静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は彼女を困らせられない

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 翌日の電車の中、俺に新たな課題がなされた。

「そうか……うん、わかったよ。これを考えるのは俺の役目だろうな」

 綾は、昨日の帰りに矢倉書店に行ってきたらしい。
 他にも用事があったから、そのついでだそうだが。
 その際に写真を見せたところ、弥生さんの方もまんざらでもなさそうだったらしい。
 さらには、なんと親父さんから許可が出たそうだ。
 なんでも、俺の紹介する男なら少なくとも良い男だろうと。
 なんていうか、すげー嬉しい。
 ただ、条件がある……デートには俺がついていくこと。
 というわけで、色々と考えなくてはいけないわけだ。



「なんか、嬉しいね。こうして色々な人が繋がっていくの。もちろん、どうなるかはわからないけど……」

「まあ、そうだよな。まあ、楽しいことではあるんだが……その反面忙しくなるから、綾成分が足りなくなるところだがな?」

「ふえっ?えーっとですね……わ、私もです……」

「よし。じゃあ、今日はどっか行くとするか」

「うん!えへへ~、丁度良かったぁ」

「うん?何がだ?」

「ううん!デート楽しみ!」

「そ、そうか……俺もだよ」

 相変わらず真っ直ぐな子だから、嬉しい反面困ることもあるなぁ。
 主に俺の心臓的に……この高まりが止むことはあるのだろうか?



 教室の席に着くと、啓介が声をかけてきた。

「冬馬君!おはよう!」

「おはよう、啓介。昨日はありがとな」

「いや!こっちの台詞だよ!もう母さんも姉さんも喜んじゃって……帰ってきたお父さんが、また連れてきなさいって言うくらいに」

「そうか、それから良かった。じゃあ、また語り合うとするか」

「うん!いいね!」

「……お姉さん?田中君、お姉さんいるの?可愛い?綺麗?」

「あの~、綾さん?」

「冬馬君は黙ってて!大事なとこなの!」

「は、はぃ……」

 ヤベェ……目の色が変わったかのようだ。

「い、いや、清水さんなんかとは比べ物にならないよ!清水さんの方が可愛いよ!」

「そこは大事じゃないの!お姉さんの反応は!?」

「え?えっ~と……」

「綾、あのなぁ……」

「むぅ~!」

「わかった、わかった。黙ってるよ」

「別に普通だったと思うよ?好青年だとは言ってたけど……」

「ホッ……そうなんだ。ひとまず、よしとします!」

「あの~、綾さん?一体何事で?」

 とりあえず、膨れるのがめちゃくちゃ可愛から良いけど……。

「だ、だって……この間名倉先生が……と、冬馬君は歳上の女性にもモテるって……そ、それに年上好きだったって……」

「あんにゃろう……綾に何を吹き込んでやがる……」

「ほ、ほんとなの……?」

 ……うん、オロオロしてて可愛い。
 ……少し困らせたい気はするが、それは俺の矜持に反するな。
 もしそうだと言ったら?とか言ってみて、反応を見たいとは思うがな。

「まあ、あの歳であの辺りにいるのが珍しかったんだろう。だから、よく遊んでもらってはいたな。みんなの弟みたいな感じで。俺も長男だったから、歳上に憧れたりはしたかもな」

「あっ——そ、そうなんだ。うん。その気持ちはわかるかも。私も、昔はお兄ちゃん欲しいとか思ってたもん」

「まあ、あるあるだわな。というわけで……啓介、すまなかったな」

「ううん、大丈夫だよ。清水さんは、冬馬君が大好きなんだねー」

「うん!大好きなの!」

 ……啓介、よくやった!
 この言葉が聞ければ……今日はすでに最高の日だ!

「……なあ、ホームルーム始めても良いか?」

 いつの間にか、真兄が横で腕組みをしていた。

「あっ——真司先生」

「ふえっ!?あぅぅ……は、恥ずかしいよぉ~」

 ………まあ、俺は大満足ですけどね。



 そして、昼休みの時間になったのだが……。

「冬馬!?どうなった!?おい!!」

「おっ、落ち着けっての!く、首が締まる……!」

「馬鹿野郎!これが落ち着いていられるか!」

「せ、先生!冬馬君、死んじゃいますよ!」

「おっと……すまんすまん。俺としたことが」

「ケホッ……ったく。また騒がれても面倒だから単刀直入に言うけど、とりあえずデートの許可は下りたよ。たたし、俺が同行すること。あと弥生さんも、俺の紹介なら会ってみるってさ」

「っ——!!そ、そうか……!ウォォォ——!!冬馬!!今日ほどお前がいて良かったと思った日はない!」

「それはそれで、なんだか複雑なんだけど?……まあ、良いけど。真兄には色々と世話にはなってるから。俺に恩返し出来ることがあって良かったよ」

「で!いつだ!俺は今からでもいけるぜ!」

「行けねえよ!学校だよ!」

「アハハ……弥生さんもお仕事ありますし……」

「む?そうもそうか。いつなら都合がいいだろうか?」

「それも聞いてありますよ。直近だと、今週の土曜日なら空けられるみたいです。なんでも、親父さんの都合で定休日だそうなんで」

「土曜日……確か……加奈の奴が……よし!問題なし!」

「あるから!何だ!?今の一言は!?」

「あぁ?いや、加奈が土曜日は暇か?って聞いてきてよ」

「馬鹿なの!?それ急かされるからな!?例の一緒に遊ぶ件だろうに……」

「だ、だが、しかし……グヌヌ!」

「まあ、気持ちはわかるけど。俺も、妹か綾かって言われたら困るところだ」

「う~ん、そんなに困ることないんじゃないかな?加奈も一緒に来れば良いと思うよ?」

「うん?……まあ、真兄に女性の相手がいた方が、よりカモフラージュにはなるか。ただ、兄さんには私がいるわ!とかならないのか?」

「ふふ、加奈はそんなこと言わないよー。むしろ、良い人いないかしら?って言ってたもん」

「じゃあ、問題ないか。ただ、黒野だけ1人余るな……」

「そしたら愛子も呼ぶよ。愛子も知ってるし、仲間外れにしちゃうもん」

「真兄と黒野の関係も知ってるから問題ないと……決まりだな」

「冬馬君……それよりも……先生の様子がおかしいんだけど……」

 真兄を見ると……。

「服装は?タキシードか?花束は?バラか?車は?フェラーリか?クソ!俺の財力じゃ無理がある!借金……?よし!今から金融機関へゴーだ!!公務員の力見せてやるぜ!」

「待て待てーい!普通の格好で良いから!車もワゴン車で十分だから!そして……最後のセリフはシャレになってないから——!!」



 なんとか踏み止まらせることには成功した……。

 ……公務員ほど信用度の高い職種はない。

 それこそ、融資を受けられる額はエゲツない。

 あの勢い……フェラーリとか、本気で買ってきそうだったな……。
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