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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は驚く

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 綾との電話を終えた俺は、仕込みなどを手伝いつつ、夕方を迎える。

 すると、裏口から若い女性の声がする。

「おっ、例の新人さんが来たのかな?」

「冬馬君!ちょっと来てー!」

「冬馬、店長が呼んでる。後は大丈夫だから、休憩も兼ねて奥に下がるといい」

「はい、わかりました。では、休憩もらいます」



 裏にいる女性を見て……俺は思った。
 あれ?どこかで見たことあるような……?
 そこには茶髪のゆるふわ系女性がいた。
 特別美人というわけではないが、可愛らしい容姿をしている。

「田中さん、この子は吉野冬馬君。若いけど、しっかりしてて頼りになるから、困ったことあったら何でも聞いてね」

「初めまして、吉野冬馬と申します。よろしくお願いします。店長、それは丸投げすぎでは?俺、ただのバイトなんですけど?」

「ハハ……だって、頼りになるから……あれ?田中さん?どうしたの?固まって……もしかして、若い男の子が苦手だった……?」

「あ、あ、あっ——!!貴方は!?」

「はい?」

「冬馬君、知り合い?」

「いえ……」

「吉野君よね!?私、啓介の姉よ!」

「啓介……?姉……?……あっ——この間、会った……?」

「うちに遊びに来てくれたわよね!?」

 ……道理で見たことあるような気がしたわけだ。
 この人は、啓介……同じクラスの田中啓介のお姉さんだ。

「はい、その節はどうも……」

 しまった……言葉に詰まる……どう接するのが正解なんだ?
 俺、一応先輩……相手年上……友達のお姉さん……知り合いかと言われると……。
 情報が多い……はて、どうしたものか……。

「えーと……知り合いってことかな?」

「……難しいですね。とりあえず、会ったことはあります」

「ご、ごめんなさいね!勝手に盛り上がっちゃって……啓介から、よく話を聞いていたから、うちの家族では有名なのよ」

 おい?啓介?何を話している?
 これは学校で問いただす必要があるな……。

「そうなんですか……店長、とりあえず知り合いって事で。高校の同級生のお姉さんです」

「あっ、なるほど……それは難しいね。でも、知らないよりは良いよね」

「……まあ、そうですね。えっと……なんとお呼びすればいいですか?」

「田中恵美っていうから……」

「じゃあ、恵美ちゃんでいいかな?田中さんじゃ、他にもいるしね」

「はい、それでお願いします」

「では、俺は恵美さんですね」

「えっと……お話では、吉野君が先輩で教育係って……一生懸命に頑張るので、ご指導よろしくお願いします」

 ……きちんとお辞儀をして、歳下の俺に頭を下げるか……。
 なるほど……良美さんが気にいるわけだ。
 もちろん、俺的にも。

「はい、こちらこそ。ただ、タメ口でいいですから。友達のお姉さんに敬語で話されると、中々反応に困りますので……」

「で、でも……先輩ですよね?」

「恵美ちゃん、うちは従業員の間は割とフランクだから。もちろん、だからといって偉ぶったりしたらダメだよ?」

「そうそう、店長がコレですからね」

「冬馬君……ひどい……」

「冗談ですよ。俺は店長好きだし、頼りにしてますから」

「ほんと!?やったね!」

「ふふ……良かった、楽しそうな場所で。それに、良い人ばかりで」



 その後、緊張が解けた恵美さんを連れて厨房に入る。

「えっと……友野さんは?」

「今日で2回目なので、挨拶はしてあります……敬語になっちゃうわね」

「ハハ……じゃあ、無理はしなくて良いですよ」

「そうしますね。友野さん、おはようございます」

「ああ、おはよう。よろしく」

 相変わらず、初対面に近い人には寡黙だよなぁ。
 まあ、それがかっこよくもあるんだけど。



 その後、お客様が来店するので、オーダーを受けてもらう。
 もちろん、俺が後ろで見ている。

「うちは食券制じゃないので、紙にラーメンの種類を書いて、その横に硬さや味の濃さなどを記入してください」

「は、はい……」

「慌てなくて大丈夫ですよ。大事なのは、ミスをしない事です。多少遅かったり、手間取る
 ことは仕方がないことですから。慣れるまでは、慎重に慌てずに」

「はい!ありがとうございます!啓介の言う通りですね……しっかりしてる……」

「いえいえ、至って平凡な高校生ですよ」

「それは……ギャグなのですか?」

「俺は本気なんですけど……なぜか、皆がそういう反応するんですよねー。あと、今は指導してますから話していますが、基本的にお客様いるときは雑談みたいのは禁止です。言われましたか?」

「はい、もちろんです。それがバイトに選んだ理由ですから。食べ行って、従業員の方々がゲラゲラ笑ってるのとかが、好きじゃないので……」

「なるほど……気持ちはわかります。では、大丈夫ですね。じゃあ、どんどん注文を取ってもらいましょう」

「ス、スパルタね……でも、頑張らなきゃ……」



 その後二時間が経過して、研修生なので終了となる。

「お疲れ様でした!これからよろしくお願いします!」

「お疲れ様です。とても丁寧で、よい接客だったと思います。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

「は、はい!ありがとうございます!」

 そう言い、恵美さんは帰っていった。

「冬馬君、どう?」

「冬馬、どうだ?」

「まあ、あれならすぐに使い物になるかと……それより……二人とも、俺に任せすぎじゃないですか?」

「ハハ……だって、若い子入るのは久しぶりだから……」

「俺は……そもそも怖がられるから、黙っていただけだ。適材適所ってやつだな」

「ハァ……良いですけどね。ただ、少しは頼みますよ?」

「はい!」

「善処する……」



 その後、バイトに戻ると……。
 予想外の客がやってきた。

「……綾、何をしているんだ?」

「え、えへへ……き、きちゃった……」

 そこには、気まずそうな表情をした綾がいた……。

 しかも……バッチリメイクに、可愛いらしい格好で……。
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