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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は彼女に驚かされる

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 ……流石の俺も……疲れた……。

「ゼェ、ゼェ……」

「ご、ごめんね!つい、楽しくて……」

「い、いや……気にするな。綾が楽しいならそれで良い……」

 結局、綾の気がすむまで走り続けた結果……グロッキーになったわけだ。
 なんと情けない……明日から走る量を増やさなくては。

「わ、私、飲み物取ってくるね!」

 ベンチから立とうとするのを、直接的に引き止める。

「待て、行くな。俺の側にいろ」

「は、はぃ……こ、腰が……はぅぅ……」

 ……意図してないところで、照れさせてしまったようだ。
 ……まあ、可愛いから結果オーライだな。

「さっきの状態を見て、大事なお前を1人にさせられるか」

「あぅぅ……はぃ……」

「ほら、寄りかかってくれ。それで元気百倍だ」

「そ、そうなの……?う、うん……」

 しばしの間、沈黙が続く……。
 だが、不思議と心地よい時間でもある。
 きっと、そう思える相手は稀有だろう。



 五分ほど経っただろうか?

「えへへ、なんか良いね」

「そうだな、これはこれで幸せだな」

「……こんな幸せで良いのかな……?たまに怖くなるの……」

「さあな?それはわからんが……まあ、それには同意するな」

「え……?冬馬君も……?」
 
「そりゃあな、そういうこともあるさ。綾にフラれたら、俺は生きていけんのとか考えるとな。まあ、基本的には考えないようにしてるけどな」

「そ、そんなことないもん!絶対ない!!」

「わ、わかった、わかったから、落ち着けって……」

「むぅ……ないもん、もん……」

「絶対とかはないものだ。俺は、それをよく知っている」

「……お母さんのこと……?」

「ああ、人生とはわからないものだ。もちろん、俺はこの先も綾といたいと思う」

「私も!冬馬君のこと好きだもん!」

「ありがとな……綾が俺を大事に想ってくれるように、俺も綾を大事にするつもりだ。多分、それさえ忘れなければ……まあ、まだまだガキだし。とりあえず、先のことは考えずに楽しくやろうぜ?」

「うん……なんとなくわかるよ。お互いに理解しあって、押し付けとかにならないようにってことだよね?」

「まあ、そういうことかもな。俺も上手くは言えないが……」

「ううん……でも、そうだね。フラれるとか別れるとか考えるのは勿体ないね!」

「そういうことだっ……と、では行くか」

「うん!」

「次はなにがしたい?」

「ビリヤードとかもあるみたいだよ?」

「へぇ?そんなものまであるのか。では、やってみるか?」

「うん!」
 



 ビリヤードの台がある場所に到着する。

「うわぁ……!お、大人って感じ……!」

「いや、高校生もいるから。まあ、確かに大学生の方が多いかもな」

 セーラー服姿の超絶美少女である綾に、男共の視線が釘付けになる。
 ……気にくわないな。
 年上だろうがなんだろうが、人の彼女をジロジロみるんじゃねぇ……!
 人睨みをすると、皆が視線を逸らした。

「あれ?冬馬君……何かした……?いつものアレがなくなった……?」

「いんや、なにも。ただ……俺の女だと知ってもらっただけだ」

「は、はぃ……あ、貴方のモノです」

「おい?顔を押さえて恥ずかしがるなら言わなきゃいいだろうに……まあ、可愛いから良いけどな」



 2人でキューを選び、まずは綾に構えてもらうが……。

「綾、ダメだ」

「え?へ、変だったかな……?」

「いや、そこじゃない。ボウリングの時と同じ状況になってる」

 キューを構える仕草というのは、お尻を突き出し前かがみになる。
 脚線美が眩しく……まあ、エロいということだ。
 一度散らした男共の視線が集まるほどに……。

「あっ——ど、どうしよう?」

「上に着てるセーターを腰に巻けばいい。ここは寒くないだろ?」

「あっ、そうだね……よいしょっと……これで良いかな?」

「ああ、超絶的に可愛い」

「ふえっ?えぇ——!?」

 ……女子にはわかるまい。
 セーターとか腰に巻くと、なんか可愛く見えないか?



 気を取り直して、再びポーズをとる。

「こうかな?」

「失礼」

 後ろから抱きしめるように、綾の両腕を修正する。

「にゃあ!?」

「なんだ、にゃあって……猫か」

「だ、だって……はぅぅ……」

「い、いや、顔真っ赤にされると俺の方も……」

「そ、そうだよね!そういうアレじゃないもんね!ごめんなさい!」

「いや、やらしい気持ちがなかったといえば……嘘になる」

「もぅ……正直者なんだから……」



 周りからの嫉妬の視線を感じつつ、綾にやり方を教えていく。

 その結果……やはり、基本的なスペックは高いようだ。

「えいっ!」

 今やっているのはナインボールだ。
 一から順に落としていき、過程は関係なく最後に九を落とした者が勝つというものだ。

「おっ、上手いな。最初のショットも良かったし」

「ふふ~ん、私だってやればできるもん!」

「ポンコツ返上だな?」

「ポ、ポンコツじゃないもん!冬馬君の前だけだもん!」

「それは嬉しいことだな。俺だけの可愛いらしい綾ってことだ」

「はぅ……ま、負けました……」

「いや、まだボールあるからな?」

「私はキュン死しました……」

「おーい?綾さんやー?」


 
 その後も色々とゲームをしていく。

 そしてひとしきり遊んだ後、帰り支度を済ませたのだが……。

 なにやら、綾がソワソワしだした。

「どうした?」

「そ、そろそろ時間だね……」

「ああ、そうだな。テニスとかもしたかったんだよな?」

「う、うん……」

「遠慮はいらない。また来ような?」

「冬馬君…ありがとう……で、でもそうじゃなくて……」

「ん?要領を得ないな……なんでもいうと良い」

 すると、綾が鞄から何かを取り出した。

「あ、あの!これ!受け取ってください!」

「はい?え?な、なんだ?」

 なにやら、包装された品物?を突き出している……。
 あれ?俺誕生日でもないよな?
 綾は俺の生徒手帳見たから知ってるはずだし……。

 ……とりあえず、受け取ってみる。

「あ、開けてみて?」

「あ、ああ……これは……財布……しかも……」

 この間、綾とデパート行った際に気になったやつだ。
 二万円するから諦めだのだが……。

「うん、この間良いって言ってたから……初めてのバイト代入ったら、冬馬君に何か買うって決めてたの」

「おい、そんな大事なお金……」

「だからだよ?冬馬君は私に色々してくれてるもん。面倒とか、嫌だなとか一言も言わないで……だから、遠慮なく受け取ってください。だって……遠慮しちゃいけないんでしょ?」

「これは1本取られたな……あれか、リサーチされてたのか」

「えへへ~、実はそうなのです。だから小物屋さん行きたいって言ったんだ~」

「全然気づかなかったな……いつ買ったんだ?」

「弥生さんに、名倉先生の写真を見せに行った時かな」

「なるほど……ついでの用事はコレか……いやはや……驚きだ」

「えへへ~、サプライズ大成功だね!」

 ……財布はもちろん嬉しい。
 ……だが、それ以上にその気持ちが嬉しい。

「綾、ありがとう。大事に使わせてもらうな」

「うん!それが一番嬉しい!」

 ……俺は、良い彼女を持ったな……。
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