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冬馬君は天秤が傾き……

冬馬君は回想する

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 あれは、母さんが死んでから二ヶ月くらいだったかな……。

 俺は家にいたくなく、夜な夜な街にくりだしていた。

 何回か絡まれたが、全てを返り討ちにした。

 既に身長も170くらいあったし、自分でも驚いたが腕っ節も強かったようだ。

 そんな時、夜の街でとある男に出会った。

「おい!おまえか!最近暴れている中坊は?」

「あぁ?なんだよ、お前もやるか?」

「ほう?俺にそんな口聞けるとは、良い度胸しているな?よし、場所変えるか」

 その後、ヤンキー達が集まる集会場に連れてかれた。

「お、ビビんないか。ますます、度胸あるな」

「いいよ、そういうのは。やるなら、ささっとやろう」

「おい!テメー!真司さんに向かって……!!」

 真司……?どこかで聞いた覚えが……。

「よせ!気に入ったぜ。じゃあ、始めるとするか」

 そして、喧嘩が始まった。

「オラァ!!」

「チィ!!」

 その男は、それまで相手にしていたなんちゃってヤンキーとは桁が違った。
 拳も重く、そして熱さを感じるものだった。

「ハッ!やるな、クソガキ!」

「そっちもな!オッサン!!」

「俺はまだ、21だ!!」

「十分オッサンだよ!」

 その後、殴り合いを続け、俺は初めて負けた。
 そして、リンチされるかと思ったが、そうはならなかった。

「おい!こいつ、強えぞ!?」

「真司さんと真っ向勝負で、ここまでやるとは……」

「おい!坊主!!やるじゃねえか!」

 そしてその男は、問いかけてくる。

「おい!小僧!名前は?」

「……吉野冬馬……アンタは?」

「俺の名前は、名倉真司だ……冬馬……吉野……あ!お前、冬馬か!?」

「……名倉真司……もしかして、真兄か!?」

「なんだよ!お前かよ!早く言えよなー」

「いや、問答無用で連れてきたのはそっちでしょ」

「ハハ!それもそうだな!悪かったな!」

 その名倉真司という人は、小さい頃によく遊んでもらった人だった。
 コミニティーセンターという、そこに住む人々が利用する施設がある。
 そこには、子供達が集まる場所もあった。
 絵本があったり、おもちゃがあったり、卓球台なども置いてあった。
 その場所で真司さんは、みんなの兄のような存在だった。
 よくボランティアで、俺らの相手をしてくれていた。

「なんだよ……喧嘩して損した。昔から、真兄強かったもんな」

「いや、お前も強いさ。歳の割にはな。おい!こいつは、俺の弟分だ!!手を出したら、ただじゃすまねえからな!!」

 すると、集まっていた一部の人達が、去っていく。

 真司さんは教えてくれなかったけど、後から他の人から聞かされた。
 実は、俺はそいつらに狙われていたらしい。
 最近生意気な奴がいるということで、リンチしようと。
 それを知った真司さんは、俺に声をかけた。
 もう成人しているので、捕まるリスクがあるのにもかかわらず……。
 ましてや、大学卒業間近だったのに……。
 そして自分の弟分にすることで、俺をリンチから守ってくれたと。

 俺は、すぐに真司さんに問いかけた。

「なんでだ!?どうして、そこまでしてくれる!?」

「なんだよ、あいつ。喋りやがったか……」

 そして、真司さんは答えてくれた。

 自分は中学の時に両親が離婚したと。
 妹は母親に、自分は嫌いな父親にということなったと。
 その息苦しい生活に耐えられなくなり、俺と同じように夜の街に行っていたと。
 そしてリンチされそうなところを、ある人に助けてもらったと。
 だから、自分も同じようにしたかったと。

 ……最後に、俺の寂しそうな目を見て、ほっとけなかったと……。
 昔の自分を見ているようだと……。
 そして俺は、真司さんに話した。
 母親が死んだこと、家にいたくないこと、でも妹や父親は大事なことなど。

「そうか……だから、俺は……。冬馬、好きなだけここにいていい。タイマン以外のことは、俺に任せろ。だが、必ず家には帰れ。妹や、親父さん好きなんだろ?」

「真兄……ありがとう。俺は、真兄に何が返せる……?」

「馬鹿言うな、そんなもんいらん!……ただ、同じように寂しそうな奴がいたら、相手してやんな。自分がそうされたようにな……」

 その後、真兄は大学卒業を迎え、夜の街から消えた。
 同時に俺も夜の街から卒業し、とある小説に出会い、その道に進むことになる。






「まあ、こんな感じかな?その後、高校で再会した時は驚いたなぁ……」

「グスッ……」

「お兄……!」

「おいおい、2人して泣くなよ」

「だって……吉野君も、先生も……良い出会いだったんだね」

「お兄!私、お礼言いたいです!!」

「そんなもの求めちゃいないよ、あの人は……まあ、一応伝えておくよ」



 その後、泣き止んだ清水が言う。

「だから、誠也に……」

「ん?……まあ、そうだな」

「そっか……私も先生に感謝しなきゃだね。誠也、本当に嬉しそうだもん。もちろん私も」

「そうだよ、今日は良かったのか?誠也の風邪は?」

「うん、大丈夫。もう、すっかり元気だよ。ありがとう」

「もう!聞いてよ!綾さん!お兄昨日ずぶ濡れで、ムー!!」

「おい、馬鹿!!」

「……吉野君……?」

 口を塞いだが、遅かったか。
 ヤバイ……初めて見る顔だ。
 これは、怒っているな。

「悪かった、昨日は嘘をついた。カッパは持っていなかったが、清水を濡れて帰らすわけにはいかなかった。俺がただ、カッコつけたかっただけだ」

「吉野君……そんなこと言われたら、何も言えないよ……。それに、元々悪いのは私だし……。こめんね、吉野君、麻里奈ちゃん。私に傘を貸しちゃったから……」

「あ、さっきの傘はそういう……お兄!偉い!妹は感激です!」

「おい!病人の背中をバンバン叩くな!」

「……ふふ、仲良いね。あの、私……挨拶してもいいかな……?」

「ん?誰に……ああ、そういうことか。良いよ、母さんも喜ぶと思う」

「そ、そうかな?じゃあ、失礼します」

 隣の和室に部屋に入り、清水は仏壇の前に座る。

「吉野君のお母さん、初めまして。吉野君の……友達の清水綾といいます。吉野君は……私にとってのヒーローです。危ないところを助けてもらったり、自分の傘を私に貸してくれたり、大切な弟に優しくしてくれたり……ありがとうございます。吉野君を産んで、かっこよく優しい人に育ててくれて……きっとこのお写真のように、優しく笑顔の素敵なお母さんだったのですね……おかげで、私はこうして無事でいられます」

「清水……」

「お兄、泣いてるの?」

「何言ってんだ、泣いて……あれ?」

 気がつくと、涙が出ていた……。

「あれ?よ、吉野君?どうしたの?」

「いや、すまん。母さんを思い出した」

「そっか……」

「全員、泣いちゃったね!」

「そうだな……」

 その後、清水は帰った。
 俺が病み上がりなのに、長居すると悪いからと。

 俺は部屋に戻り、考えていた。

 また、嘘をついてしまった……。

 言えるかよ……お前の言葉に感動したなんて……。
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