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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は真兄に写真を見せてみる

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 あの後、俺は誰にも気付かれずにグラウンドへ戻った。

 そして何事もなかったかように振る舞い、そのまま授業を終える。



 昼休みになり、俺は綾に謝る。

「綾。悪いが、今日は一緒には帰れないかもしれん」

「あれ?今日、何か用事あるって言ってたかな?」

「いや、さっきまでなかったんだが……詳しくは言えないが、さっき、啓介から嬉しい言葉を聞いてな。俺はいたく感動したところだ。なので、熱いうちにお礼も兼ねて遊びに行こうかと思ってな。もちろん、アイツの予定が空いてればだが」

「うん、良いよー。えへへー、道理で機嫌が良いと思った。さっき、加奈達と話してたんだ~」

「ん?そんなわかりやすかったか?」

「そんなことないよー、加奈も愛子もどの辺が?って言ってたし。でも、私にはわかるのです!冬馬君のことずっと見てるもん!」

 綾はフンスフンスしながら、そんなことを言う……可愛い。

「道理で視線を感じると思ったよ。そうか、ずっと見てたのか」

「え?……あっ——ち、違くて、違くはなくて……あぅぅ……」

「ククク、相変わらず可愛いな。良いぞ、見ても。好きなだけな」

「むぅ……冬馬君が、なんだかイジワルです……」

「すまんな、つい可愛くてな」

「むぅ~、そう言われたら何も言えないです……」

 モジモジする綾を見るのはとても良い。
 ……あれから進展はないけど、焦らないことにした。
 幸せに満たされてはいるし、俺がそんなんだと逆に進展しないだろうし。
 綾の気持ちの整理がつくまで、頭の隅の方へしまっておくことにする。
 そもそも、こんな可愛い彼女がいる時点で恵まれすぎだ。

「可愛いし、優しいし、スタイル良いし——好きだ」

「ふえっ?え、えーっと……」

「あっ——心の声が出てしまった。まあ、良いや」

「えぇ——!?よ、よくないです!リピートアフターミーです!」

「何故英語?いや、得意分野なのは知ってるけど……」

「リピート!アフター!ミー!」

 鬼気迫る表情に、俺は気圧される……!
 これは、答えないという選択肢はないが……困らせたくなるな。

「可愛い?」

「そこじゃないのー!う、嬉しいけど!」

「優しい?」

「違うのー!でも、ありがとう!」

「スタイル良いし?」

「そ、それも嬉しいけど……もう~!わかってるくせに~!」

「好きだ」

「はぅぅ……あ、あのね、その低い感じのやつ……好き」

 うむ……顔を両手で押さえる綾は、いつ見ても良い!まさしく眼福です。

「……なあ、俺いるの知ってる?」

「あっ——」

「ふえっ——?」

 そこには、苦虫を噛み潰したような表情の真兄がいた。

「たくっ、もう慣れたとはいえ勘弁してくれよ」

「ごめんごめん!忘れてたわ!」

「ご、ごめんなさい!あぅぅ……は、恥ずかしいよぉ~」

「いや、恥ずかしいのは俺だからな?」

「……あっ、そういや写真は良いって?なんか、さっきメール送るとか言ってたよな?」

「え?……あっ——うん、さっきメールしたら良いって。私、店長さんにツーショット写真撮ってもらってたから。弥生さんと2人で、店の前で撮ったんだー」

「あん?なんの話だ?」

「真兄は彼女いないんだよな?」

「よし!冬馬!立てい!吹っ飛ばしてやる!!」
     
 マ、マズイ!逆鱗に触れたっぽい!!
 鬼の形相で迫ってくるぅ——!!

「違う違う!そういうアレじゃなくて……!作り気はあるのって!」

「あぁ!?欲しいに決まってんだろうが!てめー、ちょっと彼女できたからって調子に乗ってんじゃねえぞ!?俺の前でイチャイチャイチャイチャしやがって……!チクショー!俺だってなぁ!!」

「先生!違うんです!お、落ち着いてください!」

「あぁ!?引っ込んでろ!」

 その時、俺の中の何かがキレた。

「……おい?真兄……綾にガン飛ばすとはどういった了見だぁ!?」

「やんのかぁ!?コラァ!?」

「やったろーじゃないかぁ!あぁ!?」

「もう~!!2人とも喧嘩しないで!!」
 


 その後綾の尽力により、なんとか誤解は解けた。

 今では打って変わって、ご機嫌に俺の肩を組んでいる。

「なんだよー、冬馬。女紹介するなら、早くそう言えよー」

「言う前に真兄がキレたんだよ!」

「はは……怖かったぁ」

「すまん!清水!この通りだ!」

「ごめん!綾!これで勘弁してくれ!」
 
「2人して土下座しないで~!なんでそんなにシンクロするの!?」



 ラチがあかないので、さっさと本題に入ることにする。

「たくっ……言っておくけど、紹介するだけだから。それに弄ぶようなことしたら、真兄とはいえ承知しない」

「もちろんだ!紹介したお前の顔を潰すようなことはしないと約束しよう」

「じゃあ、綾。見せてやってくれ」

「うん!はい、先生」

「どれどれ……なんてことだ……」

 真兄から表情が消えた。

「し、真兄……?」

「せ、先生……?」

「冬馬、女神とは存在したのだな。俺は、今それを知った」

「はい?」

「ふえっ?」

「こうしてはおけん!今すぐ花束を持って行かなくては!!」

「待て待てーい!まだ、昼休みだから!」

「俺は早退する!」

「だ、ダメですよ!?」

「いや!ていうか、その前の問題だから!真兄!?待ってぇ——!!」



 なんとか、力づくで押さえこんだ。

「ゼェ、ゼェ、邪魔をするか……!」

「ハァ、ハァ、まずは話を聞けっての……!」

「先生!あ、あのですね……」

 まずは、親父さんの許可がいること。
 紹介するのは、その後になること。
 さらには、真兄の写真が必要なことなどを説明した。


「なるほど……怖い親父さんがいるってわけか。それに、俺だけが写真を見るのはフェアじゃないわな」

「とりあえず、気に入ったってことでいいんだよな?」

「もちろんだ!なんだ!?あの美人は!?冬馬!もっと早く言えよー!」

「いや、俺も弥生さんとそういう話したことなかったからさ」

「じゃあ、私が写真撮りますね~」

「お、おう……」

「真兄?変な顔だけど……」

「お前は失礼だな!」

「いや、そういう意味じゃなくて……真兄は普通にしてればワイルド系の男前なんだから。いまの顔は、強張りすぎだよ」

「し、仕方ないだろ!?ど、どういう顔をすれば……?」

「う~ん……先生の良い顔……あっ——冬馬君!一緒に入って!」

「はい?」

「良いから!ねっ?」

「……わかったよ」

 大人しく真兄の隣に行くと……。
 
「先生!冬馬君と肩を組んでください!」

「お、おう……こうか?」

「真兄、タバコ臭い……弥生さん、タバコ嫌いかもなぁ」

「な、なにぃ——!?わ、わかった!辞める!だから……!」

「まだ確定してないから!揺らさないでー!」

「ふふ、良い顔。やっぱり、仲良しさんですね!」

「あれ?撮ったのか?」

「いつの間に……」

 撮った写真を見てみると……。

「冬馬、良い顔してるぜ?」

「真兄こそ、男前だよ」

 そこには肩を組んだ状態で、笑顔の俺と真兄が写っていた。

「えへへ~、2人とも本当の兄弟みたいですね!」

「誰がこんな生意気な弟!!」

「誰がこんな子供みたいな兄貴!!」

「「あぁ!?やんのかぁ!?」」

「もう~!いい加減にしてください!!」

 ……照れ臭くて言えないけど、本当の兄貴のように思ってるけどな。
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