静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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冬馬君は平和な日々を取り戻し……

冬馬君は腑に落ちる

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 ……一体、どういうつもりだ?

 男性教師である真兄と、教え子の女生徒である黒野が、堂々とこちらに歩いてくる。

 ここで、少し時は遡る………。



 皆でバスケをした後、自販機の前で飲み物を買っていた時のことだ……。

「なあ、博」

「ん?なんだい?」

「さっきの、好きな人の前ってのはなんだ?もしかして、綾とか言うんじゃあるまいな?だとしたら……」

「待って!違うから!俺はまだ死にたくない!」

「ほっ、良かった。俺も友達になったばかりの人を消すのは忍びない。まあ、冗談だけど」

「いや……本気の目だったような……まあ、いいや」

「で、どういう意味だったんだ?」

「今は……うん、聞こえる距離に人はいないね。実は……」
  
 人に聞かれぬように、小声で耳打ちをしてくる……。

「え!?……あぁ、なるほど。だから綾の方を見てたのか。隣にいたもんな」

 そういや、中学の部活が一緒って言ってたな。
 元陸上部同士で仲も良さげだし、文化祭実行委員だし。
 部活があって忙しいのに立候補したのはそういうことか。

「そういうこと。誰にも言ってないから内緒で頼むね?」

「あれ?なんで俺には?」

「冬馬は漢気ある人だから、言いふらすようなことはしないと思うし」

「おう、当たり前だ」

「それに、清水さんが好きかと誤解されたままじゃ……怖いし」

「ハハ!それはすまなかった!」

「あと……あいつ清水さんと仲良いから、あわよくば冬馬君が協力してくれたりとかも期待してかな」

「それは……」

 ……黒野は、真兄と付き合ってるかもなんて言えないしな。

「いや、ごめん。半分冗談だから。冬馬はそういう腹芸は苦手そうだしね」




 ……という、一幕があったわけだ。

 そして今、問題の2人が目の前に来た。

 真兄……クビになりたいのかな?

「よう、冬馬」

「綾、こんにちは。相変わらず、ラブラブね」

「加奈……先生……どういうこと?」

 綾はオロオロして上手く言葉が出ないようだ。
 無理もない……俺もアレを目撃してなければ動揺するところだ。

「おい、真兄。堂々と淫行はダメだろ。黒野が可哀想だろ。俺は真兄を見損ないたくはなかったんだがな」

「バカいうな!こんな小娘に手出すか!」

「ちょっと?」

「うん、わかってるよ。今見た限り付き合ってる感じではないことは。別の事情があるんだろ?で、どうしたの?ここ学校から遠いとはいえ、堂々としすぎじゃない?」

「お、おう。随分落ち着いているな……もしや……いや、いいか。昨日加奈が清水にメールしたら、ここでのんびりするって返信きたって言うからさ」

「そういうことね。綾、帰って来なさい」

「ふえっ?……えぇー!?先生と加奈は付き合ってるのー!?私知らなかったよ~!?」

「だから違うって言ってんの!」

「綾、ここでポンコツを発揮するとは……可愛い奴だ」

 仮にそうだとしても言えるわけがないだろうに。

「貴方も大概ね。綾に対する愛が」

「ふっ、そう褒めるなよ」

「ハァ……とりあえず、場所変えましょう」

 俺と綾は歩いて来たので、そのまま真兄の車に乗る。



 そして、とある個室付きの料理店に入った。
   靴を脱いで上がる座敷タイプのようだ。
 ひとめにつかず、ちょうどお昼時ということもある。
 何より、真兄の奢りなのが良い。

「さて、まずは頼もうぜ。話はそれからだ。ここは和食屋でな。俺の行きつけの店でもあるんだよ。だから、加奈を連れて来ても問題ない」

「……まあ、腹減ったし。とりあえず、頼むか」

「そ、そうだね……」

「そうね」

 それぞれに注文をし、隣に座る綾と共に聞く体勢に入る。

「で、何がどうなった?」

「いや、そんな難しい話ではないんだよ。簡単に言うと、こいつは俺の妹なんだよ。冬馬だって会ったことあるんだぜ?」

「……はい?」

「……ふえっ?」

「フフ、2人とも良い顔ね。まあ、そういうことなのよ」

「……そういうことか……児童館で会ったことあるな、真兄の妹には。それが黒野……いや、名倉加奈ってことか」

「え?え?冬馬君、どういうこと?」

「前に言ったろ?真兄は離婚してて、妹は母親にって」

「あっ……うん、聞いたね。それが……加奈ってこと?」

「正解だ。ちなみに、校長と教頭だけには伝えてある。だから、問題にはならない。流石に、会った時はびっくりしたがな。下手すると、俺は異動になってたんだぜ?もう姓も違ったから平気だったけどな」

「だって、兄さんが全然会ってくれないから……」

「へぇ~、加奈が見たことない顔してる……」

「いつも澄ました顔してるもんな」

「う、うるさいわよ」

「だってお前……会う度に無茶言うじゃねえか」

「何を言ったんだ?」

「一緒に暮らしたいって……母さんと3人で……」

「確か真兄の親父さんは……」

「知らん。俺も18で家を出てから会ってない。あのろくでなしとは。酒タバコならまだしも、ギャンブルと暴力の男だったからな。まあ、人のことは言えないか」

「いや、真兄は筋の通った良い男だよ。その親父さんとは別だ」

「冬馬……ありがとよ」

「先生はどうしてイヤなんですか?」

「俺26歳だぜ?自由に暮らしてるのに、今更母親と妹と暮らせるかっつーの。何より……母親は俺を捨てた」

「違う!母さんは……!」

「違くねえ!俺は離婚することも知らずに、帰ったら母さんはいなかった……!幼いお前だけを連れて……あのクソ親父とともに捨てられたんだよ……!」

 俺と綾は、その言葉に口を挟めずに呆然とするのだった……。

 そうか……腑に落ちた。
 俺が見た光景は、この言い争いをしてたんだな……。
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