兄の後ろから、弥生さんがひょこっと顔を出している。
 なるほど……ご機嫌の理由はこれか。

「弥生さん、こんにちは」

「冬馬君、こんにちは。災難だったわね?」

「いえ、頼れる兄貴が来ましたから。ありがとう、真兄。弥生さん、真兄はもう卒業してますから平気ですよ」

「そ、そうだろ!というわけでご安心ください!」

「クス……わかってますよ——素敵でしたよ?」

「ゴハッ!?」

 弥生さんの微笑みに、真兄が崩れ落ちた。
 いや……気持ちはわかる。
 俺ですらドキッとする色気だ……綾には言えないけど。

「お、お兄!」

「おっ、すまんな。まずは、啓介」

「ご、ごめんね……助けようと思ったんだけど……」

「何をしょげている?十分に助けてくれただろう?なっ、麻里奈?」

「うん!あの……ありがとうございます!」

「そ、そっか……よかった、こんな僕でも出来たんだ……」

「俺からもありがとう、啓介。大事な妹なんだ」

「も、もぅ……」

「ハハ……話には聞いてたしね」

「冬馬君、場所を変えないかしら?」

「弥生さん?」

「ほら、周りを見て……」

「あ、あの人!」

「ポスターの人だ!あれって演出かな!?」

「だとしてもカッケーよ!俺、あの人に入れる!」

「私も!あんなお兄ちゃん欲しかったよー!」

 中学生くらいの子達が目を輝かせている……。
 というか……また、騒ぎになってしまった……。

「……そうですね、とりあえず外に出ますか。啓介、お前は教室に戻ってくれ。お姉さんが待ってる」

「え!?……あっ!そういえば……うん、そうするね」



 啓介が去った後、一度校舎を出て、人が少ない場所に行く。

「真兄、ありがとな。おかげで、手を出さずにすんだよ」

「なに、これも先生の仕事のうちだ。俺は、それ担当を任されている。見回りってやつだ」

「適任すぎる……弥生さんは、呼ばれたんですか?」

「ううん、違うの。私が来たいって言ったのよ。どういうところで働いているのかなぁーとか、生徒さんからどういう風に見られてるのかなぁーと思って……」

「なるほど……まあ、人となりを知るには大事なことですよね」

「そういうことね」

「そ、それで……」

「フフ……どうでしょうね?」

「こ、これからですよ!」

 真兄が翻弄されてる……。
 俺から見たら、弥生さんは真兄を気に入ってるように見えるけど。

「ねえねえ、お兄」

「ん?どうした?ああ、知らない人か。悪い悪い……2人とも」

 俺の背中に隠れていた妹を前に出す。

「こんにちは、麻里奈ちゃんね?お兄さんからお話は聞いているわ。とっても出来たお嬢さんって。私は、冬馬君の行きつけの本屋で働いている矢倉弥生といいます」

「そ、そんなことないですよ!あっ……あの本屋さんの……吉野麻里奈と申します、いつも兄がお世話になっております」

「はぁー……冬馬、出来た妹だな」

「ああ、自慢の妹だよ。さて、麻里奈。この人が……俺の恩人であり、兄貴と慕う名倉真司さんだ」

「こ、この人が……あ、あの!」

「うん?どうした?」

「兄を更生してくれてありがとうございます!」

「おい、更生って……まあ、否定はできないけど」

「気にしなくていい。俺は俺のしたいようにやっただけだ——可愛い弟分のためにな」

「あっ……お兄が、たまに言うようになったセリフ……立ち振る舞いも……この人が、お兄の目標なんだね?」

「……まあ……そうだな」

 いかん……照れ臭いぞ。
 バレてしまったな……俺が真兄に憧れていることが……。

「なんだ?なんだ?お前、俺みたいになりたかったのか?」

「そうだよ……真兄みたいに、年下とか関係なく対等に扱ってくれて……しっかりと話を聞いてくれるカッコいい大人……先生に憧れてるよ」

「お、おう……そうか」

「あらあら……2人とも、顔が赤いですね。でも、とってもステキな関係ね?」

「そうですね!二人とも同じ顔して照れてますしね!」

「「照れてないし!!」」

「「……………」」

「「あぁ!?」」

 ……今、言ってみて気づいた。

 俺はもしかしたら……真兄みたいな先生になりたいのかもしれない。
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