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冬馬君は平和な日々を取り戻し……

冬馬くんは時間の流れを感じる

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 あれから数日が過ぎ、文化祭の準備も着々と進んでいる。

 メイド服だったり、執事服だったり。
 俺も放課後に残って、装飾品の作成などをしていた。
 もちろん、クラスの連中と交流しながら……。
 ……ごくたまに、羽目を外して遊んだりもしたけど……。
 まあ、いかにもな青春って感じだな。

 あとは自分の時間も取りつつ、綾と過ごしたり……。
 友達付き合いなどをしていたら、あっという間に過ぎていた。
 ちなみに何やら皆が恋愛モードなので、今は少し案を練っているところだ。


「さて……麻里奈、準備はいいか?」

「うん!妹は準備完了なのです!」

「はいはい、元気なことで。じゃあ、行くとするか」

「ふふ~ん!仕方ないので、お兄とデートしてあげます!」

「そうだな。悪かったな、最近遊んでやれなくて」

「ち、違うもん!お兄が寂しいから遊んであげるんだもん!」

「そういえばそうだったな。ほら、靴履いていくぞ」

「えへへー、ハイなのです!」

 今日は土曜日、妹とお出掛けをする日だ。
 この間の約束を果たすために。
 というわけで、昼飯を食べた後出発という流れになった。


「んで、どこ行きたいんだ?」

「まずは……駅中のデパートです!冬服を見るのです!」

「そうか……もう、そんなになるか。あの時は、夏だったもんな」

「ふふ~、私が綾ちゃんとお兄のキューピットなのです!」

「はい?……いや、強ち間違いではないか」

 あの時麻里奈とお出掛けをしたから、俺は綾に見つかったんだ。
 そして生徒手帳を落とし、そっから始まったんだ。

「お兄、感謝しても良いんだよ?」

「だな、ありがとな」

 頭をわしゃわしゃしてやる。

「わわっ!?ら、乱暴なのです!」

「その割には嬉しそうだな?」

「べ、別に!」




 二人で自転車乗って、駅前に到着する。

「て、おい。何してんだ?」

「腕を組んでいるのです!」

「いや、お前なぁ……もう、中学生だろうに」

「だって彼氏いないもん!お兄で我慢します!」

「はいはい、それなら仕方ないか」

「ふふ~ん!お兄のシスコンにも困ったものです」

「まあな、もし出来たなら……俺が見定めてやらねばな……!」

「むむぅ~、どうしよう?」

「言っておくが、親父よりはマシだと思うぞ?親父は多分、冗談抜きで殺しそうだ」

「……どうしよう!?想像ができちゃったよ!?」

「奇遇だな、俺もだ。まあ、というわけだ。まずは、俺が認めるかどうか。そして、認めたなら親父を説得してやろう」

「お兄ちゃん……あっ——」

「ククク……久々にに聞いたな?中学生に上がる前は、お兄ちゃんって呼んでたのにな……」

「むぅ……仕方ないのです。中学生を機にしっかりしなきゃ!と思って……」

「ありがとな、麻里奈。いつも笑顔で、元気でいてくれて。おかげで、俺と親父も笑顔でいられる。きっとお前がいなければ、暗くなっていただろうな……」

「お兄ちゃん……だって……お母さんに言われたもん……いつでも明るく元気な子でいてねって……そして二人を明るくしてあげてって……でも、辛くなったらお兄ちゃんに言いなさいって……」

 ……きっと最期の会話だろうな。

「そうか……ありがとな。あんまり兄らしいことはできてないが、いつでも頼ってくれ」

「ううん!お兄ちゃんには感謝してる……だって私が泣いてる時、お兄ちゃんがいつも飛んできたもん。お兄ちゃんだって泣きたいはずなのに……」

「それこそ同じだよ。母さんに言われたしな」

「もう2年も経つんだね……」

「……そうだな。ほら、切り替えるぞ。母さんが心配するぞ?」

「そうだよね……うん!行こ!」

 その後は、笑顔で楽しく買い物をしていく。
 もちろん、洋服は買ってあげたぞ。
 頑張っている妹のためなら、一万円くらい安いものだ。

 

 ある程度時間が経ち、休日出勤している親父のために、麻里奈はデパ地下に行った。
 俺にはその間に、ケーキを買ってきてと言われた。
 ただ、あいつの買い物は長いのだ。
 なので俺は、買い物を済ませてベンチに座りながら、うつらうつらしていた……。




 おっといかん……眠ってしまったか。

「あっ——起きた……?」

「ん?……なんだ、まだ夢か。可愛い綾がいるな。俺の大好きな子だ。全く、俺はどんだけお前が好きなんだか……夢の中まで膝枕とか……幸せだな……」

「あ、あのね……ゆ、夢じゃないの……はぅぅ……」

 目の前の綾が、両手で顔を押さえている……つまり。

「……はい?」

 俺は起き上がり、あたりを見回す。

「起きる前と同じ場所……ということは……現実か……?」

「お、おはよぉ……もぅ、冬馬君ったら……でも、嬉しい……」

「お、おう……何がどうなったんだ?」

「麻里奈ちゃんがね、今日の夕ご飯に誘ってくれたの。休日のお兄ちゃんを独占しちゃ悪いからって……あとお兄ちゃんを返すので、自由にしてくださいって。自分は、先に家に帰るって言ってたよ」

 確かに、妹と買い物するから今日は断っていたが……。

「アイツ……自分より俺かよ」

「お兄ちゃんとは家でいられるもんって……それに、きちんと時間を作ってくれたことが嬉しかったって……それで十分だって……」

「あんにゃろう……泣かせること言いやがって……大きくなったなぁ……」

「ふふ、気持ちわかるよ。私も誠也に言われたんだ。僕のことは気にしないで、お姉ちゃんは好きなことしてって。あぁ、大きくなったなぁって思う」

「お互い、出来た兄弟を持ったな」

「ふふ、そうだね。時間が経つのは早いよね……」

「ここで綾に見つかったんだよな……」

「もう~びっくりしたんだから。声かけたら逃げちゃうんだもん」

「悪い悪い……あん時は思いもしなかった。こんなに好きな女の子ができるとは……当時の俺が、今の俺見たら……なんて言うんだろうな……」

「わ、私も……こんなに好きな人ができるなんて思ってなかった。あの時の私を褒めてあげたいな。よく勇気を出したね!って」

「もうすぐ季節が変わるな……夏から秋になり、冬がやってくる……早いもんだ」

「あ、あのぅ……これから先も一緒にいてくれますか………?」

「ああ、もちろんだ。綾が嫌になるくらいにな」

「……そんな日はこないもん……」

 その後は、二人黙って静かな時を過ごす……。

 多分、考えていることは同じだと思う。

 きっと、これまでの出来事を思い出しているのだろう。

 時の流れを感じながら……。
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