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冬馬君は天秤が傾き……

冬馬君は決断する

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 さて、あれから1週間が経過し、6月の第3週の休みを迎える。

 俺は、バイトや自分の趣味に時間を使いつつも、清水との交流を深めていた。

 まあ、メールしたり……あと、電話を初めてしたな。

 そのことにより、俺はある考えに至る。

 学校でも、俺は変わろうとしている。

 もちろん、いきなり変わったら変に思われるので、少しずつだ。

 朝の挨拶をしたり、清水と話したり、前の席の田中君と話してみたり……。

 まあ、その程度だ。

 相変わらず、ぼっち好きに変わりはないしな……。




 そして、今週の土曜日も清水の家に来ている。

 だが、今日はいつもとは違う。

 何故なら、今日は誠也はいない。

 お母さんはいるようだがな。

 まあ、つまり……今日は、清水の部屋でお勉強会なのだ……。

「あのね、ここわかんなくて……」

「ああ、それなら……」

「あ、なるほど。ありがとう!」

「お、おう」

 ことの発端は、先週の清水の家での会話だった。




「ねえ、吉野君。国語って得意だよね……?」

「うん?まあ、得意だな。クラスでトップだったこともあるな」

「そうだよね……あの……もし、よかったらでいいんだけど……」

「お姉ちゃん、モジモジしてどうしたのー?」

「誠也!ダメよ!今、綾は戦っているのよ!」

 ……なんというか……愉快な家族だ。
 でも、良いものだな。

「わ、私に勉強を教えてくだしゃい!!……あぅぅ……!」

 ……思いっきり噛んだな……まあ、可愛いからいいのだが。
 うん、これは確かめる良いチャンスかもしれないな。

「いいぞ。ただ、清水学年でもトップ5じゃなかったか?」

「そうなんだけど……国語だけ低いの……本好きなのに……」

「別に国語低くても、本好きでいいだろ。いいよ、俺で良ければ教える」

「ほ、ほんと!?嬉しい……!」

 本当に嬉しそうな顔しやがる……まいったな、これは……。





 そして、今に至るわけだ。

 はい、ここで問題がある。

 ……女子の部屋入るの初めてなのだが?
 何故に、こんな良い匂いがする……?
 妹の部屋では、こんな匂いしないぞ?
 見た目は、ごくごく普通の部屋なのに……。
 清水の部屋というだけで、落ち着かない……。

「吉野君、どうかしたの?」

「……いや、割とシンプルな部屋だと思ってな……あ、悪い意味じゃないからな?」

「ホッ……良かったぁー……うん、あまり色々置いたり、キラキラしたのは苦手なんだ」

「なるほど……」

 すると、ドアが開く。

「はいはーい!お菓子とお茶入りましたよー!」

「お母さん!ノックくらいしてよー!」

「あら?いいじゃない!別に、キスでもしてたわけじゃないんでしょ?」

「キ、キ、キ、キ……!!」

「おい、お前はキツツキか?落ち着け。このお母さん、遊んでるぞ?」

 ……という俺も、正直ドキっとしたがな……。

「あら?つまんないわねー。でも、それぐらいなら許すから!」

 そう言い残し、部屋を去った。
 何やら、二人で黙り込んでしまう……。
 ……いや、この空気どうすんの!?
 俺だって冷静ではないんですけど?

「お、お母さん、何言っているんだろね?ご、ごめんね……?」

 清水の顔は真っ赤になっている……俺は平気か?

「……いや、気にするな。楽しいお母さんで、良いと思う。少し、昔を思い出す……」

 母さんが生きていたら……女の子を連れてきた俺に、どんな反応したのかな?

「そういうの見るの……辛いかな……?」

「いや、辛くはない。不思議とな……ああ、良いなぁとは思うがな」

「そっか……」

「……母さんがな……」

「え……?」

「もし生きていたら、どんな反応したのかと思ってな。その……女の子を連れてきたらな。結構、写真とは違ってな……ビシバシ言う人だったんだぜ?」

 俺は今、初めて母さんの話をしている……。
 死んでから今まで、家族以外には誰にも話したことはない。
 アキにも、真司さんにも……。
 人から聞かれることはあったが、上手くはぐらかしてきた。
 話すのには、覚悟がいるから……じゃないと、涙腺が崩壊してしまう……。
 だが、俺は今、自然と話せる気がした。
 もしかしたら、清水が一度も母さんについて聞いてこなかったからかもしれない。
 だから、少し気持ちの余裕が出来たのかもしれない……。

「……そうなんだ」

「ああ、結構叱られたな……女の子には優しくしなさい!とか、喧嘩しちゃダメです!とか」

「ふふ、そうなんだね。あれ?でも……」

「そうなんだよ。俺は一度、母さんとの約束を破った……喧嘩に明け暮れ、家族を頼むと言われたのに、出来なかった……」

「吉野君……」

「母さん、怒ってるかな?」

「……どうかな?吉野君の中のお母さんは、なんて言ってる?」

「……もう!しょうがないわね!とか言ってそうだな」

「なら、それが答えなんじゃないかな?」

「そうか……ありがとう」

「ど、どういたしまして……エヘヘ……」

 その後、勉強に集中して帰宅する。



 夕飯を食べ、俺はリビングで考えていた……。

 そして妹が風呂に入り、親父もまだ帰ってきていないタイミングで動く。

 和室に行き、お仏壇の前に正座する。

「母さん……今日、久々に母さんの話をしたよ。なんとか、泣かずに話せたと思う。その子は、とても良い子なんだ。家族思いだし、笑顔がとても素敵な子だ。何より……俺はその子といると、自然体で落ち着いていられるようなんだ。でも、近くにいるとドキドキする……きっと母さんはいうかな?今更よって……そうだね、もう逃げないよ。大丈夫、もう覚悟は決めたから……」

 俺はこの間、電話した時に思った……また、声が聞きたいと。

 ……そして、会いたいと。

 さらに、今日で確信した。

 俺は、清水のことが好きなんだと……。

 あとは、本人に伝えるだけだ。
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