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冬馬君は平和な日々を取り戻し……

冬馬君は奮闘する

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 さて……ところで、弥生さんはどこに……?

「冬馬君、こんにちは」

 本屋の看板の陰から、弥生さんが出てきた。

「あっ、そこで見ていたんですね。弥生さん、こんにちは」

 すると……真兄が駆け寄ってくる。

「貴女が弥生さんですね?写真で見るよりも数倍お綺麗ですね。初めまして、私《わたくし》の名前は名倉真司と申します」

 ……はて?今喋っているのは誰だろう?

「フフ……父がごめんなさいね?」

「声まで素敵だ……!いえ、お気になさらないください。聞くところによると、苗字は矢倉さんというとか。私の苗字は名倉……これなら、苗字が変わっても問題ないですね!」

「え、えっと……」

「真兄!落ち着け!善二さんも!」

 俺は、真兄を殴りに行きそうになっている善二さんを抑え込んでいる……!

「ぬぬっ!冬馬!成長したな……!重心がしっかりしている……!」

「こちとら、インターハイ準優勝の奴と遊んでいるのでね……って違うよ!こんなことしてる場合じゃ……!綾!出番だ!アレを出して、黒野に渡せ!」

「え……?良いのかな……?」

「そういうことね……綾、私にやらせなさい」

 黒野は綾からあるものを受け取り、真兄に近づき……それで頭を叩いた!
 辺り一帯にスパン!!という音が鳴り響く!

「いた……くない?おい?加奈、なにをする?」

「兄さんが恥ずかしいことしてるからじゃない!もう!何か変なこと言ったらハリセンで叩きます!」

「フフフ……妹さんなのね?今日は、よろしくお願いします」

「す!すみません!うちの馬鹿兄が………」

「おい?ひどくね?」

「なるほど……妹もいるなら安心か……冬馬、弥生を頼んだぞ?あくまでも、今日だけは許したつもりだ」

「ええ、わかっています。俺を信頼してくれたから、今回の話を受けて頂けたことは。真兄!俺の顔に泥は塗らないんじゃなかったのか!?」

「む……そうだな。いや、すまん。つい、嬉しくてな………」

「フフ……面白い方ね」

 ハァ……もう疲れてしまった……。
 え……?まだまだこれからなんですけど?



 その後、一先ず駐車場に到着する。

「私はどこに座ろうかしら?」

「是非、助手席にお座りください」

「いや、ダメだ。黒野、お前が助手席に座ってくれ」

 真兄は——この世の終わりのような表情をした。
 そして、俺を他所に引っ張っていく……。

「と、冬馬!なぜだ!?俺がどんなに楽しみに……!」

「わかっているよ、それは。でも、だからこそだよ」

「……どういう意味だ?」

「隣に弥生さんを乗せて、運転に集中できる?」

「うっ——そ、それは……」
 
「まずは、少しずつだよ。大事なお嬢さんを連れて行くんだから。今日の真兄の行動次第で、色々変わってくるよ?家に帰ったら、弥生さんがお父さんに話すだろうし」

「……ガキンチョのくせに生意気な……だが、お前の言う通りだな……ありがとよ」

「全く……世話の焼ける兄貴分だよ。それに、黒野を乗せた方がいいよ」

「なんでだ?お前じゃダメなのか?」

「あのね……妹は、今日を楽しみにしてたでしょ?」

「……いかんな、すっかり頭からなかった……」

「いや、気持ちはわかるけど。俺もそうだったし……でも、兄弟の仲が良いのは弥生さん的にポイント高いと思うけどなー」

 その言葉が言い終わる前に、真兄が車に戻って行く。

「加奈——!助手席に乗れ——!妹と兄の仲を深めるぞ——!」

「な、なにを言ってるの!?」

「なに照れてんだ、ほら、乗れ乗れ」

「わ、わかったわよ……」

「フフ……仲良しで良いわね」

 ……フゥ、これで黒野の願いも果たせるだろう。

「ふふ……冬馬君、お疲れ様」

「綾……失礼」

 俺は綾を抱きしめる……。
 うわー。
 相変わらず、良い匂いするわー。
 マイナスイオンたっぷりだわー。  
  
「ひゃっ!?」

「あぁ……癒される……ありがとな、綾。よし!頑張るか!」

「あぅぅ……びっ、びっくりしたぁ……」

「ねえ?やっぱり、アタシ帰って良いかな~?」

 森川を説得しつつ、なんとか全員が車に乗り込む。

 運転は真兄、助手席に黒野。
 真ん中に、俺と弥生さん。
 後ろに、綾と森川という形に落ち着いた。

「よし……行き先は、○○○動物園だったな……」

「兄さん、私がやるわ」

「おっ、そうか。悪いな」

「しっかり者の妹さんね」

「ええ、そうですね」

「……冬馬君、今回はありがとね」

「はい?」

「まだ、どうなるかわからないけれど……こういうこと自体が、中々ないものだから。うちも少し特殊だから……父が貴方のこと気に入ってるから、今回は実現したんだわ」

「あぁー……まあ、親父さんが溺愛してますからね」

「それもあるけれど……私も父も、互いに依存してるところがあるから……」

「……それは……?」

……詳しくは知らないが、弥生さんと善二さんから母親の話を聞いたことがないんだよな。
なんとなく聞いちゃいけない空気というか……。
もしかしたら……俺と同じか、もしくは……真兄と一緒なのかもな……。

「フフ……ごめんなさいね、なんでもないのよ。冬馬君はしっかりしてるから、つい話したくなっちゃうわね」

「むぅ……」

「綾、落ち着いて!」

「わ、わかってるもん!」

「冬馬!ずるいぞ!」
 
「兄さん!運転に集中して!」

 ……カオスだな。

 あれ?本番は、まだこれからなんだけど?

 ……長い一日になりそうだ。
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