静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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冬馬君は友達のために

冬馬君は久々にリングに上がる

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 奴らを連れて、オレ達はとある場所に到着する。

「あぁ?ここは……お前、こっち側の奴だったのか?」

「ふ~ん……どうりで、只者じゃない空気を出すわけだね~……そういえば、何処かで見たような気もするね……」

「あぁ?そうなのか?」 

「おい、良いから行くぞ」

「と、冬馬……ここ、大丈夫なのか……?」

「アキ、安心しろ。話は通してある」

 受付を済ませ、中に入る。

「うぉぉぉ!!!きたぜーー!!」

「アイツがレッドウルフか!!」

「いいぞーー!!待ってたぜ!!」

 リングを中心に観客が騒いでいる。
 そう、ここは中間地帯の集会所だ。
 ここなら、余計な介入を防げる。

「あぁ!?レッドウルフだと!?」

「……なるほどね、そういうこと~……見覚えある顔なわけだ」

「おい、今更逃げんなよ?」

「はっ!逃げるわけねえだろ!むしろ好都合だ!お前の所為で……オレは名を挙げる機会を逃したんだよ!!」

「は?……ほう?なら良い機会じゃないか。相手してやるよ、クズヤロー」

「き、き、貴様……!」

「おい~、安い挑発に乗るなよー」

「お、おう……悪い」

「ん?逃げるのか?まあ、それならそれで良いけどな。やり方はいくらでもある」

「いや~、逃げないよー。流石に、ここで逃げたらマズイからね~」

 ……よし、難関を超えたな。
 デカイ奴は単純そうだから、挑発は容易いと思っていた。
 だが、こいつを乗せるのが難しいと思っていた。
 流石に、このギャラリーの前で逃げる事はメンツが立たないと思ったのだろう。
 淳さんに頼んで、ギャラリーを用意してもらっといて正解だったな。

 アイツらは、ブルーエンペラーの方に向かって行った。
 俺達は、レッドギャングの方へ向かう。

「よう、冬馬」

「淳さん、こんにちは。こんな早くから、人を集めてもらってありがとうございます」

「なに、良いさ。こっちにも利点はあるしな」

「で、本命の奴は?」

「今はいないようだ。遠くの街に出かけているのを確認してある」

「都合が良いですね。では、まずはこっちから片付けますかね」

「冬馬!」

「アキ……」

「知ってたんだな?」

「なんのことだか……」

「お前って奴は……どうしてそこまで……もう、不良を卒業したお前には知られたくなかったのに……こうなると思ったからな……」

「……俺はお前に救われた。冷たい言葉を吐く俺に、お前はしつこく絡んできた。きっと傷つけただろう……だが、お陰で俺は人間関係をギリギリで壊さずに済んだ。きっと、お前が繋ぎ止めてくれてたんだと思う。だから気にするな。これは……俺が勝手にしたくてすることだ。お前には何も頼まれていないから、恩を感じる必要もない」

「ッー!!……相変わらずな奴め……!ウゥ……」

「やれやれ、相変わらず良い男なこと。で、冬馬。用意したがどうする気だい?」

「ありがとうございます。もしもの時は全額返します」

「わかった。じゃあ、始めようか。あっちも準備出来たみたいだし」

「ええ、では行ってきます。アキを頼みます」

「ああ、任せておいて」

 俺はリングにあがり、デカイ方の奴と対峙する。

「よう……まさか、レッドウルフとやれる日が来るとはな……!」

「それ、やめてくんないか?今は、ただの吉野冬馬だ。お前は?」

「金剛哲也だ!!お前と同い年のな!」

「は……?マジか……老けすぎだろ……剛真以上だ」

「なーー!?き、貴様ーー!!お前がいなきゃ、俺が有名になってたんだ!それがどいつもこいつも……口を開けばレッドウルフのが強かっただ、あの人は男前だ、奴は筋の通った男だっただ……気にくわねぇ……!だからリンチしようと提案したっつーのに……!当時のレッドギャングのボスに保護されやがって……!」

「なるほど……お前の所為だったのか。そして僻んでいるのか?お前……中身が不細工だな。大方、アキにも僻んでいたんだろう?」

「グッ!?」

「哲也!もう黙れ!俺が話す!」

「お、おう……」

「で、アンタは?」

「東郷拓也だよー、よろしく~。で、賭けの内容は?」

「もちろん、アキから手を引くこと。そして、ネガを寄越すことだ」

「ん~?俺らにメリットはないよね?哲也はずっと戦いたかったようだけど~」

「もちろん、用意してある。俺が負けた場合は、リンチでもなんでも好きにするがいい。それに、30万用意した。負けたら、それもやる」

「フゥ~!気前が良いね!30万なら良いかな~、リンチも出来るし……うん、成立だね」

「冬馬!!」

「はい、大人しくしててね」

「でも!俺の所為で……!」

「アキ!!黙って見ていろ!さあ来い!俺の大事なダチに手を出したこと……後悔させてやる!!」

「はっ!かっこつけてんじゃねえよ!オラァ!!」

 身長180を超えるであろう巨体から、拳が繰り出される!

「チィ!」

「オラァオラァ!!どうした!?手も足も出ないのか!?」

 俺は両腕でガードし、亀のように閉じこもる!

「おいおい!レッドウルフー!!どうしたよー!」

「そんなもんなのかー!!」

「伝説は嘘だったのかー!!」

「つまんねーもの見せんじゃねえよー!」

 観客からヤジが飛ぶ……まあ、こんなもので良いか。
 あまりすぐに倒しては、暴動やブーイングが起きるからな。
 それに……そろそろ我慢の限界だ……!

「ハハ!こんなもんか!レッドウルフは!何が伝説の男だ!」

「……軽いな……」

「あぁ!?今、なんつった!?」

「軽いと言ったんだよ!!」

 繰り出してくる拳を左手で払い、右の拳を腹に叩き込む!

「グヘェー!?」

「ほう?頑丈だな?倒すつもりで殴ったんだが、よろけるだけで済んだか」

「な、なにぃ……!俺の拳が効いてないのか……!?」

「いや、痛いさ。その体格からのパンチは、流石の俺もな。だが……軽い。お前の拳には熱がない。つまらないし、嫌な気分になる。相手を痛めつけることしか考えていない。俺は信念のこもった拳を知っている。昔のヤンキーは皆持っていたものらしい。だが……今は少ないようだな」

「何言ってやがる……!偉そうな口をたたきやがって……!うぉぉぉ!!」

「苦し紛れの拳などくらう価値もない!ハァ!!」

 繰り出される拳を避け、クロスカウンターを決める!

「ゴハッ!?」

 奴は膝から崩れ落ちた……もう、立てないだろう。

「どうだ、熱のある拳は?俺がダチを想い、放った拳だ」

「な、何を言って……た、立てねぇ……!」
 
「勝負ありだ!」

 淳さんの声が響く。

「「おおぉぉーー!!」」

「これがレッドウルフ!!」

「伝説の男!!」

「ひさびさに燃えたぜーー!!」

「アンタ、かっこいいぜ!!」

 ……よし、観客も味方についた。

 これで奴らは約束を違えることはできまい。

 俺はリングを降り、元の場所に行く。

「冬馬!!」

「よう、アキ。どうした?泣きそうな顔して」

「お前って奴は……いや、なんでもない。礼は言わないからな?」

「ああ、それでいい。俺は、俺の信念に従ったまでだ」

「出たよ……お得意のセリフが……クソ……止まらねよぉ……!」

 ……良かった。

 これで、アキに恩返しが出来た。

 親友とは対等でいたいからな。


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