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冬馬君は遅れたものを取り戻す

家族が一緒に居られる時間は意外と少ない

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 あれから一緒に帰っているが……。

 結局、ストーカーは見当たらない……。

 いや、そもそもいるがどうかはわからないし。

 いなかったら、それはそれで良いことだ

 もちろん、油断は禁物……神経を張り巡らせないとな。

 人生とは、何が起きるかわからないし、起きてからでは遅い。

 ニュースでもそういうパターンが多いというし……。

 大切な女性を守るためならば、俺の苦労など……。

 いや……そもそも、苦労など思わない。

 綾に頼られることは、俺にとっては喜びだからだ。

 ……そして、いよいよ文化祭当日を迎える。



 学校に行く前に、親父と麻里奈と打ち合わせをするが……。

「えっと……親父と麻里奈はいつ来るんだ?」

「ねえ、お父さん。ほんとに一緒に行くのー?」

「当たり前だっ!可愛いお前が1人で行ったら……大変だっ!ナンパの嵐だっ!」

「大袈裟だなぁ~私は、綾ちゃんほど可愛くないよー」

「いや、比べるのが間違いだ。お前はお前で可愛い。綾は綾で可愛いだ——そこに優劣などない!」

「そうだっ!母さんは母さんで可愛い!お前はお前で可愛いだっ!」

「ハァ……嬉しいけど暑苦しい……お母さん、私は大変です……」

「お、お父さんと行くのはイヤか……?やっぱり、友達と行かせるか?いや、しかし……」

 親父が落ち込んでブツブツ言っているので、麻里奈を呼び寄せて耳打ちをする。

「麻里奈……親父に付き合ってやってくれ。きっと、いつまでもそういうわけにはいかないだろう。流石に、高校生や大学生になったらな……」

「お兄……」

「もちろん、お前に彼氏など……悲しいが出来る時が来るだろう。それまでは、親父に付き合ってくれるか?そして彼氏が出来たなら……苦渋の決断だが……悪い男でなければ親父を説得してやるから」

「もう……泣きそうにならないでよ……でも、そうだね。私は、いずれお嫁に行かなきゃいけないし……お父さんといられる時間も、意外と少ないのかも……」

「そうだな……旦那さんが遠方の方だったら、会うのは年に数回だろうな……家族が一緒にいられる時間には限りがある……わかるな?」

「……うん、よくわかるよ。お母さんとは……全然いられなかった……私、幼くて……お母さんが辛いことなんて知らなくて……いつも笑顔で……うぅー……」

「麻里奈……」

「もっといたかった……お母さんの身体のこと知ってたら……私、外に遊びに行ってばかりで……もっと料理とか、お掃除とか手伝えばよかったのに……」

「俺もだよ……でも……」

「そんなことはない!」

「親父……」

「お父さん……」

 いつのまにか、涙を流した親父が横にいた……。

「母さんはな……お前たちが元気に遊びに行くのを見送ったり、お帰りなさいって言うのを楽しみにしてたんだ……そりゃー俺だって言ったさ。もっと家にいてもらって、一緒の時間を過ごしたらって……でもあいつが言うんだ。母親の事情で子供を縛り付けてはいけないって……子供が元気に遊んでくれるのが幸せって……自分には出来なかったことをして欲しいって……」

「母さんが……そうか、母さんは小さい頃から身体が弱くて……」

「遊んだりしてこなかったんだよね……」

「俺は一言一句を覚えている……こんな私の身体から、こんな元気な子が生まれたんだもん……しかも、2人も。それだけで幸せよ、貴方ありがとうって……」

 ……その後、母さんの仏壇に三人で並んで黙り込む。

 きっと、それぞれ違うこと思っているのだろうが……。

 母さんのことを想っていることだけは……間違いないだろう。




 準備をして家を出た俺は、綾と電車で合流する。

 そして、学校へ向かう途中……さっきの出来事について話してみた。

「そっかぁ……うん、そうなのかも。私も、少し後悔したことがあるんだ」

「ん?どういうことだ?」

「お父さんが転勤する時にね、私についてこないかって言われたの……」

「それは……まあ、1人は寂しいもんな……」

「お母さんは仕事してるし、誠也が小さかったかし、結局はそうならなかったけど……お父さんの寂しそうな顔が忘れられなくて……でも、確かに一緒にいられる時間は短いのかも……」

「そうだな……まあ、それはそれで困ったけどな?」

「え?」

「その場合は、高校二年生になる前にいないわけだ。つまり、俺は大好きな綾に会うこともなく、付き合うこともなかったと……もっと言えば、俺の傷は癒えないまま……友達とも、疎遠のままだったということだ」

「あっ——そうだよね……私も、ずっと男の人が怖いままで、大好きな冬馬君と出会うこともなくて……色々なステキな出来事にも出逢うこともなくて……そ、その、付き合ったり、デートしたり、キスしたりとか……あぅぅ……」

「おい?自分で言って照れるなよ……俺がキスしたくなるだろうが」

「し、しますか……?」

 俺は辺りを見渡して言う。

「……ああ——する」

「んっ——」

 俺は綾の顔が見られないように、両手で覆い隠すように口づけをする。

 綾のキス顔を見れるのは——俺だけの特権でありたいからだ。

 ……これからも一緒にいたいし、いるつもりではある。

 だが、それこそ何が起きるかわからないのが人生だ。

 綾との時間を、一つ一つ大事に過ごしていこうと思う……。
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