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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は、初めて友達の家に行く

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 その日の放課後、俺は啓介に提案してみる。

「なあ、啓介」

「どうしたの?冬馬君?」

「今日、暇か?もし時間あるなら遊ばないか?」

「え……?えぇ——!?ぼ、僕と!?」

「ああ、お前とだ」

「あれ?清水さんもいない……運動部は部活だし……もしかして……」

「ああ、2人で遊ばないかと言っている。何か予定あるなら……」

「ないよ!遊ぶよ!」

「お、おう……」

 めちゃくちゃ喜んでるな……まあ、誘った甲斐があるというものだ。



 2人で校門を出て、駅へ向かう。
 そこで驚愕の事実を知る。

「はぁ!?最寄駅一緒なのかよ!?」

「う、うん……実はそうなんだ。何回か見かけたりもしてたんだ」

「何故言わない?声かければいいのに」

「いや、機会がなくて……あと、清水さんと冬馬君が……あれじゃない?だから、邪魔しちゃ悪いからと思って……」

 ……あぁー、そういうことね。
 イチャイチャしてるところは声かけ辛いわな。
 しかも、俺も綾以外目に入ってないし。



 その後電車の中で地元の話になり、中学校は別だが家が近いことが判明した。

「そうか……じゃあ、どうするかね?地元が一緒なら案内はいらないし、遊ぶ場所も限られてるしな……」

 流石に制服のまま、喫茶店アイルにはいけないし。
 なんか雰囲気的にアウトだ。

「お、お願いがあるんだけどいいかな?」

「ん?どうした?」

「ぼ、僕の家に来てくれないかな!?い、嫌なら良いんだけど!」

 なんか、アレだな。
 小百合とかいたら喜びそうなセリフだな。
 もちろん、俺にはその気はないが……ここ重要。

「別にいいが……何をそんなに気合を入れることがある?」

「い、いや……高校に入ってから、家に友達を連れてったことないんだ……中学の友達とは疎遠になっちゃったし。高校にも、別に友達がいないわけじゃないけど……家に呼ぶほど仲が良いかなと聞かれると……それで、親とか姉ちゃんが心配してて……あっ、もちろん、そのためだけじゃなくて……冬馬君と遊びたいからで……えっと」

「わかった、わかった。聞いた俺もアレだが、話が長いしわかりにくい」

「ご、ごめん……」

「謝ることもない、友達なんだろ?なら俺とお前は対等だ。言いたいことがあるならはっきり言えばいい」

「冬馬君……今日、うちに遊びに来ない?」

「おう、良いぜ。お邪魔させてもらうわな。なっ?簡単だろ?」

「ホントだね……もっと早くに、勇気を出して誘えばよかったなぁ」

「おいおい?まだ、2年生だぜ?うちはクラス替えもないし、三年生の時も一緒だ。これから楽しめば良いんだよ。俺も遅れた青春を取り戻してるところだし」

「……そうだね。うん、僕も変わっていかなきゃいけないね……」



 そして啓介の家に到着したのだが……。

 目の前には、大慌てしているお母さんとお姉さんらしき人がいる。

「ただいまー!友達連れてきたよ」

「はじめまして、啓介君のお母さんとお姉さん。僕の名前は吉野冬馬といいます。今日は、急にお邪魔をして申し訳ないです」
 
 「ア、アンタ!?どうしたの!?こんな男前連れてきて!」

「こ、好青年だわ!お、お父さんに電話しなきゃ!」

「やめてよ!2人とも!」

「クク、愛されるな。良いことだ」

「ご、ごめんなさいね!こんな格好で!姉の友恵です。弟がお世話になってます」

 友恵と名乗ったお姉さんは、上下スウェットの状態だった。
 だが一般的に見て、可愛らしい容姿をしている。
 如何にもな、今時の大学生って感じかも。
 茶髪にイヤリングに、軽くパーマをかけてる髪とか。

「ご、ご丁寧にありがとうございます。啓介の母の雅美です。吉野君っていうのよね?本当に啓介なんかと友達なんですか?」

「ちょっと!?お母さん!」

「はい、付き合いは短いですが友達です。少なくとも、俺はそう思っています」

「冬馬君……」

「あらまぁ……!そうですか……うぅぅ……!」

「啓介にこんな好青年の友達が……グスッ……」

「ちょっと!?お母さん!お姉ちゃん!泣かないでよ!」

「啓介、良い家族じゃないか。大事にした方がいいぞ」

「あっ……そういえば、冬馬君は……」

「あれ?俺話したことあったか?」

「いや、その、ごめん……噂で知って……」

「どうしたの?何かあるの?」

「ううん!なんでもないんだ!」

「啓介、気を使う必要はない。啓介のお母さん、僕の母親は他界していまして。だから、家族に愛されてる啓介を見て良かったなと思ったのです。あっ、そこんところは気にしないでくれると助かります」

「……そうなのね。ええ、わかりました」

「うわぁ~、めっちゃ良い子じゃん!しっかりしてるし!」



 その後、啓介の部屋に入るが……。

「ごめん!冬馬君!」

「何を謝る?何かしたのか?」

「でも、辛いこと思い出させたよね?それに……噂のことも……」

「まあ、悲しくないと言えば嘘になるが大丈夫だ。綾のおかげで、立ち直ることはできたしな。今はある程度消化してるというか、気持ちの整理が付いているから。だが、噂か……どんなのだ?」

 もうアレ以降裏サイトは見ていないからなぁ。
 さすがの俺も、気にしてたら精神が病みそうになるし。

「僕も見てたわけじゃないから詳しいことは知らないけど……なんか母親がいないとか、昔ワルだったりとか、清水さんとのこととか……」

「うん、それは噂じゃないな。全部、本当のことだな」

「あっ、そうなんだ。道理で僕を助けてくれた時の気迫が違うと思ってたんだ。でも、それももうなくなったみたいだよ?」

「うん?裏サイトの噂がか?」

「うん、いつの間に消えていったって。だから、多分噂を流した人が特定されたんじゃないかって。で、冬馬君にシメられたんじゃないかって……でも、違うみたいだね」

「ああ……俺は知らないが……そんなことができるやつを1人だけ知っている」

 ……あいつめ、俺に何も言わないで……!
 これは、ますます文化祭を盛り上げる手伝いをする必要があるな。


 その後は、アルザール戦記の話で盛り上がる。

「僕はね、この1巻のこのシーンがね……」

「あぁー、わかるわー。良いよな、そのシーン。やっぱり、物語は王道に限るよなー。仲間と共に困難を乗り越えて大円団みたいな」

「うんうん!わかるよ!ざまぁとか追放とかも嫌いじゃないけど、やっぱり王道が良いよね!もちろん、両方備えたやつとかあったらいいけどね!」

「まあ、そうだな。俺は、個人的にはこのシーンとか……」

 話は尽きることなく、あっという間に時間は過ぎていく……。

 うん……こういうのも悪くないな。
 
 あっ——そういや俺、高校入ってから友達の家に来るの初めてだ……。

 俺は今更ながら、そんなことに気がついたのだった……。










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