静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君はお見舞いに行く

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 バイトから翌日のこと……。

 俺は己の迂闊を呪った……。

「あ、綾……そ、そんな……」

 俺のせいだ……!
 俺が気を配っていたら……!
 こんなことには……!

『……冬馬君……?聞こえてる……?』

「……ああ……すまない……!」

『え?』

「昨日送って行くとき、寒そうにしていた……タクシーを呼んで帰らせるべきだった……俺が、綾と歩けることが幸せだったから……」

『あっ——わ、私も幸せだったよ……?それに、私が勝手に行っちゃっただけだから……冬馬君は悪くないもん……』

「いや、しかし……」

『ケホッ……』

「……すまん、まずはゆっくり休んでくれ」

『う、うん……』

 電話を切り、俺の朝の支度をする。

 ……さて、見舞いに行かなくてな。



 久々に、1人で電車に乗っていると……きたか。

「よう、冬馬」

「おう、アキ。悪かったな」

「いや、良いさ……風邪だって?」

「ああ、すまんが……」

「わかってるさ。俺は今日じゃなくて良いしな。見舞い行ってやんな」

 今日は、本来ならアキと約束をしていたからな。

「助かる……ところで、最近は取り巻きの女子達がいないが……どうやって説得したんだ?」

 いるにはいるが……遠くから見守ってる感じなんだよなぁ。

「ん?……まあ、良いじゃん。そんなことより、ミスコンでるんだってな?」

「ああ、小百合から頼まれたしな。お前と一緒に出て、対抗馬にするらしい」

「クク、楽しみが増えたな。じゃあ、俺も油断できないかねー」

「おいおい?お前に勝てるわけがないだろうが……」

「やれやれ……これだから自覚のない奴は……」

「はぁ?」

「いや、良いさ」




 その後、アキと下駄箱で別れて教室に入ると……。

「あっ、冬馬君!おはよう!」

「おう、おはよ。驚いたぜ」

「僕もだよ!まさか、お姉ちゃんのバイト先が冬馬君のところだなんて……」

「まあ、地元が一緒だからそういうこともあるわな」

「そうだねー……あれ……?清水さんは?」

「風邪をひいてしまったようでな……」

「あっ、そうなんだ。早く良くなるといいね」
 
「ああ、ありがとな」

 その後の授業は、正直言って耳に入ってこなかった……。



 なんとか我慢して、放課後を迎える。
 どんだけ、早退したかったことか……!
 しかし、そんなことすれば綾が気にしてしまう。

 俺は急いで綾の家へと向かう!


  
「ゼェ、ゼェ……疲れた……さて、まずは確認だ」

 ピンポンでは起こしてしまうかもなので、玲奈さんにメールを送る。
 すると……すぐに玄関のドアが開く。

「冬馬君、いらっしゃい」

「こんばんは、玲奈さん。綾は……?」

「ちょうど良いタイミングね。今さっき起きたところよ。熱も下がってお腹が空いたみたいよ。お粥ができたから、持って行ってあげてちょうだい」

「ほっ……良かった……わかりました、ではお邪魔します」

 リビングに入り、お粥を受け取る。

「じゃあ、お願いね?」

「はい、では行ってきますね」

「冬馬君……もう熱は下がったから、襲っても良いからね?」

「はい?ったく……勘弁してくださいよ……」

「あら、動じないのねー。やっぱり、器が大きいわねー」

 返事をせずに、お粥を持って二階に上がる。
 ……動じてないわけがない……。
 ただ、好きな子の母親の前で狼狽えたくなかったたけだ……。

 心を落ち着かせ、ドアをノックする。

「綾?俺だ、入って良いか?」

「ふえっ……?と、冬馬君!?え?な、なんで!?」

「起きてるのか。じゃあ、入るぞ」

 ドアを開けると……天使がいた。
 ピンクのパジャマを着た状態で、綾がベットにいるからだ……。

「と、冬馬君だぁ……」

「お、おう……具合はどうだ?」

 やばい……動悸がおさまらない……。
 ここんとこは、意識しないようにしてたから……。
 なぜ、こんなにエロく見える……?

「へ、平気だよー。見舞いに来てくれたんだよね?」

「もちろんだ。可愛い彼女が風邪をひいたんだ」

「あ、ありがとぅ……」

「それに、以前は綾が来てくれたしな」

「あっ——懐かしいね……はぅぅ……」

「ど、どうした?具合悪くなったか?」

「ち、違うの……と、と、と、」

「おっとっと?お菓子か?」

「違くて……冬馬君の裸を思い出しちゃって……はぅ……」

「え……?あ、ああ……そういやそんなこともあったな」

「綺麗だったの……」

「そうか?なら、鍛えてる甲斐があったな。綾の身体も……」

 だ、ダメだ……思い出したら、色々おかしくなる……。

「わ、私の身体……変じゃなかった……?」

「……今まで見た全ての中で、1番綺麗だったよ」

「そ、そうなんだ……えへへー、嬉しい……」

 これは……長居はしないほうがいいな……色々な意味で。

「ほら、これ食べなさい」

「わぁー、お粥だー。と、冬馬君が食べさせてください……」

 熱があった所為か、口調が子供っぽくなっているな……。

「……仕方ないか。ほら、あーん」

「あーん……おいひいです……」

「作ったのは玲奈さんだけどな」

「冬馬君の愛が入っています……」

「いや……まあ、そりゃな……」

「ふふ……冬馬君が照れてます……たまには熱も悪くないね……?」

「おい?ったく……じゃあ、帰るわな」

「むぅ~やです……」 

「やですって……やれやれ……どうしたら良いですかね?お姫様?」

 どうやら、童心にかえっているようだ。
 ここは付き合ってあげよう……俺の我慢が効く限り……。

「うむ!優しいキスを要求します!」

「……畏まりました……では、失礼します」

 触れるか触れないかくらいで、優しくキスをする……。

「んっ……」

「……いかがですか?綾お嬢様」

「は、はぃ……よろしいです……はぅ……」

「おい?自分で振っといて、恥ずかしがるなよ……」

「だ、だってぇぇ……カッコいいんだもん……」

「ったく……ほかに何かあるか?」

「……あのね……風邪が治ったら、デートして欲しいの。お話というか、悩み相談というか……」

「うん?歯切れが悪いな?」

「ちょっと……いまいち確信が持てないと言いますか……よくわかんなくて……えっと……」

「おいおい、考えすぎるなよ。まだ、風邪をひいているんだから。いいよ、俺はなんでも聞くから。例え、それがどんなことでもな」

「冬馬君……ありがとぅ……えへへ~、やっぱり冬馬君は優しいのです……好き」

 今度は不意打ち気味に、熱いキスをする。

「んっ——!あっ——」

「……さて、俺は帰るとする。お大事にな?」

「ね、熱が……出ちゃうよぉ……」

 俺は振り返ることなく部屋を出て、一階に降りていく。

「あら?もう終わったかしら?」
 
「……してませんよ?」

「ふふ……紳士ね……」

「さあ、どうでしょうね?いつまで保つか……」

「あらあら……」

「それでは、お邪魔しました」

「ええ、ありがとね」

 外の空気を、思いっきり吸い込む……!

 クールダウンしないと、色々おかしくなりそうだったからな……。

 ……しかし、悩みね……。

 まあ、何にせよ……俺のやるべきことは決まっている。

 大切な人のために、全力を尽くすだけだ。

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