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冬馬君は友達のために

冬馬君はレッドウルフ

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 さて……夜の街に繰り出す前にすることがある。

 綾のお母さんに連絡を入れなくてはな。 

 まずはメールを送り、電話して良いかを確認する。

 すぐに返事が来たので、電話をかけてみる。

「もしもし、玲奈さん。お忙しいところ申し訳ないです」

『いえ、大丈夫よ。どうかしたの?』

「夜の時間まで、綾と一緒にいてもよろしいですか?」

『……ええと……ホテルかしら?』

「はい?……違います!」

 何言ってんだ!?この人!?
 いや!行きたいけれども!

「冬馬君?どうしたの?」

「い、いや!なんでもない!あの……玲奈さん?」

『フフ、冗談よ~。ええ、良いわよ』

「……理由は聞かないんですか?」

『ええ、冬馬君を信頼してますから。それに、何かあれば冬馬君が責任をとってくれるんでしょ?』

「ええ、もちろんです」

『それに……どうせ、綾が無理を言ったんじゃない?』

「いえ、そんなことは……」

『綾に代われるかしら?』

「あ、はい。綾、玲奈さんが」

 綾に俺のスマホを渡す。

「え?あ、うん……もしもし……うん、私が無理を言ったの……え?えぇ!?と、冬馬君が……?……もしもの時……うん!わかった!」

 なんだ?俺がどうかしたのか?

「は、はい、冬馬君……」

 何故綾はモジモジしているんだ?

「もしもし?」

『綾には30分おきに連絡するように言っておいたわ。冬馬君も同じようにお願いね。うちの娘が迷惑をかけるわね……』

「わかりました、必ずそうします。いえ、面倒などと思うことはありません」

『フフ、綾は幸せ者ね。じゃあ、よろしくね。ただ、10時には帰ってらっしゃいね?』

「ええ、10時前には送り届けます」

『……もしホテル行くなら、30分おきは無理かしら……?』

「行きませんから!」

『フフ、またね』
 
 全く……ホテルか……いかんいかん!
 それにしても、俺は相当信頼されているっぽい。
 ……裏切るわけにいかないな。

「終わった……?」

「ああ、では行くとするか」

「あ、あのね……何かあったら、冬馬君が責任とってくれるって……」

「ん?ああ、もちろんだ……何故照れている?」

「エヘヘ~、何でもない!いこ!」

 ……よくわからんが、機嫌が良いからいいか。

 俺は綾を連れ、久々の場所へ向かうのだった。




 そして……その場所まで近づいてきた。

 人が多い道を抜け、暗い路地裏を進んでいく……。

「く、暗いね……?」

 綾がギュッと俺にしがみついている……。
 堪能したいところだが、ここからはそうもいかん。

「しっかり掴まってろよ?ここからは無法地帯だ。多少のいざこざなら、警察も見逃すくらいだからな。まあ、ガス抜きの意味合いも強いかな」

「えっと……どういうこと?」

「大体の奴らは、エネルギーが有り余っている。だから、暴れたい奴は暴れたり、悪い奴らでつるんだりしているわけだ。人様に迷惑をかける前にな。それでも迷惑をかける奴は……まあ、マークされるわけだ」

「へ、へぇ~……そんな世界があるんだ……冬馬君と知り合ってから、初めて知ったこといっぱいあるなぁ……」

「まあ、これに関しては知らなくていいことだ。俺もあるぞ?面倒くさがりな俺が、綾のためならなんとも思わなかったり。好きという気持ちとか。可愛いとか、愛してるとか……女の子ってなんで良い匂いするんだとか……」

「ま、待って!スッ、ストップ!」

「……すまん」

 綾の頭の上に、幻の湯気が見える……。
 プシュー!という音も聞こえそうだ。

「あ、ありがとぅ……嬉しい……わ、私って良い匂いする……?」

「ああ、もちろん。ずっと嗅いで……俺は変態か……」

「ふえっ!?そ、そうなんだ……不思議だね……冬馬君なら嫌じゃないもん」

「ゴハッ!?」

「ど、どうしたの!?」

「な、なんでもない……ちょっと、綾が可愛すぎるだけだ」

「は、はぅ……」

「ゴ、ゴホン!こっから先は気を引き締めていくぞ?この先に人が集まる広場があるんだ」

「う、うん……わかりました」

 暗い道を突き進み……懐かしい場所に出る。

「ウォォ!!」

「オラァァ!!」

 中央にリングがあり、2人の男が戦っている。

「やっちまえー!」

「イケイケー!」

「チンタラやってんじゃねえぞ!?」

「おいおい!代わってやろうか!?」

 そしてその周りにヤジを飛ばす、ガラの悪い連中がいる。

 つまり……俺が真司さんと喧嘩した場所だな。

「ひゃん!?す、凄い熱気……ガス抜きってそういうことなんだ……」

「ああ、最低限のルールもある。やりすぎな場合は止めに入る。病院送りになるような怪我とかな」

「ど、どうしたら……」

「怖いよな……帰るか?」

「う、ううん!だって私が友達のことなのに、冬馬君ばかりに負担かけたくないもん!それに、冬馬君だって神崎君のことあるのに……」

「ふっ、良い女だな。安心して良い、俺がいる」

「は、はいぃ!……カッコいいよぉ……」

 受付の人に声をかける。

「なあ、入っていいか?」

「あん?見ねえ顔だな……ここは、普通の奴が来るところじゃねえぞ?」

「待て待て!お話は伺ってます!レッドウルフさんですね!」

 やめろぉぉーー!!
 淳さんめぇーー!!
 入れるようにはしてと頼んだが、何もその名前で言わなくても……。

「あ、ああ。そうだ」

「何!?あの伝説の!?し、失礼しました!」

「どうぞ、お通りください!」

「では、失礼するぞ。綾、いくぞ?笑うなよ……」

「ご、ごめんなさい……ふふ……」

 まあ、おかげで綾がリラックスできたから良いとするか。
 ……俺の精神はダメージを負ったがな……。
 だが……俺の考えは甘かったようだ。

「レッドウルフさん!握手してください!」

「レッドウルフ!勝負しろ!」

「レッドウルフさん!クゥー!実在したんですね!」

「レッドウルフ!良い女連れてるな!さすがだぜ!」

「ウ、ウルセェェーー!!レッドウルフを連呼するな!!」

「「「「おおぉぉーー!!これがレッドウルフ!!」」」」

「ヤダ、もう帰りたい……」

「ふふ、冬馬君人気者なんだね?」

「勘弁してください……」

 だが、都合が良いこともあった。
 俺が聞くと、皆快く答えてくれた。
 もちろん、レッドギャングの証である赤い服の連中のみだが。
 ブルーエンペラーは青い服を着ている。
 ……なんとも単純なことだ。

「あー、アイツっすね……最近やりすぎ感はありますね。いつもなら、駅の裏側のビルに集まってますよ」

「うちらみたいな楽しくやりたい奴らからしたら、めちゃくちゃ迷惑ですよ!」

「そうだよな!永倉慎吾のせいで、ここが使えなくなったり、規制が厳しくなったらどうすんだよな!」

 ……評判悪いな。
 だが、大体の場所はわかったな。

「……と、冬馬君凄いね?皆、怖そうな人なのに……」

「ん?でも、こいつらはそこまで悪い奴らじゃないからな」

「うん、それはなんとなくわかるよ。ダメだね、私……自分が見た目で判断されるのが嫌なのに、彼達を見た目だけで判断しちゃってたな……いつも怖いなって……気をつけなきゃだね」

「そりゃ怖いだろ、こんなのがいたら。だが、綾のそういうところ好きだな」

「そ、そう?ありがとぅ……」

「ちょっと!?レッドウルフさん!そりゃねえぜ!」

「まったくだ!でも、彼女さんはわかってくれる人なんすね!」

「おうよ!可愛くて優しい彼女だろ!」

「はぅ……」

 その後も調査を続け、ひとまず帰ろうとした時……。

 俺の目に映った人物を見て、殴りに行かなかった自分を褒めてやりたいと思った。

 そこには……アキを恐喝していた奴がいたからだ……!

 しかも……青の服を着ていやがる……!

 それに、今思い出した……。

 あのヒョロイ男とデカイ男は確か……。

 2年前に俺をリンチしようとした奴らの中にいた。

 ……色々と、話がややこしくなってきたな。

 さて……どうするのが一番良いかだな。


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