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冬馬君は平和な日々を取り戻し……

冬馬くんは彼女を家に招く

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 それからしばらく経ち、日が暮れ始める頃……。

 俺達は、示し合わせたかのように目が合う。

「さて……麻里奈は、他には何か言っていたか?」

「うん、えーっと……夕飯の支度に時間がかかるので、七時までは遊んでてください……だったかな?」

「相変わらず、できた妹だこと。じゃあ、どうしますかね?綾さんや」

「やですよ、冬馬さん。そんなお爺さんみたいな喋り方したら」

「ハハ!いいなぁ……うん、いいな」

 今、とても幸せな光景が頭に浮かんできた。
 うん、いずれはそうなりたいものだな。


 もう四時なので、時間が限られている。
 なので、寒くなってきたこともあり、デパート内で買い物をすることにした。

「あっ、あのね!小物屋さんに行きたいかな!」

「お、おう?なぜ、張り切ってるんだ?」

「き、気のせいです!」

「えぇ——……まあ、いいけどよ。じゃあ、行こうか」

「はい!行きます!」

 フンスフンスしてて、とても可愛い子である。


 さて、小物屋さんに来たが……。
 どうやら、俺が夢中なってしまったようだ。

「おっ、これ良いな」

「え!?どれどれ!?フンフン、財布ですか」

「俺、シンプルな長財布が好きなんだよな。ただ、こういうのって結構値が張るからなぁ。中々買うことができないんだよ」

 俺が気に入ったものは、青のデザインの余計な装飾もない長財布だ。
 値段は、2万5000千円と表示されている。
 高校生には少し厳しい値段である。
 人にならまだしも、 自分に使うのは中々勇気がいるんだよなぁー。

「わぁ~、シンプルたけどオシャレだね。少し、大人向けかも?」

「やっぱそう思うよな。まあ、でも良い財布は長持ちするし。買って二、三年したら成人してるし、ちょうど良いかもな」

「……買うの?」

「いんや、買わないよ。少し予算オーバーだし、さっき1万円使っちゃったしな」

「あっ——……麻里奈ちゃんにかな?」

「正解。日頃の感謝を込めてな。アイツ家の事頑張ってくれてるから、これくらいはしないとな」

「ふふ、優しいお兄ちゃんだね」

「よせやい照れるぜ。まあ、そういられたら良いとは思うけど」



 その後、あちこちの店に立ち寄っては出るを繰り返す。

 どうやら、綾はウインドウショッピングがしたかったようだ。

 もちろん、俺も綾となら楽しいから文句はない。

「さて……そろそろ良い時間だな」

「うん!満足したよ!」

 何やら、ずっと俺の動きを見ていたのはなんだったんだ?
 うーむ……やはり、まだまだわからないことがあるな。
 まあ——それが良いんだろうけども。


 自転車を押しながら、綾と共に自宅へ向けて出発する。

「二人乗りはしないの?」

「ああ、しない。ある意味で、自転車の二人乗りの方が危険だ。バイクの二人乗りは、当たり前だが細心の注意を払う。けど、自転車って気軽にできるから油断しやすいんだよ。だからよく事故を起こすし、予期せぬ怪我をする。何より、周りの人に迷惑がかかるしな」

「最近は、警察の人も厳しいもんね。少し、残念だけど……」

「なんだ?やってみたいリストにでも入ってたのか?」

「うん、まあ——でも、良いの。バイクの二人乗りできたもん。それに、そういう考えの冬馬君好きだし……カッコいいと思うから……」

「ふっ、俺に惚れたら怪我するぜ?」

 思わず照れ臭くなって、そんな軽口を叩いてしまう。

「ふふ、じゃあ……もう、私は怪我してるね?」

「グハァ——!?や、やりおる……!」

 両手を後ろで組んでからの——横から覗き込むのは反則だ……! 

「えへへー、やったね!冬馬君をデレさせました!」

「はいはい、デレデレですよー……あっ——」

「どうしたの?」

「すっかり言い忘れてたな。綾、ミスターコンテストに参加しようと思うのだが、良いだろうか?」

「え……?あっ、えっと、それって……私のため……?」

「いや、俺のためだ。俺が、綾に見合うと思われる実績が欲しいからな。大体、俺が不甲斐ないから綾が未だに告白されるんだろうしな。アイツで行けるなら俺でも!みたいな感じで」

「……知ってたの?」

「……まあ、一応な」

「うぅー……また迷惑かけてる……」

「おいおい、綾が悪いわけじゃないだろ?」

「そうだけど……」

「まあ、気にするな。綾みたいな、可愛いくて優しい子と付き合ってるんだ。それくらいは安いものだ」

「でも、冬馬君だってかっこいいもん……モテちゃうよぉ~……」

「ふっ、安心しろ。綾以外に興味はない」

「わ、私だって……!」

「わかってるよ、みなまで言うな。それを上回る人気があるのだから仕方がない」

「うぅー……私、絶対めんどくさいね……」

「綾?俺は前にも言ったな?」

「あっ——うん……ごめんなさい」

「いいさ、何度でも言うだけだ。綾、俺がお前をめんどくさいと思うことなどない。お前に告白したあの日から、こうなることは想定済みだ。平穏な日々よりも、綾が好きという気持ちが上回ったから……その覚悟がついたから告白したんだ。だから、気にすることはない」

「冬馬君……ごめ、ううん……ありがとう!私を好きになってくれて!」

 ……そんなのはこちらのセリフだっつーの。



 そして、俺の家に到着する。

「綾ちゃん!いらっしゃい!」

「お邪魔します。今日は、誘ってくれてありがとね」

「いえいえ!さあさあ!」

「おい、妹よ。兄を無視するな」

「あれ?いたの?」

「ふっ、そんなこと言って……兄が好きなくせに」

「なっ、なっ——!?」

「イテェ!?殴んなよ!?」

「ふふ、仲良しさんだね」



 食事の支度を手伝い、席に着くと……。

「ただいまー」

「親父、お帰り。お疲れさん」

「お父さん!お帰り!お疲れ様なのです!」

「た、辰馬さん、お帰りなさい。お仕事お疲れ様でした」

「うぉぉ——!どうしよう、俺泣きそう……息子の彼女にお帰りって……かあさーん!」

 親父は和室行き、ブツブツと仏壇に何かを言っている。

「えーっと……?」

「ほっといていい。ああなったら、中々帰ってこない」

「だねー。きっと、綾ちゃんがお帰りって言ったから感激したんだと思うよー」

「ハハ……そうなんだ。喜んでくれたってことで良いのかな……?」

「それは間違いない。じゃあ、頂きます」

「頂きまーす」

「頂きます」

 ちなみに今日のメニューは、鉄板焼きだった。
 野菜から中心に焼いていく。

「おい、これ準備いるか?」

「ふふ~ん!でも、デートできたでしょ?」

「まあ、それはそうだが」

「ありがとね、麻里奈ちゃん。私に気を遣ってくれたんだよね?」

「べ、別にそんなことは……ゴニョゴニョ」

「いや、ゴニョゴニョってそういう使い方じゃなくね?」

「もう!いいから!食べよ!ほら!お父さんもきたし!」

「呼んだか!?」

「はい、呼んでない」

「ふふ、賑やかで楽しいね」

「いや、いつもは静かだよ。綾がいるからだな」

「その通りだな。やはり、女の子が二人いると華やかになるしな」

「私も、綾ちゃんがいると嬉しいです!女の子の会話できるもん!」

「あっ——そうですよね……うん!じゃあ、麻里奈ちゃん!お姉さんが話を聞いてあげるね!どんとこいです!」

「わぁ~!嬉しいです!あのですね……」

 ……綾、ありがとう。
 母親がいない麻里奈を気遣ってくれて……。



 その後楽しい食事を終え、麻里奈が綾を部屋につれていった。
 なので、リビングで親父と二人きりである。

「冬馬」

「うん?」

「改めて思うが、とってもいい子だな。正直言って、真里奈の話し相手になってくれるのは助かる。男親の俺や、兄のお前には相談できないこともあるだろうし……こればっかりはな」

「奇遇だな、俺もそう思う」

「大事にしなきゃだな?」

「もちろんだ」

「麻里奈の本当のお姉さんなってくれたならなぁ……なんてな、気が早すぎるな」

 ……でも、そうか。
 綾と付き合う限りは、そういうことに……。
 ていうか、俺フラれたりしたら生きていけんのかな……?
 ……やめておこう、すでに死にそうになる。

 よし!そのためにも気合を入れてくか!

 身体を絞ったり、立ち姿を見て練習をしなくちゃだな!



 そして、綾のお母さんが迎えに来た。

「皆さん、今日は娘がお世話になりました。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったですよ。久しぶりに賑やかな食事でしたから」

「それならば、良かったです。こちらも、冬馬君が来ると誠也が喜ぶんですよ。冬馬君、また来て頂戴ね?」

「ええ、もちろんです。誠也に遠慮するなって伝えてください」

「皆さん、今日はご馳走さまでした。おかげで、とても楽しい時間を過ごせました」

「こっちこそな。じゃあな、綾」

「綾ちゃん、またね!」

「綾さん、いつでも来てくださいね」

「はい!ありがとうございます!」

 綾が車に乗り、遠ざかっていく……。

 なんかいいな……こういうのも。

 大事な家族と、大事な女の子が仲良くして……。

 大事な女の子の家族と仲良くしたり……。

 俺は——幸せ者だな……。
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