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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は電話する

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 その後、午前中のバイトを無事にこなす。

「ホッ……良かった。久々で身体が動くか心配だったけど……」

「最初は少しぎこちなかったが……まあ、すぐに元通りになったぞ?さすがに、1ヶ月も休んだのは初めてだもんな?」

「ですね……そういえば、一年半働いてるんだよなぁ……色々あったなぁ……」

「クク……最初は怒号が飛び交ってだもんな?良美さんがしごいていたからな」

「いや、友野さんだって怖かったですよ!ダメだ、そうじゃない、やり直し……思い出したくないですね」

「それもこれも、お前が見込みがあったからだな。だから、つい厳しくしてしまった……悪かったな。今、考えると……アレはダメだな。辞められても文句が言えん」

「まあ、自分で言うのもなんですが……よく辞めなかったですよ。辞めたら負けたみたいで嫌だったんですよね」

「それはわかる。俺もそうだった。入社当初は、良美さんにボロクソ言われてたからな」

「え?そうなんですか?」

「ああ、それはもう……うん、俺も思い出したくない……」

「ハハ……店長とは正反対の人ですもんね。だからこそ、上手くいっているんだと思いますけど……」

「そうだな……おっと、そうだ。今のうちに電話しておけ。夕方から新人さんもくるしな」

「あっ——、そうだった。では、いってきます」


  
 店が準備中のうちに電話しなきゃだもんな。
 俺は店の裏口に出て、電話をかける。

「あっ、もしもし?良美さん?」

『冬馬!悪かった!アタシがあいつに○出しを許可しちまったから!』

「あの~やめてくれませんかね?そういう生々しい表現は……」

「あぁ!?オメーも彼女できたんだろ!?そんくらいして』

「してませんから!そもそも……ああ!話が進まない!」

『なんだ?まだ童貞なのか?』

「……もう切りますね」

『悪かった、悪かったよ。で、どうしたんだい?』

「良美さん、しばらく仕事はしないでください」

『でもよ……そうすると人手が……』

「出来るだけ、俺が出ますから。それに新人さんも何人か増えたみたいですし」

『だか、オメーだって……文化祭や、彼女ができたりして、青春してるのに……』

「大丈夫ですよ。十分楽しんでますし、無理はしないですから」

『いや、でもなぁ……』

「良美さん……母親とは子供にとっては大事な存在です」

『お前にそれを言われちまうとな……』

「それに、もう40歳ですよね?無理して母体に何かあったらどうするんですか?」

『ぐっ——!痛いところを……ババア扱いされた……』

「そんなことは言ってませんし、思ってません。今は身体のことを1番に考えてください。俺は……お子さんたちに、同じ悲しみを味合わせたくないです」

『冬馬……そうだな……何かあってからじゃ遅いか……でも、まだ新人の教育できてないんだよなぁ……』

「ええ、そうです。俺では頼りになりませんか?」

『いや……お前には相当叩きこんだ。アタシが一から十まで……すまないね、任せてもいいかい?』

「ええ、もちろんです。友野さんもいますし、店長もいますから」

「友野はともかく……あのヤローはなぁ……まあ、いいや。じゃあ、よろしくな』

「はい、では失礼します」



 電話を終えて、店長に報告をする。

「そっかぁ!良かったぁ!冬馬君!ありがとう!」

「店長、大袈裟ですよ」

「ううん!そんなことはないよ!信頼している君だから、良美も安心したんだと思う」

「そうなら……まあ、嬉しいですね。しごかれた甲斐があるってものです」

「ウンウン、これで店長も一安心です。あとは、冬馬君に新人さんの教育をしてもらえれば……それで使えるようになれば、冬馬君にお休みあげられるしね」

「ところで、今更ですけど……俺がやった方がいいんですか?」

「うん、年も近いし。相手は女の子だしたさ。ほら、このご時世じゃない?」

「……まあ、セクハラやパワハラとか言われたらお終いですよね」

「そうなんだよー。冬馬君は紳士だし、相手より歳下だから平気かなと思って」

「歳上……大学生とかですか?」

「うん、2年生って言ってたかな?」

「へぇー、ラーメン屋に珍しいですね。今時の子ならカフェとか……」

「確かに、そうだよねー。でも、見た目は今時だけど、中身はいい子だがら安心して良いよ。良美のお墨付きだし」

「なら安心です。では、俺が指導してみますね」



 その後、少し遅い昼食を食べ終えると……。
 ポケットの中のスマホが振動する……どうやら綾から電話のようだ。
 再び裏口に出て、電話に出る。

「もしもし?どうした?」

『もしもし?冬馬君、今平気かな?確か、準備中の時間だったよね……?』

「ああ、平気だ。今日はごめんな」

『ううん!それは良いの!……そういう冬馬君を好きになったんだもん……』

「クク……可愛いやつだ。俺は良い彼女を持って幸せ者だな」

『あぅぅ……電話越しだとまた違う……低い声が……わ、私も幸せなのです……』

「ああ、よく言われるな。何かリクエストがあるなら言おうか?」

『……腰が抜けちゃうからやめときます……でも、うぅー……迷うよぉ~』

「じゃあ、聴きたくなったらいつでも言ってくれ」

『う、うん!何がいいかな?……あっ——じゃなくて、平気だったの?』

「うん?ああ、そういうことか」

 一通りの事情を説明すると……。

『……むぅ……』

「あの~、綾さん?」

『女の子……大学生……今時……と、冬馬君が……』

「おいおい、俺の気持ちを疑うのか?俺はお前以外に眼中はない。お前が好きだからな」

『……こ、腰が……ち、違うの!疑ってるんじゃなくて……その女の子が、冬馬君を好きになっちゃて……それで、仲良くバイトとかしちゃったりして……』

「おい、どんな妄想だよ。俺はアキじゃないんだから。そんなにモテるわけがないだろうに」

『むぅ……私の彼氏さんは自覚がなくて困ります……冬馬君は格好いいもん……モテモテになっちゃうもん……』

「もしもーし?」

『私も頑張らないと……!冬馬君の1番でいるために……!大好きだもん……負けないもん……!』

「おーい?」

『そのためには……何をすれば良いんだろう……?』

 ……ダメだ、こりゃ。
 完全に自分の世界に入ってる……。
 しかし……可愛いなぁ……。
 さて……低い声か……どれどれ。

「……綾、愛してる」

『ぴゃい!?』

 ……なんか、聞いたことない声が聞こえたな。

「愛してるといった……だから安心して良い。わかったな?」

『……は、はぃ……あぅぅ……』

「じゃあ、またな。まだ、やることあるからな」

『は、はい、ごめんなさい……う、嬉しかったです……』

「こっちも、可愛い彼女からの電話は嬉しかったよ。これで、頑張れそうだ」

『が、頑張ってね……もぅ……私はダメです……じゃ、じゃあね!』

 ボフン!という音の後に、電話が切れる……。

 はて?なんの音だったんだろうか?


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