上 下
111 / 185
冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は平常運転

しおりを挟む
 金曜日が終わり、土曜日がやってきた。

 いよいよ……真兄と弥生さんを引き合わせる日を迎えた。

 同時に黒野の念願であった、真兄とのお出掛けでもある。

 正直言って、弥生さんがいると色々な意味でも助かる。

 これで、誰かに見つかっても問題がなくなった。

 どう見ても真兄のお相手は女子高生ではなく、弥生さんに見えるだろうからな。

 年上が1人でないことでも、良いカモフラージュになる。



 お昼ご飯を4人で食べて、俺たちは駅前にて真兄を待っていた。

「さて……そろそろ来る頃かな」

「アタシまで良かったのかな~?」

「愛子がいた方が加奈もリラックス出来るよね!?」

「……うん。愛子、来てくれてありがとう」

「加奈……えへへ、照れるし……まあ、先生が奢ってくれるって言うし……」

「ウンウン、素直でよろしい。冬馬君、今日はどんな予定なの?昨日の夜に考えるって言ってたけど……」

「まずは、真兄には親父さんと闘ってもらう。それが成功したなら、動物園に行く予定だ」

「そ、それもあったね……あっ——だから、歩きやすい格好って言われたんだ」

「おう、よく似合ってるぞ?可愛いくて抱きしめたいくらいだ」

 今日の綾は動きやすい服装だ。
 上半身は、寒くなってきたので白のモコモコセーターを着ている。
 萌え袖になっているのがたまらない……!
 下半身には、長い脚に青のジーンズがよく似合っている。
 赤のスニーカーとの色合いも良い。
 髪型もサイドテールで新鮮に感じる。


「あ、ありがとぅ……と、冬馬君もかっこいいです……」

「俺はいつも通りだけど?」

 黒のパンツに、青のスニーカー。
 上は長袖シャツにインナーを着て、ジャケットを羽織っているだけだ。

「い、いつもかっこいいのです……」

「ねえ?アタシ達いるの知ってる~?」

「無駄よ、愛子」

「あっ——はぅぅ……み、見られちゃった……」

「つい、いつものが出てしまったな。これも綾が可愛すぎるからだ」

 ……いかんいかん、自重しなくては。
 今日の主役は、真兄と弥生さんに黒野なんだからな。

「あぅぅ……で、でも……なんで動物園なの?」

「以前弥生さんと話してて、動物が好きだって聞いたことがあってな。ただ、親父さんがアレルギー持ちらしいし、2人暮らしだから飼えないそうだ。動物園なら話題にも困らないし、歩きながら話せるし良いかなと思ってな」

「あっ——なるほど……確かにそうかも」

「後……綾も好きだろ?」

「え……?い、言ったことあった……?」

「いや、ないな。ただ、動物園のニュースとか流れると食い入るように見てたからさ」

「むぅ~……気づかれてたのです……」

「何故言わなかった?」

「だ、だって……子供っぽくないかな……?高校生にもなって……」

「そんなことないさ。確かに家族連れや、大人の恋人が行くイメージはあるが……全く、相変わらず遠慮しがちだな?」

「ご、ごめんなさい……」

「いいさ、それも含めて綾の良いところだ。俺が察すれば良いだけの話だ。今回楽しければ、今度は2人でくればいい」

「冬馬君……えへへ~、ステキな彼氏さんを持って、私は幸せです……」

「ねえ?アタシ帰って良い?」

「待って愛子。私を1人にしないでちょうだい。ねえ?恥ずかしくない?」

「ふっ……綾の可愛さの前には羞恥心など皆無だ。なにせ俺の天使だから」

「て、天使……!」

「綾、貴女……ついに天使になったわよ?」

「じゃ、じゃあ……冬馬君は……魔王?いや、それだと敵対しちゃう……わ、私を守るナイト様……?うん!これだね!」

「あっ——、こっちもダメっぽい」

「まさしくバカップルね……ここまでくると清々しい気分になるわね」

 そのまま五分ほどすると……どうやら、来たようだ。
 ……赤のライダージャケット。
 黒のパンツに赤のスニーカー。
 うん……オラオラ系しか見えないね。

「冬馬!!敵はどこだ!?姫はどこだ!?」
 
「落ち着けっての!敵でもないし姫でもないから!」

「兄さん……これは、私がしっかりする必要があるわね」

「アタシは静観してるね~」

「ハハ……先生、よっぽど嬉しいんだろうなぁ……」



 テンションがおかしい真兄を連れて、矢倉書店に到着する。

 店の前には……クマがいた……いや、善二さんがいた。

「冬馬、来たか……その男がそうか?」

「ええ、こちらは名倉真司さんです。俺の兄貴分にして、担任の先生でもある人です。とても男気のある方で、俺の目標である漢の1人です」

「冬馬……へっ、嬉しいこと言ってくれるぜ」

「お前がそこまで言うならば、良い漢なのであろうな。だか、それとこれとは話は別だ。たったひとりの娘を連れて行こうする輩は……許さん……!」

 親父さんから勢いよく拳が放たれる!

「グハァ!?」

 真兄は腹にまともに喰らい、アスファルトを転がっていく!

「兄さん!?」

「おい!?真兄!?」

「え?2メートルくらい飛んだよね?」

「ア、アタシも見た……」

「む?どうして避けない?防御もしなかった……冬馬の話では、相当な喧嘩慣れをしていると聞いていたが……」

 真兄が足を震わせながらも立ち上がる……!

「へっ……大事な娘さんをデートに誘うんだ……この一発は受けると、最初から決めていた……クッ!……しかし、重い拳だ……今まで1番かもしれん……きっとそれだけ大事にしてきたということか……」

「なるほど……俺の負けだな。冬馬の言う通りの良い漢だ。だが、お主の拳はまだ受けていない。拳には魂が宿る。そのものがどのように生きてきたかがわかる。さあ……来い!」

「へっ!後悔するなよ!!ウォォォ——!!」

 真兄の助走をつけた拳が、善二さんの腹に直撃する!

「ふむ……中々の拳だ……気持ちの入った……まだ、若い者にもいるのだな」

 喰らいはしたが、一歩たりとも微動だにしない……!

「ハァ?マジか……効いてない……!」

「う、嘘だろ……?ヤクザすら沈める真兄のパンチをまともに喰らって……?」

「ふっ……まだまだだな。だが、許可する」

「……ありがとうございます!」

「……アタシは何を見せられてるのかな~?」

「奇遇ね……私も今、そう思ったところよ……」
 
「ハハ……私は大分慣れてきちゃったかも……こういう感じに……」

「俺にはよくある光景だけど……まあ、普通はそうかもな。どこの熱血漫画だって話だな」

 ……フゥ、どうやら1番の関門は突破したな。

 あとは……お2人次第ってところだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。 父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です *進行速度遅めですがご了承ください *この作品はカクヨムでも投稿しております

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

【完結】俺を振った元カノがしつこく絡んでくる。

エース皇命
青春
〈未練たらたらな元カノ×エロ教師×超絶ブラコン姉さん〉  高校1年生の山吹秋空(やまぶき あきら)は、日曜日のデート後に彼女である長谷部千冬(はせべ ちふゆ)に別れを切り出される。  同棲してくれるなら別れないであげる、という強烈な条件に愛想を尽かし別れることを了承した秋空だったが、それからというもの、千冬のしつこい絡みが始まることになる……。  頭のおかしい美人教師と、秋空を溺愛する姉、秋空が千冬と別れたことで秋空を狙うクラスメイトの美少女たち。  クセの強い友達に囲まれる、秋空の苦悩に満ちた学校生活! ※小説家になろうにも投稿しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...