静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

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冬馬君は天秤が傾き……

決戦は金曜日~前編~

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 今日は、いよいよ8月1日。

 清水と一緒に、花火を見る約束の日だ。

 あの誘った日から、俺はバイトを詰め込み、学校の宿題も終わらせた。

 この俺が、小説やゲームを封印してまで……!

 ……これで、フラれたらただのアホだな……。

 ……考えるのはよそう。




「お兄ー!?浴衣着れたー!?」

「ああ!大丈夫だ!……やれやれ……紺の浴衣か……母さんの形見の品だな」

 正確には亡き祖父さんの形見か……。
 母さんの両親は、すでに他界している。
 幸いと言っていいのかはわからないが、母さんより先に……。
 母さんは一人っ子だし、遅くに産まれた子供だったからな……。

 俺はそんなことを思い出しながら、一階のリビングに入る。

「わー!お兄!カッコいいよ!ウンウン!肩幅あるし、髪型も良し!妹審査は合格です!」

「そうかい、ありがとよ。じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい!お兄!ヘタレちゃダメだよ!?」

「わかっているよ……ああ、わかっている」

 妹には、清水と西武遊園地に行くとしか言っていないのだが、バレているようだな。

 なんだ?自覚がないだけで、側《はた》から見たらバレバレだったのか?

 ……それは恥ずいな。

 そんなことを考えながら、バスに乗り、駅へ向かう。

 バスからおり、駅に行くと、同じような格好の人達が多くいる。

 皆、目的地は同じだろう。

 待ち合わせしたカップルや親子連れがいるな。

 ……まさか、自分がそちら側になるとは思ってもみなかったな……。

 別に冷めた視線を向けていたわけではないが、自分には関係ないことだと思っていた。

 俺はエスカレーターに乗り、待ち合わせの改札前に向かう。

 さて、清水はどこにいるかなっと……いた……マジか……。

 人の混雑した改札前で、そこだけには人がいない。

 皆が、遠巻きにチラチラと見ている……。

 それも、そのはずだ……浴衣姿の、とてつもなく可愛い女の子がいるのだから……。

 水色の浴衣に、髪を後ろで纏めている……。

 ……なんだ?身体が動かない……?

 ……見惚れている?緊張している?

 ……いや、両方か。

 俺は、一度深呼吸をして、自分に言い聞かせる。

 ……冷静に……挙動不審になるな……惚れた女の子の前で、情けない姿を晒すな!!

 俺は背筋を伸ばし、胸を張って、姿勢を正し、顔を上げる。

 そして慌てず、ゆっくりと近づいていく……。

 すると、清水がこちらを見る……そして、輝くような笑顔を見せる。

 ……めちゃくちゃ可愛いんだが?え?俺、今からあの子とデートすんの?

「吉野君!!」

「ごめんな、待ったか?」

 一応、10分前には来たんだけどな……。
 ていうか、デートっぽい台詞だな、今の……。
 ……落ち着け……!

「ううん!待ってないよ!」

「え?あの子30分前からいたよね?」

「私は、てっきり何かの撮影かなと思って……」

「まあ、あんな綺麗な子じゃ、彼氏いるわなー」

 清水は周りの人達の言葉に、恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。

「……おい?俺は時間を伝えたぞ?」

「……ご、ごめんなさい……つい、楽しみで……」

 ……なんだ?この可愛い生き物は……!

「そ、そうか。あー……とりあえず、行くか」

 ダメだな……冷静を保てそうにない……。
 ……いや!しっかりしろ!まだ、始まってもいない!

「う、うん……」

 2人で改札を通り、電車がタイミングよくきたので、そのまま乗り込む。

「大丈夫か?」

「は、はい……」

 混んでいるので、どうしても密着をしてしまう。
 もちろん、清水を電車の入り口の横に誘導して、俺が壁になる。

 ……息ができない、距離が近い……俺、臭くないか?大丈夫か?
 ……それにしても……綺麗だな……ずっと見ていられるな。

 そして、降りる駅に到着する。

俺は素早く外に出て、清水に手を差し出す。

「え……?」

「ほら、後ろ詰まってるから。その履物じゃ危ないからな」

「は、はい……」

手と手が触れ合うが……柔らか!?なんだ!?これ!?

無事に降ろして、手を離して歩き出す。

「あ、ありがとう……」

「……どういたしまして」

……いかんな、手の感触が……。

そのまま、遊園地に向けて並んで歩く。

「へ、変かな?私の格好……」

「うん?どうしてだ?」

「……その、ずっと見てたから……」

 俺としたことが……!バレてた……いや、それ以前の問題だったな。
 まず、1番にいうべきことを言っていない。

「いや、似合ってると思ってな……その浴衣、よく似合ってるよ。それに、髪型もな」

「え……?そ、そっか……エヘヘ。ありがとう、吉野君も似合ってるよ?」

「そ、そうか」

 ダメだ……笑顔が可愛すぎて、まともに見れない……!
 俺は、よく今までまともでいられたな……考えられん!

 2人並んで、無言で歩く……気恥ずかしさは感じるが、不思議と気まずくはない。




 そして、花火が見えるところにやってくる。
 もちろん、案内したのは、俺の隠しスポットだ。
 ここなら、人は近くにいない。
 その分花火は見ずらいが、そっちがメインじゃないしな。

「へー!こんな場所あるんだね!凄いね!」

「まあな、地元民ならではだな。母さんと、よく来たもんだ」

「そうなんだ……」

「おいおい、気にしすぎだ。明るい話だよ。もう、大丈夫だ」

「え?……思い出すの辛かったんじゃないの……?」

「やっぱり気づいてたか……まあ、誰かさんのおかげで吹っ切れたよ」

「え……?それってどういう……」

「ほら、始まるぞ」

 ヒュルルー……ドーン!!と音が鳴り、花火が夜空を彩る。

「わー!綺麗!!すごいね!私、いつも人が多いところでしか見たことないから!」

「そうか、なら良かったよ。連れてきた甲斐があるな」

 全く……無邪気な笑顔を見せやがって……お前の方が綺麗だよ……。

 ……我ながら、なんという台詞……。

 これが、恋をするというものか……すごいな、価値観が変わってきそうだ。

 そして、2人で並んで座り、じっと花火を見つめる。

 清水は花火に夢中になっている。

 俺は正直言って、それどころではない。

 もちろん、清水の横顔に見惚れていることもある。

 でも1番の理由は、この花火が終わり次第、告白をするからだ……。

 もちろん、ここまできて日和ることはない。

 だが、緊張するのは致し方ない。

 なにせ、初めての経験だからな……。



 そして、花火の音は鳴り止む……。

「凄かったね!綺麗で!吉野君と見れて嬉しい!!」

「……そうだな、俺も清水と見れて……嬉しいと思う」

「え……?そ、そっか……あ!あのね!」

「清水、話があるんだが……いいか?」

「え……?吉野君……?」

 古臭いかもしれないが、これだけは譲れない。

「……清水、いや、綾。好きだ……俺と付き合ってくれ」
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