88 / 185
冬馬君は平和な日々を取り戻し……
冬馬君は腑に落ちる
しおりを挟む……一体、どういうつもりだ?
男性教師である真兄と、教え子の女生徒である黒野が、堂々とこちらに歩いてくる。
ここで、少し時は遡る………。
皆でバスケをした後、自販機の前で飲み物を買っていた時のことだ……。
「なあ、博」
「ん?なんだい?」
「さっきの、好きな人の前ってのはなんだ?もしかして、綾とか言うんじゃあるまいな?だとしたら……」
「待って!違うから!俺はまだ死にたくない!」
「ほっ、良かった。俺も友達になったばかりの人を消すのは忍びない。まあ、冗談だけど」
「いや……本気の目だったような……まあ、いいや」
「で、どういう意味だったんだ?」
「今は……うん、聞こえる距離に人はいないね。実は……」
人に聞かれぬように、小声で耳打ちをしてくる……。
「え!?……あぁ、なるほど。だから綾の方を見てたのか。隣にいたもんな」
そういや、中学の部活が一緒って言ってたな。
元陸上部同士で仲も良さげだし、文化祭実行委員だし。
部活があって忙しいのに立候補したのはそういうことか。
「そういうこと。誰にも言ってないから内緒で頼むね?」
「あれ?なんで俺には?」
「冬馬は漢気ある人だから、言いふらすようなことはしないと思うし」
「おう、当たり前だ」
「それに、清水さんが好きかと誤解されたままじゃ……怖いし」
「ハハ!それはすまなかった!」
「あと……あいつ清水さんと仲良いから、あわよくば冬馬君が協力してくれたりとかも期待してかな」
「それは……」
……黒野は、真兄と付き合ってるかもなんて言えないしな。
「いや、ごめん。半分冗談だから。冬馬はそういう腹芸は苦手そうだしね」
……という、一幕があったわけだ。
そして今、問題の2人が目の前に来た。
真兄……クビになりたいのかな?
「よう、冬馬」
「綾、こんにちは。相変わらず、ラブラブね」
「加奈……先生……どういうこと?」
綾はオロオロして上手く言葉が出ないようだ。
無理もない……俺もアレを目撃してなければ動揺するところだ。
「おい、真兄。堂々と淫行はダメだろ。黒野が可哀想だろ。俺は真兄を見損ないたくはなかったんだがな」
「バカいうな!こんな小娘に手出すか!」
「ちょっと?」
「うん、わかってるよ。今見た限り付き合ってる感じではないことは。別の事情があるんだろ?で、どうしたの?ここ学校から遠いとはいえ、堂々としすぎじゃない?」
「お、おう。随分落ち着いているな……もしや……いや、いいか。昨日加奈が清水にメールしたら、ここでのんびりするって返信きたって言うからさ」
「そういうことね。綾、帰って来なさい」
「ふえっ?……えぇー!?先生と加奈は付き合ってるのー!?私知らなかったよ~!?」
「だから違うって言ってんの!」
「綾、ここでポンコツを発揮するとは……可愛い奴だ」
仮にそうだとしても言えるわけがないだろうに。
「貴方も大概ね。綾に対する愛が」
「ふっ、そう褒めるなよ」
「ハァ……とりあえず、場所変えましょう」
俺と綾は歩いて来たので、そのまま真兄の車に乗る。
そして、とある個室付きの料理店に入った。
靴を脱いで上がる座敷タイプのようだ。
ひとめにつかず、ちょうどお昼時ということもある。
何より、真兄の奢りなのが良い。
「さて、まずは頼もうぜ。話はそれからだ。ここは和食屋でな。俺の行きつけの店でもあるんだよ。だから、加奈を連れて来ても問題ない」
「……まあ、腹減ったし。とりあえず、頼むか」
「そ、そうだね……」
「そうね」
それぞれに注文をし、隣に座る綾と共に聞く体勢に入る。
「で、何がどうなった?」
「いや、そんな難しい話ではないんだよ。簡単に言うと、こいつは俺の妹なんだよ。冬馬だって会ったことあるんだぜ?」
「……はい?」
「……ふえっ?」
「フフ、2人とも良い顔ね。まあ、そういうことなのよ」
「……そういうことか……児童館で会ったことあるな、真兄の妹には。それが黒野……いや、名倉加奈ってことか」
「え?え?冬馬君、どういうこと?」
「前に言ったろ?真兄は離婚してて、妹は母親にって」
「あっ……うん、聞いたね。それが……加奈ってこと?」
「正解だ。ちなみに、校長と教頭だけには伝えてある。だから、問題にはならない。流石に、会った時はびっくりしたがな。下手すると、俺は異動になってたんだぜ?もう姓も違ったから平気だったけどな」
「だって、兄さんが全然会ってくれないから……」
「へぇ~、加奈が見たことない顔してる……」
「いつも澄ました顔してるもんな」
「う、うるさいわよ」
「だってお前……会う度に無茶言うじゃねえか」
「何を言ったんだ?」
「一緒に暮らしたいって……母さんと3人で……」
「確か真兄の親父さんは……」
「知らん。俺も18で家を出てから会ってない。あのろくでなしとは。酒タバコならまだしも、ギャンブルと暴力の男だったからな。まあ、人のことは言えないか」
「いや、真兄は筋の通った良い男だよ。その親父さんとは別だ」
「冬馬……ありがとよ」
「先生はどうしてイヤなんですか?」
「俺26歳だぜ?自由に暮らしてるのに、今更母親と妹と暮らせるかっつーの。何より……母親は俺を捨てた」
「違う!母さんは……!」
「違くねえ!俺は離婚することも知らずに、帰ったら母さんはいなかった……!幼いお前だけを連れて……あのクソ親父とともに捨てられたんだよ……!」
俺と綾は、その言葉に口を挟めずに呆然とするのだった……。
そうか……腑に落ちた。
俺が見た光景は、この言い争いをしてたんだな……。
1
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる