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冬馬君の自制心は……

冬馬君は彼女が可愛いが止まらない~中編~

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 さて、ようやく出発できたのだが……。

 俺はすでに、自制心が崩壊寸前だった……。

 さっきから、ギュッと抱きつかれているからだ……。

 だが、なんとか耐えている。

 俺は背中に当たるモノを意識しないように、運転に集中する。

 大事な女の子を乗せているのだから、怪我をさせるわけにはいかない。




「凄いねー!気持ちいいねー!」

「そうか!そいつは良かった!」

 ちなみに今は、俺の地元に向かっている。
 しみ……綾が、何やら行きたいと言ったからだ。
 理由はまだ知らないがな。


 そのまま走り続け、俺の地元の駅に到着する。

「あー!楽しかった!と、冬馬君!ありがとう!」

 まあ、名前呼びは慣れが必要だな……実は、俺も。

「なら、良かったよ。で、綾はどうしたい?」

「綾……う、うん、その……できたらでいいんだけど、普段冬馬君が行っている場所を教えてほしいなって……その!違うんだよ!?冬馬君の大事な時間の邪魔をするわけじゃなくて!……ただ、どんなところで過ごしているのか知りたいなぁ……と思って……」

 最後の方は尻窄みになりながら、綾が言った。

「なんだ?そんなことで良いのか?良いぞ」

「そうだよね、図々しいよね……え!?良いの!?」

「ん?どういう意味だ?」

「だって……冬馬君は、自分の時間が大事な人でしょ?私、邪魔したくないもん。そ、それに嫌われたくないもん……」

 ……な・ん・だ・こ・の・か・わ・い・さ・は……?
 ……どうしてくれようか……!!
 今すぐ抱きしめてやろうか!?

 綾は上目遣いをし、不安そうに俺をチラチラ見てくる……。
 すぐに答えなくてはいけないのに……!
 うぉぉぉ!!可愛いんだが!!

「と、冬馬君……?」

 ……よし、ひとまず鎮静化に成功した。

「ゴホン!……えっとだな、少し勘違いしているから、言っておく。俺は、自分が好きなことをするための時間が欲しいわけだ。そして、その時間が大事なわけだ。ここまで良いか?」

「う、うん……」

「でだ……俺は綾が好きだ、そして大事だ。一緒にいたいと思う」

「ふぇ?……え!?」

「つまりは、自分が好きな事の中に、綾が入っているわけだ」

「ひゃい……」

 どんどん顔が紅く染まっていくが、今言っとかないと遠慮されそうだしな。

「ということは……綾と過ごす時間は、俺にとって大事な自分の時間に値するわけだ」

「……邪魔じゃない?めんどくさくない?」

「ああ、そんなことはない」

「エヘヘ……そっか……嬉しい……!」

「なら、良かった。綾には、笑顔が良く似合う」

「あ、ありがとう……」

「……とりあえず、歩くか」

 良かった……あまり人がいなくて。
  流石の俺も、これは恥ずい……。
 
「う、うん」

 2人で駐輪場を出て、歩き出す。

「あっ!あのね!と、トイレ行ってきてもいい……?」

「ん?あ、ああ、構わんが。すぐそこの駅中にあるし……」

「すぐに帰ってくるから!」

……なんだ?トイレって言うのが恥ずかしかったのか?
言葉通りにすぐに戻ってきたのだが……眩しいものが目を覆い尽くす……。

「えへへ……ど、どうかな……?ミニスカート……着替え持ってきたの……だって可愛い格好でデートしたいもん」

……グハッ!?萌え死ぬ……!
色々な意味で……!
発言も可愛いし、赤いミニスカートから黒タイツ……どストライクだ!

「可愛い、ずっと見てられるくらいに……」

「ふえっ!?そ、そんなに……?えへへ~、頑張って良かったぁ」

いかん、早く動こう。
でないと、このまま抱きしめてしまいそうになる……!

「ゴホン!!……とりあえず、本屋か。あと……言いたいことや、してみたいことがあれば言ってくれ。もちろん、俺も察するように努力はするが」

「う、うん!エヘヘ、優しい……してみたいこと……」

 綾は、手をブラブラし始めた。
 ……これは、そういうことか?

「綾、手を繋ぐか?」

「……エヘヘ、気づいてもらえた」

 ヤバイな……冷静を装っているが、今すぐに壁をぶん殴りたい気分だ。
 もしくは、思いきり抱きしめたい……!

「ほら、どうぞ」

「う、うん。失礼します」

 手と手が繋がれる。
 その瞬間、感じたことのない衝撃が走る……!
 なんだ?これは?嬉しい?……幸せか?
 そして、ムズムズする……!
 気恥ずかしいのか?
 ……よくわからないが、綾が喜んでるから良いか。

「エヘヘ、嬉しい。ずっと、こういうのしたかったの」

「そうか。まあ、良いものだな」

 2人手を繋いだまま、行きつけの矢倉書店へ入る。

「いらっしゃいませー……あら?吉野君、今日は発売日じゃないわよね?それに、女の子連れて珍しいわねー」

「矢倉さん、こんにちは。すみません、今日は買いに来たわけではないんです。その、彼女が出来まして……ここに来たいと言われまして。冷やかしで申し訳ありません」

「あららー!そういうことなのね。フフ、あの冬馬君に彼女かー……歳をとるわけね」

「何を言うんですか。まだまだ、お若いですよ。ほら、綾」

 理由はわからないが、綾はポカンとしていた。

「え!?う、うん。清水綾といいます。よろしくお願いします」

「綾ちゃんねー。あら、可愛い子ね。冬馬君も隅に置けないわー。そういうの興味なさそうだったのに」

「俺も、そう思ってたんですけどね……まあ、心境の変化ということです」

「若いって良いわねー。変われるものね。じゃあ、ごゆっくりどうぞー」

「ありがとうございます。お仕事中に、失礼しました」

 その後、店内を一周して、自分の好きな作家や作品などを教える。

 そして、冷やかしで申し訳ないので、すぐに本屋を出る。

 ところで……気になることがある。

「なあ、綾」

「………むー……」

 何やら膨れている……可愛いのだが、どうしたんだろうか?

「機嫌悪いのか?俺が何かしたか?」

「……ごめんなさい!冬馬君は悪くないの……ただ、あの綺麗な大人の女性と仲よさそうだったから……少し、嫉妬しちゃって……ごめんね、めんどくさいよね……」

 ちょっと可愛すぎないか?
 なにこれ?どうすんの?
 俺、耐えられる自信無くなってきたんだが?

「いや、嬉しいが。だから、気にしなくていい」

「え!?いいの……?そうなんだ……エヘヘ」

「そりゃそうさ。好きな子に嫉妬されるなんて、男冥利に尽きるじゃないか」

「す、好きな子……」

「ほら、次行くぞ。手繋ぐか?」

「うん!」

 次は、喫茶店アイルで昼食を食べる予定だ。

 さて、デートはまだまだこれからだ。

 そして、己の自制心との戦いも、まだまだこれからだ。

 何故かというと、アイルの後にはアレが待っているからだ。
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